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【美術展】『エリック・カール展』──「絵本の魔術師」が描く優しく鮮やかな世界

エリック・カール展 @世田谷美術館

 

 

【一言】

 『はらぺこあおむし』原作者の鮮やかで美しい絵の原画展。
 とにかくその色彩に見惚れました。 

 子供の頃を懐かしむ気持ちが湧き上がってくると同時に、当時は気が付かなかったメッセージを大人になったいま知る事ができ、とても収穫の多い綺麗な作品展でした。

 

 


 

目次

 

 


 

 

【作品展概要】

 すべての子どもたちと、かつて子どもだったおとなたちに

 ぽん!とたまごからちっぽけなあおむしがうまれてから、およそ50年がたちました。いまもこの世界のどこかで、子どもが初めてこのあおむしと出会っていることでしょう。

 アメリカを代表する絵本作家エリック・カールは、小さなあおむしとともに長く豊かな道を歩んできました。本展では、いまなお輝きを失わないエリック・カールの世界を約160点の原画・作品で振り返ります。

 カールに出会ったばかりの子どもたち、親として再会を果たしたおとなたち、カールと出会うすべての人々に色彩豊かなその世界が開かれることでしょう。

(作品展公式サイトより。一部改変)


 公式サイト

エリック・カール スペシャルサイト

 

 

 

 


 

 

 

【エリックカールについて】

 アメリカ生まれのエリック・カールは、色つけた紙を切り貼りして絵を描くコラージュという方法で絵本を描く絵本作家。その美しい色彩の絵から『絵本の魔術師』といわれている。

 紹介はこの辺で。絵本作家なので経歴よりも描いた作品が重要ですからね。
 ここでは、偕成社のウェブページ『おしえて!カールさん』に載っていたカール似対する「Q&A」を幾つか載せようと思います。

 

Q.絵本を作るときはお話から?絵から?
A.いちばん始めはアイデアから

Q.一冊の制作にどれくらいかかる?
A.2年以上の場合もあれば、1週間のことも

Q.コンピュータって使いますか?
A.絵を描く時は使わない。でもコンピュータはたくさんの可能性があるから、数年後には変わってるかも

Q.好きな芸術家は誰ですか?
A.パウル・クレーは夢のような絵を描く画家。ピーター・ブリューゲルは故郷のドイツを思い出すよ

Q.好きな色はなんですか?
A.全部好きだよ。組み合わせが大事なんだ

Q.趣味はなんですか?
A.仕事が趣味さ。

Q.子どもの頃から落書きしてましたか?
A.いまもしてるよ!

Q.今までで一番の作品はなんですか?
A.『ね、ぼくのともだちになって!』だね。友情についての本だから。

Q.どうして小さな生き物がよく出てくるんですか?
A.子どもの頃に草原や林へ連れてって、生き物の生態を教えてくれた父親への尊敬があるのかも。自分自身の幸せな子供時代の財源でもあるかな。

 

 

 上のはいくつもある質問のうちの数個です。また、ここではかなり省略をしていますが、カールの回答はもっと詳しく話しているので、ぜひウェブページの方で読んでみて下さい!

 

 

 

 


 

 

 

【感想】


(※)番号は作品リストと対応してます。

 

〈全体感想①〉

 《絵本の魔術師》と称されたエリック・カールの名前は知らなくてと、『はらぺこあおむし』『パパお月さまとって』の絵本のイラストは誰もがしっているでしょう。あの美しい絵を描いたのが彼です。そして、今回は彼の原画展です。

 とにかく「懐かしい」の一言に尽きます。子供の頃に読んでいたけど、大人になってからはすっかり目にしなくなった動物や果物、あおむし達。彼らが再び目の前に現れたことに込み上げてくる懐かしさに感動しまして、最後の方では泣きそうになりました。

 作品展の構成がまたとても良かったんです。絵本を読むかのように、本のページをめくるように、内容の展開に合わせて原画が展示してありました。さらに、音声ガイドで物語の一節を朗読したりと絵本に浸る世界観を創り上げていました。

 ずっと、「あの素敵な絵はどうやって描かれているのだろう?」と不思議に思っていました。ペン?絵の具?色鉛筆?………どれも違う。今回の原画展でその答えが分かりました。それは『切った色紙を貼り付ける』という方法です。カール自身が着色した色紙を切って貼り付けていたのです。だからの不思議な雰囲気の絵になったのですね。
 そして、原画をよく見ると絵が色紙の層で作られていることがわかります。

(偕成社『エリック・カール スペシャルサイト』より)

 今回の原画展は、それぞれの絵について解説するというよりも、展示方法に沿って各作品(絵本)毎に原画展の章に沿いながら感想を書こうと思います。

作品リストのフルバージョンはこちらから(PDFファイル)

 

 

 

 

 

 

 

〈全体感想②〉

 絵本の「エンドペイパー」についても言及がありました。物語が終わり、背表紙に行くまでのたった1ページ。今までは全く意識していませんでしたが、示されると「凄いなぁ〜綺麗だなぁ〜」とただただ感心するばかりです。

(↑『1,2,3 どうぶつえんへ』のエンドペイパー)

(↑『はらぺこあおむし』のエンドペーパー)

(↑『パパ、お月さまとって!』のエンドペイパー)

 

 上述しましたが、原画展で展示されている各絵のタイトルがそのままお話になっていてとても面白いです。物語を追っているようです。(作品リストを見ればわかると思います。) 

《例》
絵本『こぐまくん こぐまくん なに みているの?』の原画のタイトルです。


7:

『シカさん、シカさん、なに みているの? ガラガラヘビを みているの。』

 

8:
『ガラガラヘビくん、ガラガラヘビくん、 なに みているの? ミミズクを みているの』

 

9:
『ミミズクさん、ミミズクさん、なに みているの? くまの かあさんを みているの。』

 

 

 

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〈Part1.エリック・カールの世界〉

 

動物たちと自然

ここでは様々な動物たちが、カールの美しい絵で描かれています。子供が見ればそれは綺麗なキャラクターに過ぎないのかもしれませんが、そこに描かれているのは絶滅危惧種に指定された動物や希少種たち。
 カールは自然の大切さや環境保護の重要さを伝えるメッセージを絵から伝えようと込めていました。

 

『くもさん おへんじ どうしたの』

 この絵本はカールのアイデアでクモの巣を実際に描いてしまいました。クモの巣が少しずつ描き、ページをめくる度に完成に近づいていくというお遊びを取り入れてあります。
 このクモの巣には特殊プラスチックを使用しており、立体的になるため、触って感じることができます。

 

 

 

 

『だんまり こおろぎ』
 これはとにかく羽が綺麗でした! 透明感がすごいです。バッタ、セミ、トンボ………etc. 
 ただ、絵本を読んでみると、あまりこの透明感は感じられませんでした。綺麗ではあるけれど、クリアな色ではなかったというか。
 そして、絵本を読んでいても、原画展の副題でも思いましたが「擬音語」が多いという事です。副題の方を載せておきます。

22:
『きち・きち・ばたたたた…おはようさん! ばったが くるくる とんできました』

 

24:
『ぶんぶん びびびび……ごきげんよう! はなから はなへ とびまわり まるはなばちが とんできました』

 

 余談ですが………この絵本は最後のページに音が鳴る仕掛けがついています。コオロギの鳴き声が流れるのですが、図書館で本を開いて、音が鳴って焦りました💦(笑)

 

 

 

 

 

 

 ここでは、「絵本のページをめくる旅」が描かれます。動物園に行ったり、成長を描いたり、ご飯を食べたり、お引っ越しをしたり。
 文字を読めなくても、ページを注ぎへとめくる度に現れる新しい動物や果物などが見ていてとても楽しいです。
 そして、カールは「数で描く」ということをしました。文字が読めない子供でも楽しめ、また学習の一助となる絵本にしたのです。(具体的には以下で書きます)

 (↑カールが公式サイトで公開している子供向け学習教材(?)のひとつ。)

 

 

 

『1, 2, 3, どうぶつえんへ』

 動物園へ向かう貨物列車。ページをめくれば次の貨物へ絵が移り、乗っている動物の数が1匹増えます。動物を数えることで、自然と数字を学べるようになっているわけです。


35:『「9」(へび)』

 この本の中で一番好きな一枚です。なぜかと言われたら、動物を数えることに大きな意味がある絵本なのに、ニョロニョロ絡まるヘビの数えづらさに笑っちゃいます(笑)

 

 

 

 

 

『はらぺこあおむし』
 
 きました、目玉作品。エリック・カールの作品の中でも特に有名な作品です。やはり、綺麗でした。植物と葉っぱの緑がとても美しいです。そして、登場する食べ物たちも色とりどりです。

 仕掛け絵本なので、書籍には穴が空いていますよね。でも、原画には穴が空いていませんでした。当たり前ではあるんですが、少し驚きました。

 そして、学習面では「数×曜日」ですね。順番に描かれる曜日が進むに連れて、あおむしが食べる果物の数も1つずつ増えていきます。

 

 

 

 

『やどかりの おひっこし』
 こちらはとても赤色が綺麗です。引越し先を探すヤドカリが海の生き物たちに出会っていくお話。子どもたちに教えるのは『月(Month)』です。

 

 

 

『月ようびは なにたべる?──アメリカのわらべうた』

 アメリカのわらべうたを原案に、カールが絵をつけたものです。月曜日、火曜日………と毎日一品ずつ違った動物たちが食べ物を食べていきます。そして、最後のページに少し感動しました。こども達が集まる、アメリカらしいページでした。

 

 

 

 

昔話とファンタジー

 世界中でも昔から馴染まれている童話『グリム童話』『アンデルセン童話』『イソップ物語』の挿絵をエリックが担当した絵本です。

 この章で思ったのは、「エリック・カールは動植物等の自然物の描写は素晴らしいけど、人間の絵はイマイチだな…………」ということ。
 カール独特の色鮮やかさとか、細かさがあんまり生かされていないような気がしました。肌色だからですかね? それに、人間が主人公ということは、必然的に家や道具など無機物出できた物も描かざるを得ません。それがつまらないなぁ〜と思いました。

 

 各絵本に対する感想は書きませんが、名前だけ載せておきます。

『グリム童話より7つのお話』
『アンデルセン童話より7つのお話』
『エリック・カールのイソップものがたり』
『ドラゴンズ、ドラゴンズ』
『プレッツェルのはじまり』

 

 

 

『ゆめのゆき』

 この本は初めて見ましたが、とても面白かったです!! 登場するおじいさんがとても可愛いんですよね…………あれ?あれあれ? もう、最後はニヤニヤが止まりませんでした。すごく面白いストーリーでした!

なんだ、農家のおじいさんのお話か・・・・・

あれ、おや、このおじいさんって・・・!!!

 

 

 

 

 

家族

 この章では家族の大切さやありがたさを伝える、とても温かな絵本が集まった章です。
 紹介解説に「世界中の誰よりも大切なおとうさん、おかあさん」とあり、ウルっと感動してしまいました。

『カンガルーの子どもにも かあさん いるの?』より)

 

 

 

『カンガルーの子どもにも かあさん いるの?』
 色々な動物たちの子どもと親が描かれます。とても楽しげで、なんだか微笑ましい絵が沢山でした。

 

 

『とうさんは タツノオトシゴ』
 父親が子育てをする、育メンを描いた絵本(笑)
 やわらかい色と質感で描かれていて、色々な海の仲間と出会うも、お父さんは気が付きません。でも、同じ子育て仲間の生き物と言葉を交わすわけです。

 

 

 

『パパ、お月さまとって!』

 大好きな絵本の1つです。縦や横に伸びる仕組みが面白かったし、それ以上に「月を取ってくる」という子供の夢をそのまま絵本にしたような楽しさが本当に好きです!
  今回の原画展の解説にあったのですが、この絵本はカールの娘に頼まれて作ったそうです。娘が大変喜んだことから、他の子どもたちにも読んでほしいと出版をしたそう。

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〈Part2.エリック・カールの物語〉
初期作品・素描

 最初、カールは広告デザインの仕事をしていたそうです。少し思ったのは、「芸術家ってポスター広告を手掛けることが多いいのかな?」ってこと。アルフォンス・ミュシャもそうでしたが、自身の絵の才能を活かせるいい仕事だったのかもしれません。

 初期作品はそういうこと(広告の仕事)ということで、白黒印刷の作品が多く展示して有りました。でも、モノクロの作品でありながら、賑やかさがにじみ出ているのは当時からの、彼の才能だったのかもしれません。

 素描の方は、サイやウシ、トラなどを描いたものが展示してありました。自分が見ればかなり雑に見えるものの、しっかりと特徴を捉えているなぁ〜と。これが後の絵本に活きているのでしょうね。

 

 

 

 

 

画家とともに

カールの人生のハイライト的な章でした。彼が描いたたくさんの絵本を出しながら、彼の人生を追っていった気がします。

 

 

『くまさん くまさん なに みてるの?』

(正確に覚えていないのですが)解説で編集担当の人が

「何て刺激的な本だ。小学校時代の大きな紙やカラフルな色、太い筆が想い浮かぶ」

と言っていたと紹介がありました。本当にその通りだなぁ〜と。

 

 

 

『えを かく かく かく


  描くことの自由を伝える絵本。「くろい しろくま」がとても良かった! 最後に主人公の男の子が言う一言に感動持した───「ぼくはえかきだ。じぶんの ほんとうの えを かく かく かく」

  そして、カールの言葉が紹介されていました。

 「この『えを かく かく かく』の不思議な色の動物たちは、マルクの絵を見た日からずっと僕と生きてきた」 

 全体を通して、〈間違った色なんてないんだ〉というメッセージが感じられました。

 

 

 

 

『巨人《ジャイアント》に きをつけろ!』
 驚いたのは、この絵本もカールが書いたものであるという事。今回の原画展で初めて知りました。

 

 

 

 

 

ひろがるカールの世界

 絵本のイラストだけじゃない、カールの活動や作品が紹介されていました。結構いろいろな分野のアート創作に手を出していて驚きましたが、やはり平面の絵に現れる鮮やかさや透明感が綺麗だと思いしまた。

『魔笛』の衣装&背景デザイン
 カールの衣装はやはりカラフル。舞台のセットや衣装を手掛けたときに「この劇では色が主役」というコンセプトという依頼だったそうです。
 ただ、演劇『魔笛』を観たことがないのでイメージになりますが、ここまでカラフルが似合う劇なのかなぁ〜と少し疑問に思いました。

(天上から吊り下げられているのが舞台『魔笛』の背景)

 

140:さかな
141:ヤマアラシ
142:ねこ
 立体作品です。黒いボードと色のついた棒だけのシンプルな作品なのに、そこにとても好感が持てる作品だと思いました。

 

 

 

 

カールと日本

 カールにとって日本は特別な国です。それは、『はらぺこあおむし』の初版本を出した国だから。
 穴を開けたり、仕掛けを施したりするのには手間とお金がかかり、なかなか採算が合わない絵本だそう。それでも日本の出版社が印刷して製本してくれたそう。日本から米国へ輸出していたというから驚きです。

 日本のたくさんのみなさんが私の絵本を楽しんでくださっているのを知って、とてもうれしく思います。また、郵便や、ウェブサイト経由のメールでいただくお手紙には、とても感謝しています。

 私はこれまでに5回、美しい国日本をおとずれました。いずれも胸おどる体験で、たいへん影響を受けました。この思い出は、いつまでもわすれないでしょう。

 みなさんは、『はらぺこあおむし』という絵本が生まれたいきさつをごぞんじですか?
 1960年代の後半、私の本の編集者アン・ベネデュース女史がまだ出版のきまっていなかった『はらぺこあおむし』のラフスケッチをたずさえて、日本をおとずれました。アンは当時、アメリカでこの本を印刷・製本してくれる印刷所をみつけられずにいました。そうしたら、偕成社の当時の社長、今村廣氏が、日本でひきうけてくれるところをみつけてくれたのです。
 偕成社のこうした惜しみない努力と変わらぬ支援、そして熱意に、私は心から感謝しています。

 日本じゅうの、そして世界じゅうのあらゆる世代の人々が、これからも私の絵本を楽しんでくれますように。

感謝をこめて

エリック・カール
偕成社「エリック・カール スペシャルサイト』より

 

 

 そして、日本の文化と西欧の文化を融合させた絵本作品が日本人絵本作家いまむらかずおと、エリック・カールの共著である『どこへいくの?/To see My Friend ! 』

 日本語は右から左に本を開く。
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 英語は左から右に本を開く。
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 この文化の違いを使って描かれたのがこの絵本です。
 右側からいまむらさんが描く絵本部分。左側からカールが描く絵本部分。そして、ちょうど絵本の真ん中で2つが合わさるという構成です。
 なんだか、読んでみるととても温かい絵本で良かったです。

 

 

 

 


 

 

 

 

 ということで、今回の感想『エリック・カール展』は以上になります。
 本当に懐かしさがこみ上げてくる、鮮やかで楽しくて、最高の原画展でした。

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