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【美術展】『アルチンボルド展』───愉快で奇妙な“寄せ絵”の世界

【美術展】アルチンボルド展 @国立西洋美術館

 

【一言】

奇妙で奇怪、でも愉快で不思議。
アルチンボルドの描く“寄せ集め”の世界を堪能できる素晴らしい作品展。
彼の描く絵はまるで“博物館”。
リアルな動植物が身を寄せ合って構成される“顔”の多様性が素晴らしい!
子供でも楽しめる、夏休みにピッタリの美術作品展!!

 


 

 

目次

 

 

 


 

 

【作品展概要】

 ジュゼッペ・アルチンボルドは、16世紀後半にハプスブルク家の宮廷で活躍した画家です。

 自然科学に深い関心を示したマクシミリアン2世、稀代の芸術愛好家として知られるルドルフ2世という神聖ローマ皇帝たちに寵愛された彼は、ひときわ異彩を放つ宮廷の演出家でした。そんな「アルチンボルド」の名は何よりも、果物や野菜、魚や書物といったモティーフを思いがけないかたちで組み合わせた、寓意的な肖像画の数々によって広く記憶されています。
 奇想と知、驚異と論理とが分かちがたく交錯するそれらの絵画は、暗号のようにして豊かな絵解きを誘い、20世紀のシュルレアリスム以後のアーティストたちにも、大きな刺激を与えました。

 本展は、世界各地の主要美術館が所蔵するアルチンボルドの油彩約10点のほか、素描などおよそ100点により、この画家のイメージ世界の生成の秘密に迫り、同時代の文脈の中に彼の芸術を位置づけ直す試みです。

 

(公式サイトより・一部改変)

作品リスト(PDFファイルです)

 

 作品展監修者のビデオメッセージ

 

公式サイト


 

 

 


 

 

  『Google Art&Culture』を紹介します。世界中の美術館が所蔵する絵画、立体造形、写真作品等の美術品&芸術品をGoogleがデータとして保存、公開しているサイトです。
 
 何が素晴らしいかというと、世界中の作品がパソコンやスマホから観れるわけです。そして最大の利点はズームアップができるということ。

 そして、今回のブログ記事で扱うジュゼッペ・アルチンボルドの作品ページを掲載します。ぜひ、一度見てみると面白いと思います!!

 

 

 


 

 

 

【感想】

< 全体感想 >

 ジュゼッペ・アルチンボルドの絵を知らない人はいないと思います。でも、彼の絵を本当に細かく見たことってありますか?

 自分が美術展を観るときのキャッチコピーはいつも同じ。それは『本物をみよう!』
 今回も、本物を間近で観たからこその発見と、驚きと、感動がありました。

 『アルチンボルド展』において本物を観ることの意義は、彼の寄せ絵に描かれた数十種類の動物,植物,道具や装飾品の細かさ、丁寧さ、その多さを実感できることだと思います。
 実際に見てみると、「え!? こんな動物まで隠れてたの?」とか「へぇ〜こんな意味が隠されてたんや」とかって発見が沢山あります。

(『夏』の首元に描かれたアルチンボルドの名)

 本作品展で一番驚いたのは、アルチンボルドが描いた絵のほとんどはハプスブルク家・神聖ローマ皇帝らに献上する為に描かれたという点。そして、それを表すために作品内に様々なモチーフが隠し描かれているという点。
 (自分の知識不足かもしれませんが……)今まではコレクターや商人のパトロンの為に描いていたと思っていました。しかし、実際には宮廷のために描いていたと知り驚きました。

(『火』に描かれたハプスブルク家率いる金羊毛騎士団の紋章)

 そして、代表連作『四季(春,夏,秋,冬)』と『四大元素(大気,火,大地,水』。ネットやポスターで見る以上に繊細で、色々な動植物が描かれていて、本当に面白くて綺麗でした!
 詳しくは、後で感想を書きます。

 そうそう、音声ガイドは竹中直人さんでした。どうも、映画の吹き替えの声と混ざっちゃって……(笑)
 あ、それから作品展ゾーンに入る前にとても面白い演出がありました。勝手ではありますが、本ブログの一番したにその事を書こうと思います!

 子供も楽しめる、面白くて楽しい作品展でした!!

 

 

 

 


 

 

以降、本展のネタバレを含みます。

展示作品の画像、紹介パネルの文言、音声ガイドの台詞等を書き載せている部分があります。 気にしないという方は、見て頂けると嬉しいです。

 

 

 

 

 

作品表記例 0:作品名(展示目録から)
      :作者名(展示目録から)  
      :感想─────────
※番号は作品リストと対応しています

 作品リスト(PDFファイルです)

 

 

< Ⅰ アルチンボルドとミラノ >

 ロンバルディアの自然主義、ダ・ヴィンチの科学的知見、自然へのイメージを組み合わせて「寄せ絵」が生まれる過程までを、ミラノの芸術を紹介しながら追う第1章。

 

Ⅰ.12:四季
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :英語の作品名は『Four Seasons in One Head』。 服には春の花飾り、頭には夏の植物たち、秋を表す小麦の外套を纏い、老いと知性を思わせる冬の顔。本作品展で一番最初に飾られている絵ですが、節くれ立った顔がとても印象に残っています。一部めくれた部分に、アルチンボルドの名前が刻んであります。 

 

Ⅰ.02:紙の自画像(紙の男)
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :紙で出来た自画像。ガイドによれば紙は画家である彼の象徴だからこそ、紙で自身を描いたそう。 確かに仕事道具であるし、紙って知識とかも表しそうです。紙だけという落ち着いた雰囲気もまた、素敵でした。

 

 

Ⅰ.07:鼻の潰れた禿頭の太った男の横顔
  :レオナルド・ダ・ヴィンチ
  :作品の良し悪しではなく、そのタイトルが面白かったです。これ、100%ハゲに対する悪口ですよねw 時事的にもハゲが話題ですから触れておきました(笑)

 

 

 

 

 

 

< Ⅱ ハプスブルク宮廷 >

 ハプスブルク家や神聖ローマ皇帝らの宮廷で才能を発揮させたアルチンボルド。皇帝らは「知のアーカイヴ」と称して芸術品を収集しました。アルチンボルドの代表作『四季』と『四大元素』が一堂に会する第2章。

 

 

Ⅱ.06:マクシミリアン2世の娘、皇女アンナ
  :ジュゼッペ・アルチンボルドに帰属
  :Ⅱ.04〜06まで皇帝の娘たちの絵がならんでいるのですが、彼女が一番好みのタイプです(笑)

 

 

Ⅱ.07a:天文学の寓意
   b:槍を持つ女
  d:コック
  f:龍の仮面をかぶった男
  :アルチンボルド、服や式典の装飾も考えていたんですね。特にコックとか笑っちゃいます(笑)どの絵を見ても思いますが、ファンタジーRPGのキャラクターみたいです!

 

 

Ⅱ.08:玉髄製の蓋付きの鉢
 .09:大きな貝形の鉢
 .10:ネプトゥヌスをともなう巻貝形の鉢
 .11:碧玉製の貝形の鉢
 .12:水晶製の平皿
  :オッターヴィオ・ミゼローニ
  :08〜12まで一気に並べてしまいました。分かりづらくてごめんなさい。これらは立体造形作品として豪華絢爛な鉢や皿が並んでいました。とにかく綺麗で細かい装飾や素材そのものがとても美しく、まさに芸術品です。憧れちゃいます……(笑)

(画像はⅡ.10)

 

Ⅱ.13:春
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :絢爛豪華というか栄華栄耀というか……とにかく華やかで鮮やかで細かいです。ガイドを読んで驚いたのですが、この人物は女性なのですね。ずっと男性だと思っていました。言われてみるとどこか乙女な雰囲気が。用いられている約80種が判別可能で、頬は文字通りバラ色です。

 

Ⅱ.14:夏
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :耳は当時新大陸からもたらされたトウモロコシでできています。野菜や果実で飾られた顔ですが、一番は頬にある丸々大きなモモが好きです。イメージ的に「暑い夏」というよりは「爽やかで実り多き夏」のイメージです。

 

 

Ⅱ.15:秋
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :秋の顔。どこか「お茶目で可愛いお祖父さん」というイメージが湧いてきます。頭を覆い尽くすブドウの髪の毛とクリの髭が可愛らしいですが、やはり耳にちょこんといるキノコが良いですねぇ〜〜。

 

 

Ⅱ.16:冬
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :新しい年へと向かう冬は皇帝を表す季節だそうです。この絵も皇帝マクシミリアンを象徴するものだそう。絵を近くで見ると分からなかったのですが、画像として遠くからみると『 M 』の文字が見えました。枯れて見えるけれども、生気と知性が感じられます。

 

 

Ⅱ.17:大気
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :たくさんのトリで構成された頭部。正直言って少し気持ち悪いです……(笑)それでも、解説を読んで知りましたが、ハプスブルク家の紋章であるクジャクや皇帝の象徴であるワシが描かれていたりと、細かいなぁと。

 

 

Ⅱ.18:火
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :火。頭部で髪を表現している、炎をあげる炭なお気に入りです。赤く燃える感じがとても綺麗です。ランプの口とか銃や大砲の身体とか男子がワクワクする感じ(笑)この絵はハプスブルク家の軍事力を表して、首飾りはハプスブルク家が率いる金羊毛騎士団の象徴なのだそう。

 

 

Ⅱ.19:大地
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :植物と違って、動物が顔を構成しているとどこか気味悪いです。「目」の数がたくさんあるからですかね? ライオンは神話ヘラクレスを、羊は先程の金羊毛騎士団を表すそう。ハプスブルク家は動物園を所有していて、アルチンボルドはそこで模写したとか。頭にちょこんと乗っているサルが可愛いです(*^_^*)

 

 

 

Ⅱ.20:水
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :不気味で気味悪いけどなぜか面白くて笑っちゃう部分があります。60種以上の海洋生物が縮尺を無視して詰め込まれています。タツノオトシゴ、カメ、カニ、トド………水族館みたいです!

 

 

 

 『四季』と『四大元素』について作品展のガイドと自分の見解を交えながら書いておこうと思います。

 『四季』と『四大元素』。この2つのシリーズは細かな自然観察な基づく現実的な描写と、皇帝礼賛の寓意や象徴を巧みに織り込んだ作品群です。
 特に自然描写に関しては、植物や動物など描かれているもの全ての種類と名前を判別する事が出来るほどリアルに描かれています。

 さらに、この2つのシリーズは互いに対応しています。
 「大気」は暖かい風によって「春」に
 「火」は暑く乾燥した「夏」
 「大地」はからりとした「秋」
 「水」は冷たく湿っぽい「冬」
 これら2つを並べていくと、見事にそれぞれの顔が向き合う形になります。

 加えて、『四季』はその絵を構成する要素が時間の流れを表すとともに人間の人生を描いた作品でもあります。生まれたての春、若く力強い夏、時が経ち熟し始める秋、歳を取り衰えを感じる冬。

 

 

 

 

 

< Ⅲ 自然描写 >

 アルチンボルドは皇帝が所有する動物園や植物園を訪ねてはデッサンをしたそう。これはルネサンス期の自然観察勃興の流れにとっても重要だったとか。  皇帝や貴族は『知のアーカイヴ』と呼ばれる「クンストカンマー」を持っていました。これは「芸術と驚異の部屋」という意味で、美術品や珍しい品々を収集し展示する部屋でした。

 

Ⅲ.06:ハチクマ
  :ヤーコポ・リゴッツィ
  :この第3章はあまり作品の数は多くないです。動植物のスケッチが飾ってあり、アルチンボルドの絵がいかに写実性に優れていたかを説明していました。 ちなみに、ハチクマを選んだ理由は、個人的にずっと名前を思い出したい動物だったからです………すいませんねぇ個人的なことで(笑)

 

 

 

 

< Ⅳ 自然の奇跡 >

 この章では「自然の奇跡」と題して、現代で言う多毛症の症状をもつ一族を取り上げています。
 ゴンザレス一家はこの多毛症が代々子孫に渡って遺伝し、その珍しさから皇帝が自身の“コレクション”として収集しました。

 

 

Ⅳ.01:『怪物誌』
  :ウリッセ・アルドロヴァンディ
  :異形の動物や架空の怪物を集めた資料集(?)。多毛症のゴンザレス一家の娘が描かれています。それ以外にも様々な奇妙なモノたちが描かれています。以下のサイトからその他の絵(ページ)を見られます。

Monstrorum Historia by Ulisse Aldrovandi – Kunstkabinett

 

 

 

Ⅳ.03:多毛のアッリーゴ、狂ったピエトロと小さなアモン
  :アゴスティーノ・カラッチ
  :奇妙なものを見る目で見られる。ただ、この絵を見る限りだと差別されたとしても、宮廷で悪くない生活を送ったのかもしれないと考えました。

 

 

 

 

< Ⅴ 寄せ絵 >

 第5章は様々な寄せ絵やだまし絵が展示されています。ジャンルも様々で面白かったです。

 

V.01:男根による頭部
  :フランチェスコ・ウルビーニに帰属
  :絵の中にある文字は訳すと以下のように書いてあるそうです。「まるで私の顔が男性器でできているかのように、私のことをジロジロ見る」……………いや、その通りだよ! 気持ち悪すぎる! 

 

 

 

V.04:擬人化された風景
  :ヴェンセスラウス・ホラー
  :だまし絵ですね。男性の横顔です。こういう絵本、日本にもありますね。香川元太郎さんの『迷路シリーズ』です。

 

 

 

V.05:聖像破壊の寓意
  :マルクス・ヘーラート(父)に帰属
  ごちゃごちゃしていて分かりにくいですが、岩山が男性になっています。頭の髪の毛がない事から僧侶と推測され、プロテスタント派がカトリック派を弾圧している場面だそうです。

 

 

 

 

 

 

< Ⅵ 職業絵とカリカチュアの誕生 >

 職業を描いたアルチンボルドの絵、そして風刺や皮肉の効いた絵が並んでいます。

Ⅵ.08:ソムリエ(ウェイター)
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :ソムリエはワイン関連のモノで構成されています。どうも、ソムリエって感じがしません。胴体が樽だからですかね? 太った体型がイメージと合わないのかもしれません。そもそもワインの道具とか詳しくないですし………

 

 

Ⅵ.09:司書
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :なんだろう………この不思議で奇妙な面白さは(笑)今までの植物の寄せ絵よりも大雑把な感じがします。でも、開いた本の頭とか髭とかユーモラスですよねぇ〜。

 

 

Ⅵ.10:法律家
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :宮廷で実際に働いていた人物がモデルだそうで、とても似ているらしいです。顔はよく見ると鶏や豚肉。理由は、モデルとなった人物の顔に大きなアザ(?)、傷跡(?)があり、それをユーモアを混じえて描いたらしいです。知性が滲み出てる気がします。

 

 

 

 

< Ⅶ 上下絵から静物画へ >

 静物画が多くて、個人的にはつまらなかったです。でも、やっぱりアルチンボルドは面白い! 以下で紹介する最後の2作は「寄せ絵」と「だまし絵」の傑作です。

 

Ⅶ.03:庭師/野菜
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :普通に見れ寄せ絵描かれた庭師────でも、ひっくり返すとボールに乗った山盛りの野菜に。……………う〜ん……凄いけど若干無理があるような。先に人の顔がインプットされちゃうと、ひっくり返しても他の絵に見えなくなったゃったりしました。

 

⇩ ひっくり返した画像を貼ってあります。⇩

 

 

 

 

 

Ⅶ.04:コック/肉
  :ジュゼッペ・アルチンボルド
  :こちらは、最初に『肉』の方が展示されていました。ウェイターが蓋を開けて、盆に乗った山盛りの肉を差し出す場面。そして、ひっくり返すとそれは帽子をかぶった小太りの男性へ。こちらは先にモノを描いた方を展示してあったので2つが両方共イメージしやすかったです。

 

 

⇩ ひっくり返した画像を貼ってあります。⇩

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 長々と目を通してくださり、ありがとうございました。
一番最初に触れた、「面白い仕掛け」でお別れしようと思います。それはアルチンボルドの作風に生まれ変わった自分自身と記念撮影を撮ることが出来るというものです。

これが結構似ているような、似てないような………(笑)

 

 

 

 

以上で『アルチンボルド展』の感想を終わります。
 カラフルに鮮やかで、細かくて大胆で、面白くて気味の悪い不思議で楽しい絵画たち。そして、解説されなければ分からないメッセージ。
 “本物”を見れたことで、“絵を間近で”見られたことで新しい発見も多い、収穫の多く楽しい作品展でした!!
 是非、おすすめします!

 

 


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