※ネタバレなし。
※画像は予告映像のキャプチャです。
2019年3月8日鑑賞
運び屋
The Mule
【評価:4.5/5.0】
【一言】
クリント・イーストウッドの名演!
骨と皮だけの腕、皺だらけの顔で演じる「90歳の老人」が素晴らしかった!
気難しそうな作品だけど、蓋を開ければ中身はコミカルにも映る内容でとても観やすく面白い!
【Twitter140文字感想】
【 #運び屋 】
90歳の老人が13億円の麻薬を運ぶ。
NYT記事の実話を基にした映画。老いしC.イーストウッドの名演!
“枯れ木”同然に痩せ皺だらけの身体。
そこから溢れるエネルギーの凄み。ユーモアを感じるロード・ムービー!
紆余曲折を経て、長い時間と距離を走った先に気が付く「家族」の物語! pic.twitter.com/9bUZ3fn1py— ArA-1 (@1_ARA_1) 2019年3月9日
感想
感想外観
クリント・イーストウッド監督、そして主演の本作は、小難しそうなイメージを抱いていたものの、真逆の作品!
『グリーンブック』に続き、非常に素晴しいロード・ムービーでした!
特別映像 クリント・イーストウッドインタビュー
何よりも、クリント・イーストウッドその人の演技が本当に素晴らしかったです!
演技から感じられる「本物感」ともいうべきオーラ?雰囲気?凄み?が、老いてもなお鋭利なままで、本当に凄い“映画人”ですよ。
麻薬の運び屋をする90歳の老人。
その様子がコミカルなほどユーモアたっぷりに描かれていて、とても好きなタイプの作品でした!
呆けている訳ではないけれど、麻薬カルテルをコケに出来るような話術と脳天気なまでに身勝手な“お爺さん”が最高でした!
そしてまた、家族の物語でもありました。
ずっと家族よりも仕事優先で生きてきた老人が、麻薬の運び屋をする。その中で、「家族の大切さ」に気づいていく過程が、とても丁寧でした。
麻薬は米国社会でも非常に大きな問題。
本作は、NYタイムズによる新聞記事に基づいて制作された映画です。
これまでは麻薬戦争やギャング抗争、麻薬常習者が主題の作品を多い印象なだけに、「運び屋」というテーマがとても印象に深く残りました。
名人:クリント・イーストウッド
監督の映画を観る度に「凄い人だな」と毎回心の底から思います。それは今回も全く同じでした。
2019年現在、御年88歳。
今後、何作撮られるのか分かりませんが、本作もまた監督の名作に数えられると思います!
そして、イーストウッド監督の演技!
演じたのは90歳の運び屋で、監督自身は88歳。
意図してかせずしてか、監督自身と重なるような場面や台詞が何度も登場し、ジーンとしました。
それでなくとも、痩せこけた身体に骨と皮だけになり血管が浮かび上がる細い腕、疲労と苦悩がそのまま刻まれたかのような顔の皺。
失礼な言い方をすれば、「枯れ枝」同然のその身体から生み出される、演技のエネルギーがとにかく凄い!
衰えを感じさせないばかりか、自らの肉体を逆手に取って役に入り込み、「凄み」すら感じせる名演を披露して下さいました!
ヨボヨボと歩き、喋る声には掠れが交じるけど、瞳に宿る鋭さと、研がれた演技は本物です!
それから、劇中では監督演じる老人アールと、監督自身が重なるような場面や台詞が何度も登場して、ジーンとしました。
「なんでも買えるのに、時間だけは買えなかった」
88歳になる監督自身が、自らに言い聞かせるようにも思えてしまうのは、私だけではないはずです。
(意外と)コミカルな運び屋の老人
NYタイムズの記事も基に、麻薬に関する映画であると聞いたときは正直、「重々しい社会派映画』だろうと思っていました。
しかし、実際に蓋を開けてみれば、イーストウッド監督演じる老人「アール」に釘付けになるくらい、コミカルで魅力的な映画でした!
ともすれば、ロード・ムービー。
えぇ、良質なヒューマンドラマ・ロード・ムービーですよ!
呑気で社交的で、少し自己中心的なアールが、「車を運転するだけの簡単なお仕事」を受けて走り始めるわけです。
行く先々で、さらには回数を重ねるごとに、色々な出来事が起こり、様々な変化が起こる。色々な人とも出会うし、人々を振り回したりも。
「ハプニング」とは呼べないけれど、小さな積み重ねが大きな変化を呼ぶ、まさにロード・ムービー!
Toby Keith “Don’t Let The Old Man In”
そしてやっぱり、コミカルさは監督演じるアールの存在がめちゃくちゃ大きい!
齢90のお爺ちゃんに怖いものなんてないのか、ギャングに説教を迫る勢いで接し、ジョークを飛ばしたかと思えば、コケにする。
お爺ちゃんらしい、無意図的な言動や寄り道とかがとても面白い!
麻薬カルテルのギャングも、そして我々観客さえも巻き込んで自分のペースにしてしまうからこその、面白さがありました!
90歳も超えた老人。
「インターネットはくだらん!」と批判しつつも、スマホを手にして「文字は打てるようになった!」と言っている辺りに、コミカルさが象徴的に現れているように感じます。
「家族の大切さ」に気づく人生の最後
主役のアール。
彼は90歳になるまで自らは農園の花に時間を愛情を注ぎ、家族と過ごす時間をことごとく外してきた人生。
気がつけば、妻との結婚記念日を祝うことなど等にせず、娘は入学・卒業・結婚と自らの人生を着実に歩み、さらには孫が生まれ、孫もまた入学・卒業・交際と人生を進んでいく。
そんな状況の中で、アールは家族との時間を一緒に過ごすことなく、ただ黙々と自分の仕事をし、好きな農園の世話をし、地域の集まりに顔を出したりという生活。
アール自身、そして家族のことが映画の中でしっかりと丁寧に語られていて、とても良かったです。
別に家族との時間を「避けている」わけではないと思う。
そして、家族との間が「すれ違った」のでもないと思う。
アールの人生の中いおける「大切なもの」の優先順位が、ただ「仕事」が一番だっただけで、その仕事もまか家族を養い糧とすべきものだと考えていたと思います。
彼には「時間がなかった」し、その中で自分が大切だと思ったことをやっていた。そういう部分では、誰も責められないのかもしれない。
映画『運び屋』本編映像 アドバイス編
しかし、家族からすればまた違う。
妻、娘、孫の目に映るのは、何よりも大切であるとされる家族から遠ざかり、自分のしたい仕事に熱中する父親の背中だけ。
「家族」という他人の人生を背負う仕組みの中に身をおいたのに、アール自身の人生以外には関わろうとしない、そんな姿が映ったのではないかと感じました。
家族でありながら、まるで他人のように距離が隔たる彼ら。
そんな距離を、物理的にも、心理的にも埋めていく────いや、そもそも、その「距離」に気づいていくところから、アールの”変化”と”心の内”が丁寧に、そして静かに描かれて、とても心地よかったです。
「麻薬と老人」という米国社会の問題
「麻薬」と「老人」という問題。
一方は犯罪であり、一方は社会的な問題であろうこの2点を軸に、米国社会における様々な問題を描いていると思いました。
とか言いつつも、犯罪学者とか社会アナリストとかではないので、知っている知識と感覚だけの感想ですが。
まず、「麻薬」。
麻薬を扱った映画は無数にあるでしょうし、最近ではメキシコのカルテルとの麻薬戦争を描いた『ボーダーライン』が印象深く残っています。
しかし、本作はこれまでの作品と全く違うものでした。
(「あくまで私の知識」と前置きをし、)従来の作品では、『ボーダーライン』のように「麻薬戦争」を描いたり、「麻薬常習者」を主人公に据えたり、もしくは「アイテム」として麻薬を使用したりする程度だったと思います。
ところが、本作は「運び屋」。
アール自身は麻薬を一切せず、交通違反切符も含めて犯罪歴ゼロの模範的な一般市民。そんな彼が、運び屋をし、史上最高とも言われる13億円相当の麻薬を一度に輸送する事態にまで発展します。
この凋落が、凄まじい印象となって脳裏に焼き付きました。
それから、「老人」。
まぁ正直、高齢者問題はどこの社会でも問題だと思いますけど。米国の場合は「退役軍人」という日本とはバックグラウンドの違う高齢者が沢山いて、そのサポートや生活整備等が問題になったりしています。
本作劇中でも、アール自身が退役軍人であることもあり、そこに触れられています。
あとは、「アメリカ_老人_孤独」と検索すると「自立死」という単語が出てきます。福祉は自己責任というイメージが強いですが、退役軍人支援や低所得者への支援など、地域ごとに活動するボランティアやNPOが多く、さらに個々人の意志もはっきりしているというような点がに日本とは違うと言われます。
そういうような点も、この映画を観ていると自然と浮かび上がってくるはずです。
あとは、「ギャング」の問題でしょうか。
これはイメージ通りかもしれませんが、米国内ではもちろんギャングや麻薬売人のような人たちがいます。そして、彼らは一般人の生活のすぐ隣に潜んでいます。
本作では、アールが麻薬を受け取りにいく受け渡し場所が、ガソリンスタンドの車庫やモーテルの駐車場など、ごくありふれた日常風景にあり、そのことを如実に思い出させました。
名優たちと魅力的な登場人物
出演している俳優方、凄かったです!
とは言いつつ、私自身はあまり俳優さんには詳しくないのですが。
男性陣の方は、監督のクリント・イーストウッドを初め、最近では『アリー』で脚光を浴びたブラッドリー・クーパー、様々なドラマや映画に出演するローレンス・フィッシュバーン、『オーシャンズ』でカジノ主を演じたアンディ・ガルシア、アメコミ『アントマン』のマイケル・ペーニャ……等々と豪華!
女性俳優さんの方はなかなか詳しくないのですが、映画で活躍されてアカデミー賞にノミネートや受賞されている方、様々なドラマの主役に出演されていたりと、凄い方ばかりでした!
映画『運び屋』特別映像 捜査編
登場人物の方もとても魅力的でした!
この点はあまり詳しく書くとネタバレになりかねないので簡単に。
イーストウッド監督演じる老人アールのキャラは最高だし、彼をサポートするギャングのメンバーもなかなか好ましい印象でした! 家族の内面を詳しく描いていたし、麻薬取締官らの様子も丁寧に描かれていました。
やはり、アールの性格が良いからなんですかね?
老人版「トランスポーター」(笑)
ちょっとこれは、映画を観た瞬間から書こうと決めていたんですよ(笑)
予想通り「難しく真面目な映画」ならこんなふざけたこと書きませんが、コミカルさが有り難いことに成分多めだったので、書いちゃいます(笑)
もはや、「運び屋」といえばジェイソン・ステイサム以外にはいないとさえ思えるほど、イメージ強いのが、映画『トランスポーター』シリーズ。
3つのルール + 1つの約束
① 契約厳守
② 名前は聞かない
③ 依頼品は開けない
④ シートベルト着用
これが頭から離れませんでした(笑)
これが意外と、本作にも当てはまっちゃうんですよね(笑)
────「運び屋なんだから当然」みたいなツッコミは無しで(笑)
①はギャングから「時間守れ」と脅されます(笑)
②もまたギャング側は名前を明かしたのか、偽名なのかは不明ですが、普通にやり取りしていますね。
③を守っていたというか、アール自身が興味なさそうだったというか。実際、アールは麻薬を運んでいるということにどこまで気づいていたのでしょう?
④を一番守っていたような気もします(笑) これまで交通違反切符を一度も切られたことない彼は、いつも安全運転でしたね(笑)
……書いては観たものの、大した感想にはならなかったです(笑)
映画を観ているときは凄くジェイソン・ステイサムとクリント・イーストウッドが重なったりする瞬間があるのですが、冷静に考えると、そうでもない???
以降、映画本編のネタバレあり
映画の感想
※ネタバレあり
アールがとてもいいキャラ!!
最初は気難しくて面倒くさい堅物なお爺さんかと思っていたら、とてもユーモラスで好印象なキャラクターでした!
ご老人ならではの貫禄と、全てに対するゆるい考えというか、何事にも動じない心持ちというか、とにかく強いキャラクターですね!
あのヨボヨボした動き方も相まって、とてもいいキャラでした!
例のエピソードを挙げたらキリがないくらい。
個人的にはやっぱり、ギャングとのやり取りが好きですね!
大体、ガレージの中に銃を持った入れ墨筋肉巨漢が何人もいるのに、平然としていられること自体がまず凄いですよ。肝が据わっているというか、下手したら痴呆かと思いたくなるほど。
さらに、段々と慣れていく過程も面白いです!
ずっと「インターネットはくだらん!」といいつつも、スマホを見せながら「文字は打てるようになったが…..」と回数を重ねるごとに随分と大きな進歩じゃないですか(笑)
ってか大前提として、「車を運転するだけで金になる」なんて詐欺の象徴のようなキャッチフレーズに騙される人がいるんですかね?
このアールは、「荷物なんて覗かない」と純粋というか真っ直ぐというか、むしろ他人に興味がないというほど無関心な様子。
これもまた、面白いキャラクターなのかもしれません!
荷物が麻薬だと知った後も、「金が必要だからもう一度だけ」と何度も運び屋を請け負うシーンを、お茶目に描き出してしまうから凄いです!
有限な時間の中、「家族」に気がつく。
麻薬の運び屋という点が大きな印象に残ると思っていたら、より大きな印象を残したのは家族のことでした。
やっぱり、この映画で描きたかったことは「時間」と「家族」だったと私は思います。
愛した妻が重病だと孫から連絡がはいる。
ギャングに「計画通り運ばなかったら殺す」とまで言われているにも関わらず、アールは仕事を中断してまで自宅に駆けつけます。
そして、家族もどこか期待していたんでしょうね。
戻ってきたアールに対して言葉を投げかけはするものの、拒まず、妻との最後の時間を一緒に過ごさせてやる。
ずっと離れていたけれど、やっぱり家族の間には「愛情」とか「信頼」とかがあるんですね。
そして、床に伏した妻が口にした言葉。
「そばにいるためにお金は必要ない」
それまで、運び屋をすることで大金を稼いでいたアールも、その言葉に目を覚ましたよう。ずっと放っておいた妻が、それでも自分自身を愛してくれていたということに気がつけたのかもしれません。
その前に、アール自身は気づいていたのかも。
モーテルで麻薬取締官ベイツに会い、翌日にカフェで「記念日」を忘れたベイツにその大切さを説くアール。
人生の先輩としてベイツに説教をしているようでありながら、自分自身の過去を顧みながら、反省というか、後悔の念が感じられて、アールの話に聞き入ってしまいました。
ギャングがまた独特の良さを出していた!
本作に登場したギャングのメンバー、めっちゃいい人たち!
ギャング自身の良さもあったし、アールの人柄もありましたよね!
まず、ガソリンスタンドのガレージにいるギャング達。
最初は怖そうな見た目だったけど、アールに対して「じいさん」と親しげに話しかけて、馬鹿かにするようよりは敬意すら感じる爆笑をしていて、本当に印象良かったです!
アールにスマホの使い方を教えたり、新車を褒めたり、子持ち役に派遣されたギャングに対して嫌悪感を顕にしたりと、庶民に近い印象を持ちました!
子守役に派遣されたギャングも良かった!
最初のコンビ、サルとその相方(名前忘れた)。
初めは計画通りに運転させようとしたり、勝手な行動をとるアールを殺そうとボスに掛け合ったりしますが、回を増すごとにアールの魅力に引き込まれていく様子がよくわかりました。
新しく変わった、強面の2人。
「計画を破ったら殺す」と脅して一巻の終わりかと思いきや、「妻の葬式は仕方ない」とボスに掛け合ってくれるなど、とても優しい!
ギャングの気質というか、仲間意識というか、そういうところって本当に好きだな~と思います!
映画『運び屋』本編映像 監視編
アールの言動がとにかく大好き!
アールの言動がとても大好き!
自由気ままに行きながら、社交的で他人を助ける精神を持っている部分は、(家族を放っていた点を除けば)とても好きなキャラクターでした!
車で移動している時。
「真っ直ぐ目的地へ向かへ」と指示されているにも関わらず、美味しいご飯の店に寄り道したり、パンクし立ち往生した夫婦を手伝ったり。
ラジオから流れる曲を呑気に歌う姿がとても印象的です!
また、警察の対応も完璧でしたね!
最初の方、荷物の中身が「麻薬」であると確認してしまったタイミングでまさかの警察に見つかるという非常事態、追い打ちをかけるように警察犬を連れているという(笑)
どう対処するのかと思いきや、まさか犬にクリームを塗りつけるという、犯罪じみた方法で危機回避です(笑)
それから、飲食店から去る時、サルとその相棒が警官に止められた時。
「荷台に良いものを積んでいる」と警官に言うからドキドキしていたら、お菓子を差し出して買収(?)に近い行為を!
本当に、頭の回転が良いのか、修羅場の抜け方が上手いのか!
映画『運び屋』本編映像 “Need help sir?”
ユーモアから外れ、真実を話す姿も大好きです。
逮捕され裁判の時、たった一言「Guilty」と、「有罪」と発した彼。全ての罪を逃れることなく真実を話す姿は、アールらしい潔さと彼なりの「正しさ」に満ちていて、記憶に強く残っています。
また、「なんでも買えるのに、時間だけは買えなかった」や「時間が全て」、そして「年齢などはどうでもいい」、「まだ老いを向かい入れるな」など彼の言葉には。アール、果てはイーストウッド監督の長い人生が込められているようで感動しました。
映画『グリーンブック』と同様に、素晴らしい作品でした!
どちらも米国社会を描いていながら、ユーモアに溢れたロードムービーになっていて、鑑賞のハードルがとても低い作品だったと思います!
『グリーンブック』の感想は以下 ↓
最後まで読んでくださり、
本当にありがとうございました!!