【過去記事について】お知らせ&お願い

【アニメ映画】『Fate/stay night [Heaven's Feel] Ⅱ. lost butterfly』:禍々しくも美しい物語。

※ネタバレなし。
※画像は予告映像のキャプチャです。

2019年1月12日鑑賞

Fate/stay night [Heaven’s Feel] Ⅱ. lost butterfly

 

【評価:5.0/5.0】

 
【一言】

『Fate/sn [HF]』の第2章。
美しくも禍々しい物語。

間桐桜の物語が重く鋭く描かれる。
彼女が内に潜む「暗い闇」も、
彼女が胸に隠す「柔い光」も。
秘めた心と揺れる想いが儚く強く。

映像と音楽が艶やかで 息を飲むほど素晴らしい……。

 
【Twitter140文字感想】

 

 

【目次】

 

 

 

作品内容&概要

 

「俺の戦うべき相手は――まだこの街にいる」
少年は選んだ、自分の信念を。そして、少女を守ることを。
魔術師<マスター>と英霊<サーヴァント> が願望機「聖杯」をめぐり戦う――「聖杯戦争」。
10年ぶりに冬木市で始まった戦争は、「聖杯戦争」の御三家と言われた間桐家の当主・間桐臓硯の参戦により、歪み、捻じれ、拗れる。
臓硯はサーヴァントとして真アサシンを召喚。
正体不明の影が町を蠢き、次々とマスターとサーヴァントが倒れていった。
マスターとして戦いに加わっていた衛宮士郎もまた傷つき、サーヴァントのセイバーを失ってしまう。
だが、士郎は間桐桜を守るため、戦いから降りようとしなかった。
そんな士郎の身を案じる桜だが、彼女もまた、魔術師の宿命に捕らわれていく……。
「約束する。俺は――」
裏切らないと決めた、彼女だけは。
少年と少女の切なる願いは、黒い影に塗りつぶされる。
映画公式サイト

予告動画

 

監督:須藤友徳
制作:ufotable
原作:奈須きのこ / TYPE-MOON
主題歌:Aimer「I beg you」
キャスト:下屋則子,杉山紀彰 and more.
上映時間:117分
日本公開:2019年1月12日
配給:アニプレックス
公式サイト

第1章の感想⇩

 

 

 


 

 

 

感想

 

感想外観

 

 『Fate/sn [HF]』の劇場版第2章目。
 待ちに待った本作、素晴らしかったです!
 来場者特典は、武内崇氏描き下ろしのイラストボードでした───本当に綺麗!

 間桐桜。
 士郎と桜の物語に徹底的にフォーカスされた中で語られる彼女の物語が鳥肌が立つほど美しかったです。

 重く苦しく暗く黒い世界の中で、彼女の表面が段々と解かれ、剥ぎ取られるように映し出されて、隠してきた“心”が曝け出される物語を観ているだけで、息が止まりそうでした。

 それは、“暗い影”も“明るい光”も。

 桜、士郎、凛、イリヤ……描く“全て”が本当に美しかったです。
 物語、然り。

 仕草と表情、然り。
 目線の動き、口元の微動、瞳の揺らぎ。

 声の演技、然り。
 特に桜の掠れそうなほど淡く、しかし力強い意志が籠もる声が素晴らしい。

 圧巻の映像は、何よりも凄い。
 冬木市街地の描写は夜も昼も繊細で、遠景が綺麗。人物の豊かで細かな動きが描き出す心情もまた、映像の力。

 線と色と咆哮が乱れ交じるバトルシーンは、その迫力と激しさに揺さぶられたし、超人的なサーヴァントの動きを描く作画が異常。

 雰囲気と空気感の演出が秀逸。
 物語に重なるように変わる気象の美しさと、それを描き出す映像によって表情と空気を一変させる演出は文学的

 舐めるように切り替わる場面に、スローモーションで映す戦闘、人物の配置や構図など、何もかもが本当に丁寧で秀逸。

 音楽もまた、最高傑作!
 梶浦由記さんによる劇伴は、妖艶さと激しさを包み込んだような重厚感ある音楽が作品を彩ります。

 そして、梶浦さん作曲の主題歌「I beg you」。Aimerさんの豊かな声で奏でられる歌詞に込められた“物語”がエンドロールで流れる感動。

Aimer 『I beg you』teaser ver.

 

 

 

 

「間桐桜」の“物語”

 

 凄惨な白昼夢に佇む蜃気楼のよう。
 とても切なくて儚くて淡いのに、漏れ溢れる落ちるように強さが滲んでいて、感情の波が落ち寄せて感覚が狂いそうなほど、美しくて禍々しかったです。

 第1章で描かれた、静かな“少女”。
 彼女の裏に潜むモノが殻を破って出てくるように、ゆっくりと、しかし確実に解けるように融け、自らが覆いを脱ぎ、外から剥ぎ取られるように、曝け暴かれる物語。

 それは、
 彼女が内に潜む「暗い闇」も、
 彼女が胸に隠す「柔い光」も。

 蝶が脱皮するような美しさと、
 冬虫夏草が芽を出すような不気味さ

 苦しく辛くも、どこか“美しさ”があるその物語から、目が離せなかったし、胸に深く刻み込まれました。

 歯軋りしたくなる不協和音が滲む物語でありながら、桜の美しさに心が震えるような。
 『Heaven’s Feel』が彼女の物語であると静かに堂々と見事に描き出されていて、“凄かった”です。 こんなにも美しく、禍々しい物語は観たことないです。

 1つには、物語の焦点を「士郎と桜」にフォーカスしきっている部分に理由があると思います。『Fate/sn [UBW]』とかと違ってサーヴァント同士の戦いに時間を割くのではなく、人間関係に徹底的に絞っています。これが、本当に良かったと思います。

 

 

 

 

登場人物を描くモノ

 

 主人公たち少年少女を描き出す“全て”が本当に凄かったです。
 前述した「物語」然り、仕草と表情然り、演技然り。どこまでも奥深い“深淵”を潜めたような濃さが浮かぶようで本当に、凄いです。

 仕草と表情。

 正面を見据えたり、目を伏せたり、逸したりする目線の動き。口元や口角の動きだけで伝える心情。手や指先の動きまで「キャラクターを描く」という仕草に組み込まれていました。
 それから「瞳」の描写───特に桜は光の欠如、対して煌めきが宿ったような描写は分かりやすいですが、その効果は圧倒的だと感じました。

 登場人物たちを表象する為に構成される1つ1つが丁寧な細かさと自然な感覚で凄かったです。

 声。

 彼女の、下屋則子さんが演じる間桐桜の声が本当に大好きです。
 掠れ消えそうなほど弱々しく儚いのに、頭から離れない響きがあって、そこには彼女の強い意志がしっかりと込められていると感じられます。

 ずっと余韻が鳴り響いているような、あの声もまた、とても美しいです。

 

 

 

 

調和と対比が織りなす物語

 

 物語の内容も含めた“全て”の調和と不調和の対比が印象的でした。

 一番大きいのは動き、「静と動」
 破壊的な戦闘が激しい速度で描かれる一方で、士郎と桜のやり取りは雪が降り積もるように重ね描かれていました。120分の中でこの対比が何度も何度も繰り返されて、両者の間にある溝がどんどん深まっていくように感じました。

 物語は激しさを増し、登場人物たちの心情心理は掘り下げられ、作品としての印象が大きく刻まれるし、観終わった後に思い返してみるとコントラストが鮮やかに浮かび上がってきます。

 多分、物語のあちこちに「対立軸」が仕組まれていて、それが聖杯戦争が進むごとに段々と効能を発揮していくのだと思います。

 ・士郎の「正義」と、間桐の「悪」。
 ・聖杯戦争の「秩序」と、その崩壊。
 ・セイバーと、闇落ちしたオルタ。
 ・間桐桜が抱える「光」と「影」。
 ・冬木市が見せる、昼と夜の顔。
 ︙

 古今東西の物語の基本は「善悪」のように対立が根底に敷かれている作品が多い気がしますが、本作ではそれを何十倍にも濃く深くして組み込んでいるように感じました。
 第1章では動いていなかったこの軸が、第2章になって一気に歯車が回りだしたように感じます。仕掛けが動作し始めた、そんな印象でした。

 

 

 

 

 

圧巻のアニメーション描写

 

 ufotableによる映像は、何よりも凄い!
 滑らかで繊細かつ丁寧な作画と、美麗で細微な背景の完成度はもはや芸術作品

 圧倒的な迫力のバトルシーンは、これ以上無いくらい凄い。

第1章 原画等動画(TokyoMXコラボ)

 登場人物の心情を映し出すアニメーションは、細部こそ徹底的に丁寧に描かれているからこそ、鮮烈で等身大に伝わってくるのだと思います。

 市街地の遠景を映す映像は、『空の境界』から『Fat/sn [UBW]』と『Fate/sn [HF]』でその美しさに息を呑みましたが、それを超えました。

 天を穿ち、地を裂く、超人的な戦闘。
 剣戟の鍔迫り合いから放たれる高音と、叫び唸る咆哮に満ち溢れたサーヴァント同士のバトルシーン。

 「線」と「色」が画面の上で入り乱れ、絡み合い、踊り狂う戦闘は激しさを見事に表現していて「圧巻」の一言。

 細かな動きの滑らかさ、飛ばして表現する俊敏さ、線の多さに構図の秀逸さ。作画が恐ろしいほど見事で見入ります!

 

 

 

 

秀逸な演出と見事な雰囲気

 

 物語に満ち満ちる空気感が大好きです。
 物語を抜群に美しく見せる為の舞台設定、登場人物の心情変化を巧みに描き出す気象や時間の移ろいの美しさ。

 文学的にさえ思える、徹底的に作り込まれたアニメーション描写と演出が素晴らしいです。

 映像の作り方もまた、徹底的に計算され尽くしているし、何をどう描くかが完璧に合致していて凄いです。

  視線の動きを追うように舐めるようなカメラワークや、間延びの切り替え、雨の落下速度、涙の粒の大きさ。
 会話や移動など基本的な姿勢の場面ですら、人物の配置や画面の構図などを効果的設置しているのが如実に伝わってきます。

 圧巻のバトルシーンでは、何よりも英霊の姿を、宝具の魅力を最大限に引き出すような映像造りがなされていました。

 神的な速度で攻撃を仕掛けていき、武器がぶつかる一瞬をスローモーションで描き出したり。戦場を駆け巡るような映像は破壊力が画面を支配しているかのようでした。

 

 

 

 

物語を彩る音楽

 

 物語も映像も素晴らしければ、それを色づける音楽も最高傑作に素晴らしいです!

 劇伴を手掛けるのは梶浦由記さん。
 彼女の音楽は、妖艶さと重厚感、そして異国情緒が漂う怪しさと力強さが混在していて、『Fate』という重く濃く深い物語を包み混んで彩るのにピッタリだといつも思います。

 特に、戦闘シーンで流れるヴォーカル入りの音楽や、主題歌のメロディを用いた劇伴などが大好きです。

第1章オリジナルサウンドトラック視聴映像

 その主題歌は、梶浦由記さんが作詞作曲を手掛け、Aimerさんが歌う「I beg you」。
 前作の主題歌「花の唄」もそうでしたが、歌詞にが本当に凄いです。「間桐桜」の心と、物語そのものを詠い込んだような歌詞は芸術的。

 今回の「I beg you」は、曲の表情が何度も変わり、それを表現しきるAimerさんの歌唱力に驚かされます。
 彼女の震えるような声もまた、大好きです!

 詩的な言葉で綴られた主題歌の歌詞を、映画の最後=エンドロールで聴くというのは、物語を頭の中でプレイバックして消化していくようで、感動しました!

Aimer 『I beg you』

Aimer 『花の唄』

 

 

 

 


 

 

以降、映画本編のネタバレあり

 

 


 

 

 

ネタバレあり感想

 

衛宮士郎と間桐桜

 

 本作の主人公の2人、衛宮士郎と間桐桜。
 この2人の会話がとにかく愛しくて、一言一句が素晴らしかったです。

「大切な人から、大事なものをもらった」
間桐桜

「桜だけの正義の味方になる」
衛宮士郎

「俺が、桜の代わりに桜を赦し続ける」
衛宮士郎

 特に、雨が降る高台での2人の会話は、心が震えるほど感動的でした。

 2人の心の中に溜まったわだかまりが解けるような、相手のことを真っ直ぐに見つめるような。それでいて、桜の中にはまだ隠れ潜む“黒い影”が残っていて。
 それでも、探り探り、相手を確かめるような会話の重なりが丁寧だったし、桜を包み込むような士郎の言葉が格好良かったです。

 桜と士郎の「恋」、それよりも深い「愛」が綺麗で、印象的でした。

 士郎の家で家事をし、食卓を囲んできた桜。
 正義の味方を夢見て、桜を守り続ける士郎。

士郎「桜が大切」
桜「それは家族としてか、女としてか」
士郎「桜が好き」

2人の気持ちが言葉で表されたシーンは、救われたようで、嬉しかったです。

 

 

 

 

恋、思い出、愛。

 

 まず「愛」の前、魔力供給として「士郎の血を舐める桜」の描写。

 息を荒くし、頬を紅潮させる桜から漏れ漂う艶かしく色気がとてもエロかったです。
 一方で、恋い慕う先輩である士郎を汚さないように、自分を押し止めようとする彼女の心が本当に切なかった……。

 それでも、愛しさがとどまらない彼女。
 玄関で士郎を見送った後、そのまま自慰。

 映像として描写したことにも驚いたし、その様子がまた“綺麗”だったから。目が離せなかったし、印象に残っています。

 そして、士郎と桜が“想い”を確かめた夜。
 互いに愛し合う2人が、月明かりの差し込む部屋で交わる様子。
 とても静かで、激しくて、美しかったです。

 間桐桜と遠坂凛の「恋」と「思い出」。
 士郎が日暮れまで走り高跳びに挑戦していたというエピソード。

 桜の「その思い出まで取らないで」と涙を流して発する台詞がとても印象的でした。彼女が本当に不憫に感じたし、彼女が感じる「世界は優しくない」というのが伝わってくるように思いました。

 

 

 

 

サーヴァントによる戦闘

 

 まず、序盤。
 高校の図書室を舞台にしたバトル。

 本棚が立ち並ぶ狹い空間での、生身の士郎とライダーの戦闘は圧倒的な戦力差をまじまじと見せつけられました。腹部を殴られて吹っ飛び、本棚に激突する士郎の痛々しさが怖いほど。

 さらに、凛とアーチャーの颯爽とした登場と同時のライダー制圧は凄い勢い。
 慎二は狂い、桜の立ち位置が暴かれたあとでの、桜の暴走。
 漏れ出る歪さと美しさの混在が凄かったです。

 そして本作の見せ場。
 間桐臓硯とアインツベルンのバトル。
 臓硯が従えるセイバーオルタと、イリヤのバーサーカー。

 際限なく宝具「エクスカリバー」を放つセイバーオルタと、倒される度に宝具「十二の試練」で蘇り強化されるバーサーカーの戦闘は、爆発と衝撃波が凄くて、映画館のスピーカーから鳴る低音で身体が震えました。セイバーオルタの破壊力と、バーサーカーの俊敏な体当たり的な戦いは、本当に見応えたっぷり。

 一方、森の中で繰り広げられたアーチャーと真アサシンの戦い。
 木々が生い茂る狹い森の中を飛ぶように駆けて戦う2人の映像が凄かったです! 加えて、ここで凛や士郎を押し寄せる波から守り身代わりとなったアーチャー。

 バーサーカーを失ったイリヤ、アーチャーを失った凛
 両者とも、最後まで自身のサーヴァントの身を案じて守ろうとし、名前を呼び続ける姿が脳裏に焼き付いています。

 

 

 

 

夢覚める路地での変質

 

 「桜」と「影」が重なった場面。

 まず、とてもファンタジックで楽しく夢のような光景が描き出されます。
 白いドレスに身を包み、お城の前で動物たちを行進し、踊り、飴に変え、頬張る。これは、須藤監督が描かれた主題歌「I beg you」のジャケットの場面ですよね!

 「夢でも、桜のこんなに幸せそうな姿を見られた」
 ……とそう思って見ていましたが、“夢”よりも凄惨な“悪夢”のような現実が待っていました。

 人を殺し、その死体を貪り喰う桜。
 彼女が口に含んだ「飴」が「指」に変わるシーンはゾッと寒気がしました。

 ufotableが描く「食人」のシーンって、嫌悪感が湧き上がっくるようでありながら、どこか美しく見えてくるから、好きです。

 さらに、ここで言峰綺礼と接触していたギルガメッシュが登場。
 薄暗く狹い路地で、地面に座り込む堕ちた桜と、強く佇むギルガメッシュの高貴さの対比が凄く綺麗。しかも、その立場を逆転させようとするかのように放たれた

「我を跪かせようとするか」

という台詞に込められた、不屈の意思の片鱗が見えたようで格好良かったです!

 そして、桜の変質。
 倒れた街灯が照らし出す桜の影。長く伸びるその影は、あの「黒い影」の姿。この構図が本当に劇的で、鮮烈な印象を植え付けました。

 個人的に、本作の中でも特に印象的で象徴的なシーンだと思いました。


 

 

 

 『Fate/sn [HF] Ⅱ.』の感想は以上になります!
 物語の素晴らしさも、劇場でみたこの興奮と感動も、決して忘れないと思えるほどの、傑作でした!

 次回、最終章『Ⅲ. Spring Song』は2020年春公開予定ということで、今からすでに待ちきれません!!

第1章の感想はこちら

 

 最後まで読んでくださり、
 本当にありがとうございました!!

 

コメントを残す