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【展覧会】『2018年のフランケンシュタイン』感想&レポ:バイオアートに見る芸術と科学と社会のいま

2018年9月11日訪問

2018年のフランケンシュタイン

バイオアートに見る芸術と科学と社会のいま

 
【一言】

現代アートの中でも「バイオアート」に焦点を当てた展覧会。
神に近づくかのごとく日進月歩をする現代科学技術を活かした、盛り込んだ芸術作品がとても興味深く、面白い!

 
【Twitter140文字感想】

 

 


 

 

展覧会概要

イギリスのSF 小説家メアリー・シェリーが「フランケンシュタイン」を発表して2018年で200年となる。その小説の中で科学者が生物の断片をつなぎ合わせて生み出した怪物は、その後、何百という芸術作品のテーマになってきたが、そこで提起された「創造物による創造主への反乱」や「神に代わり生命を創り出すことの矛盾」といった問題は、AIや遺伝子組み換え技術が飛躍的に発展する今日、古びるどころか、ますます現代的なものになってきている。

本展では「フランケンシュタイン」で提起された問題のいくつかを今日のものとして再考すべく、バイオテクノロジーや生物を使った芸術潮流「バイオアート」の騎手として注目される国内外のアーティストの作品を中心に紹介する。

(展覧会HPより)

【展覧会概要】
会期 : 2018年9月7日(金) – 10月14日(日)
時間:11:00ー20:00 / 無休
会場 : EYE OF GYRE – GYRE 3F
主催 : GYRE / スクールデレック芸術社会学研究所
監修 : 飯田高誉(スクール デレック芸術社会学研究所所長)
キューレション : 髙橋洋介(金沢21 世紀美術館 学芸員)
ホームページ : リンク

 

 

 

 

展覧会の感想

 

 「バイオアート」に焦点を当てた展覧会!
 個人的に、現代アートは何を訴えているのか難しいことがあるものの、日々進化する技術や身の回りにある情報、その時代の社会を描いて、しかもビジュアルが非常にクールで洗練されているようで大好きです1

 今回の展覧会も、非常に面白かったです!

 今回の展覧会は、M.シュリーの小説『フランケンシュタイン』をリスペクトするような、ガイドラインとして用いるような美術展でした。

 そして、私は映画とかアニメとか小説に影響されてその『フランケンシュタイン』を読んでいたので、余計に展覧会の内容や雰囲気に共感できたような気がしました。

 展示されていた作品はどれも素晴らしかったです!

 人間の遺伝子や医療技術を用いて、ゴッホの左耳を再生し、幹細胞で培養した人皮で衣服を作るなど、その内容が衝撃的で魅力的なSFチックなもの。

 タールまみれの海鳥やプラスチック片などを用いて地球環境汚染への警鐘を鳴らすかのような作品。

 空想のユニコーンを芸術作品という枠組みの中で再生を試みたり、ヤドカリにヤドを与えたり。

 今回の展覧会は、とにかく「章の序文」が面白かったです。

 各章の最初に掲げられる、キュレーターによる説明文。『フランケンシュタイン』と「バイオアート」の作品説明。そして社会背景や進化、未来などを混ぜた内容は、まるでそれだけでも「ディストピア小説」のような面白さがあります。

 長いですが、全て引用という形で掲載しているので、ぜひ興味があれば読んでいただけると、楽しめると思います!

 科学の進歩に伴う生命倫理の議論、人類の利己的行為の糾弾、最新技術の掲揚。

 作品を見るだけでもそのビジュアルには目を引かれますが、解説を読み、作者が何を考えて制作したのか、作品の背景にある現代社会の問題点・先進性はなんなのかが分かってくると、その面白さが倍増します!!

 

 

 

 

展示作品紹介

 

 各章の紹介文と、展示されていた作品を載せていきます。
 今回の展覧会は、その紹介文が非常に面白かったので、少し長いですが全文を引用という形で掲載しています。

 

 

キュレーター:髙橋洋介

 

 展覧会の一番始め、入り口に掲げられていた、髙橋氏の文章です。

2018年のフランケンシュタイン ──バイオアートにみる芸術と科学と社会のいま──

イギリスの小説家メアリー・シュリーが「フランケンシュタイン」を発表して2018年で200年になる。生命の謎を解き明かした科学者ヴィクター・フランケンシュタインが死者の断片をつなぎ合わせて生み出した怪物は、その後、何百という芸術作品のテーマになってきたが、この小説で提起された「創造物による創造主への反乱」や「神に代わり生命を創り出すことの代償」、「性と生殖の分離」といった問題は、人工知能や幹細胞などにまつわる技術が飛躍的に発達する今日、古びるどころか、ますます現代的なものになってきている。

 ゆえに、本展では、「フランケンシュタイン」が提起した問題に焦点を当て、中でも今日の芸術を通底とする主題──「蘇生」「人新世」「生政治」──をもとに、9作家の作品を選んだ。一握りとはいえ、ここで紹介される5ヵ国の作家たちの作品には、「著作物としての生物」や「タンパク質による彫刻」、「人新世の芸術の原点としてのランドアート」といった芸術の表現媒体や歴史、制度に関わる新たな問題群が凝縮されている。本展は、近年、世界的な隆盛を見せ始めている芸術の新風潮「バイオアート」の最前線の一端を紹介するものであるが、バイオテクノロジーや生命に関係すればなんでも「バイオアート」といった形式的な分類や表面的な理解に与するものではない。アーティストたちが選び取ったそれぞれの表現媒体が、今日の歴史や社会の文脈の中でいかなる意味を生み出し、そしてその意味を超えたものをどのように内包させているかを今日の視点から問い直すものである。
 本展が、生命創造の寓意が現実のものとなりつつある時代の新たな芸術の価値を位置付けるための手がかりとなり、その未来を少しでも感じさせることができたなら、これに勝る喜びはない。

──髙橋洋介 本展覧会企画/金沢21世紀美術館学芸員

 

 

 

 

第1章「蘇生」

 

「フランケンシュタイン」の怪物は死体を繋ぎ合わせることで誕生したが「死者を断片的に蘇生する」ことはバイオアートが伝統的な芸術に突きつける新たな主題である。古代から中世にかけて「死者の蘇生」は、キリストの復活や西行の反魂術など人為を超えた奇跡や超自然を表す表象であり、あくまで、社会に潜む不安や教訓の隠喩にすぎなかった。しかし、19世紀初期の「フランケンシュタイン」では、蘇生はもはや超自然や奇跡の類として描かれない。18世紀末に行われたイタリアの解剖学者ルイジ・ガルヴァーニの動物電気実験(死体の神経に電気を流すと腕や足が動くこと)などがこれまでの生命観を唾棄すべきものに変えたことが語られ、生物も他の物理現象と同じように再現・操作できるものとする近代の機械論的な生命観が現れ始めている。
 80年代以降のゲノム学の飛躍的発達や、近年の幹細胞技術やゲノム編集の 登場によって、このような生命観は、ますます当たり前のものになりつつあるが、それはまた、これまでは不可能だったアイデアを表現するための形式を芸術にもたらしている。
 この章では、このような問題設定のもと、「蘇生」を主題にする。作品の表現媒体となる不死化したiPS細胞や、断片的な生体は、「生と死」、「身体」、「美」、「個人」といったこれまでの芸術の主題をいかに書き換えるのか、そし て「蘇生」という表象はどのような新しい意味を担うのかについて3作家の作品を通して潜考する。

 

 

作家:平野真美
作品名:蘇生するユニコーン
作品名(英題):Revive a Unicorn
制作年:2014-
材料:樹脂、シリコン、ラテックス、人工毛、エアーコンプレッサー、送液ポンプなど

瀕死のユニコーンは、本展最年少の平野真美が2014年から取り組む《蘇生するユニコーン》である。彼女は、神話上の生物であるはずの「ユニコーン」を、その骨格、臓器、血管、皮膚といったさまざまな部位から制作し、まるで実在するかのようにつくりあげる。進化論は神が人間をつくったという宗教の物語を破壊し、龍や妖怪といったものを迷信に変えたが、平野はあえてその想像上の存在を回復しようと試みる。瀕死状態から蘇生しようとするユ二コーンは、いま失われつつある前近代の魔術性が、合成生物学や人工知能など科学技術が高度に複雑化し、まるで魔法のようになることで、現代に蘇りつつあることの優れた隠喩になっている。

 確かに見た目は衝撃的でグロテスクですが、この作品に込められた真意を知ると、共感が湧いてきました。平野氏本人のHPに本作「蘇生するユニコーン」の説明や解説が掲載されています。

 空想の、架空の、非実在の生物の“死”を感じたからこそ、「制作によって実在と蘇生」を求めるというのは、とてもロマンチックに感じたし、それがユニコーンだからなおさらに美しいと感じました。

TED 「How I resuscitate illusion of lives 」

【作家紹介:平野真美】
1989年、岐阜県生まれ。東京藝術大学大学院先端藝術表現専攻修了。闘病する愛犬や、架空の生物であるユニコーンなど、対象とする生物の骨や内臓、筋肉や皮膚など構成するあらゆる要素を忠実に制作することで、実在・非実在生物の生体構築、 生命の保存、または蘇生に関する作品制作を行う。展覧会HPより)

Webサイト:TwitterHP / 「蘇生するユニコーン」

 

 

 

作家:Tina Gorjanc
作品名:Pure Human
制作年:2016
材料:特許申請書、DNAコード保証書、試験管に抽出したDNA情報、シャーレに皮膚のサンプル、材料の成長経過をみせるための5つのサンプルが入った透明な台、ガラスフレーム、モニターに記録映像など

天折したファッション界の鬼才アレキサンダー・マックイーソの皮膚を幹細胞技術で再生し「ファッションの素材」にするプロジェクト《Pure Human》は、2016年にロンドン在住のデザイナー、ティァ・ゴヤンクによって発表された。まるで人間の皮膚のようなレザージャケットは、マックイーンの体型やホク口、そばかすや刺青まで豚革で精巧に再現した試作品だが、実際にDNAを採取し、幹細胞に移植して皮膚をつくることに、マックイーンの《切り裂きジャックが犠牲者たちに忍び寄る》 (1992年/作家の髪の毛を編み込んだドレス)の所有者は同意している。「フランケンシュタイン・ファッション」と揶揄された本作品は、遺品とは異なる形で「死者を纏うにとの意味を問い、バイオテクノロジーが生み出すファッションの新たなフェティシズムの到来を予告する。

 今回は豚の皮を使っていますが、実際、「人皮」を使用した衣服って、それだけで気味悪いですが、医療技術で複製したものはどうなのでしょう? 成分で考えれば人も牛も鰐も大差ないでしょうが、なかなか悩みます(笑)

 しかも、用いているのはファッションデザイナーとして有名なA.マックイーン。もしかしたら、未来では使用したDNAや人物によって価値とかブランド化とかするのかもしれないと思いました。

【作家紹介:ティナ・ゴヤング】
1990年スロベニア生まれ、ロンドン在住。コンセプチュアル・アーティスト/スペキュラティブ・デザイナー/研究者。2016年、セントラル・セントマーチンズ大学大学院修士課程未来素材専攻修了。同年、ミューレン・ロウ・ノヴァ賞およびエーダッシュデザインアワード衣服部門銀賞受賞。特にバイオテクノロジーを応用したファッションプロジェクト「Pure Human」で世界的に知られる。展覧会HPより)

Webサイト:TwitterHP

 

 

 

作家:Diemut Strebe
作品名:Sugababe
制作年:2014-
材料:Cプリント(バイオプリントされた耳の軟骨細胞、培養基材、プラズマ、アクリル容器、ポンプ装置、マイク、スピーカー、イヤーチャンバーリザーバー、台座

ゴッホが切り落とした左耳を生きた状態で復元したディムット・ストレーブの《Sugababe》は、「タンパク質でできた彫刻」であり、話しかけると神経インパスを模した音がリアルタイムで生成される仕組みを持つ。2014年のドイツのZKMの展示では、言語学者ノーム・チョムスキーが耳に語りかけるパフォーマンスを行い、その映像がBBCやCNNなどで報道され世界的な話題となった。父系の玄孫リーウ・ヴァン・ゴッホから提供された軟骨細胞に、母系の子孫の唾液から抽出したミトコンドリアDNAを導入することでつくりだされたゴッホの耳は、「他者の身体の断片から合成された身体はたとえ本人と同一のDNAを持つものであっても同じものといえるのか」というフランケンシュタイン的なパラドックスを提示し、逆らえない運命としての「死」の概念を揺るがす。

 これこそ、「禁忌の科学」では…。
 だって、ゴッホが切り落とした左耳を、再生して芸術作品として展示するなんて、なかなかにクレイジーなな感じがします(笑)
 でも、考え方?というかテーマ?はめちゃくちゃ好きです!

Diemut Strebe: Sugababe

【作家紹介:ディムット・ストレープ】
1967年ドイツ生まれ、ボストン在住。アーティスト。カントやウィトゲンシュタインなどの哲学的な主題を合成生物学や組織工学、天文学を用いて表現する作風で知られる。主な作品に言語学者ノーム・チョムスキーと生体工学者ロバート・ランガーとの共作《Yeast Expression》など。NASAやハーバード大学の生体組織工学者チャールズ・バカンティ、遺伝学者ジョージ・チャーチ、MITの航空宇宙工学者ブライアン・ワードルなど各分野の権威と作品を生み出している。展覧会HPより)

Webサイト:HP文化庁メディア芸術祭

 

 

 

作家:Diemut Strebe
作品名:包帯をした自画像
作品名(英題):Self-Portrait with Bandaged Ear
制作年:2012
材料:ディポンドにデジタルCプリント

 これも、恐らくゴッホをオマージュした作品だと思います。
 ゴッホ自信が「包帯をした自画像」を描いていますが、それは耳を切り落としたから。

 でも、こちらの作品で包帯をしているのは、もしかしたら「再生した耳を移植している」から包帯をしているのかもと考えました。

【作家紹介:ディムット・ストレープ】
・省略

 

 

 

 

第2章「人新世」

 

「フランケンシュタイン」の始まりと終わりの舞台は、北極の氷河だった。その時代、氷河は人間の無力さの象徴であり、まだ自然は、神のつくりしものだっ た。しかし、産業革命以降の科学技術の発展、人口の増加、資源消費量の増大によって、数億年かけて生成された化石燃料や鉱物資源が数世紀で枯渇し始めているように、自然は人間が効率よく急速に富を蓄積するための搾取の対象となり、その神秘性を失ってしまった。大気汚染(エ場の排煙や自動車の 排ガス)、海洋汚染(タン力―の座礁、プラスチックやビ二ールなどの廃棄物、 家庭・工場からの排水、農薬や化学肥料の流入)、放射能汚染(原爆や原発事故)なども含めれば、かつてのような手付かずの自然を身の回りに探すことはいまや不可能に近い。実際、舞台となった氷河は、今や温暖化の影響でかなりの部分が溶け、かつての雄大な姿を失いつつある。
 オゾンホールの解明でノーベル賞を受賞したパウル・クルッツェンらはに のように人為が自然を覆い尽<し、人間の活動が火山の噴火や津波、地震、阻石の衝突といった出来事に匹敵するほどの影響力を持つようになってきたことを2000年代初期に指摘し、新たな地質年代として「人新世」を提唱した。 「人新世」の始まりは18世紀後半とされるが、「フランケンシュタイン」の主人公が、人工生命の創造に没頭していた時、美しい自然の風景にまったく心動かされなかったことは、自然を人為の及ばぬ崇高なものとして賛美した口マン主義にさえ、その凋落の兆しが記されていたことを示唆している。
 この章では、「人新世」を主題に、このような「自然」や「崇高」の概念の凋落と現代美術の関係を4作家の作品とともに省察する。

 

 

 

作家:Robert Smithson
作品名:Glue Pour
制作年:1969
材料:Cプリント

ロバート・スミッソンの《Glue Pour》(1969)は、急勾配にオレンジ色の工業用接着剤を流した作品で、人造物によるマグマの擬態やモダニズムの抽象絵画 の戯画になっている。同時に、毒性の高い人工物が自然を侵食していく本作は、 崇高な自然が凋落し、不純になる様を捉えた「人新世」黎明期の芸術として位置付けられるだろう。

 正直、この作品が何を表しているのかは分かりません……。
 解説を読むと、「人工物が自然を侵食して」いき、地表を覆うというようなSF的な意味合いが感じられるような気がしないでもないです。

【作家紹介:ロバート・スミッソン】
1938年ニュージャージー州(アメリカ)生まれ‒1973 年テキサス没。ランドアートとよばれる1960 年代後半の重要な美術運動を代表する作家のひとり。主な作品に「スパイラル・ジェッティ」(グレート・ソルト湖、1970)など。近年の主な大回顧展に「ロバート・スミッソン」(ロサンゼルス現代美術館、2004)、「ロバート・スミッソン:風景の発明」(ジーゲン現代美術館、ドイツ、2012)など。その活動は多くの作家に影響を与え、ヴィック・ムニーズやタクティカ・ディーンらがオマージュ作品をつくっている。展覧会HPより)

Webサイト:HP

 

 

 

作家:AKI INOMATA
作品名:やどかりに「やど」をわたしてみる
作品名(英題):Why Not Hand Over a “Shelter” to Hermit Crabs? -Border-
制作年:2009
材料:やどかり、樹脂、海水、水槽一式

代表作《やどかりに「やど」をわたしてみる》は、ヤドカリを3Dプリンタで作られたさまざまな都市の模型に住まわせる作品で、ニューヨークから東京へ、東京からパリへと引っ越し続けるヤドカリに、移民の問題やグローバル化した世界におけるアイデンティティの問題を読み取ることもできる。一方で、人工物を受け入れ背負うヤドカリはリテラルに人新世──人間が他の生命を圧倒し、それゆえに自らも絶滅のリスクに晒す時代──を表す優れた隠喩となっている。

 作者のHPに掲載されていた作者の解説によると、「アイデンティティを問う」作品だそう。
 ただ、ヤドカリの「やど」ってヤドカリ自身が作るものではないから、この実験自体が少し的外れな気がしました。まぁ、「ボーイ・ミーツ・ガール」的な「ヤドカリ・ミーツ・ヤド」という意味では何か始まるのかも知れませんが(笑)

 解説には「移民の問題」とも。
 なるほど、確かにそれは面白い!

 あと、この作品を何処かで見たことがあると思ったら、「Media Ambition Tokyo」というメディアアートの大きな展覧会で、アンモナイト版をしていたのを思い出しました!(作品

【作家紹介:AKI INOMATA】
東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻修了。生き物との協働作業によって作品制作をおこなう。主な作品に、都市をかたどったヤドカリの殻をつくり実際に引っ越しをさせる「やどかりに『やど』をわたしてみる」、飼犬の毛と作家自身の髪でケープを作ってお互いが着用する「犬の毛を私がまとい、私の髪を犬がまとう」など。展覧会HPより)

Webサイト:TwitterHP

 

 

 

作家:Mark Dion
作品名:1 Tray of Tar and White Fragments
作品名(訳):容器に詰められたタールと白い破片
制作年:2003
材料:FRP、タール。石膏

 タール漬けになったバラバラの白い人形の破片は、石炭や石油といった近代の動力に人類が過度に依存していることを象徴すると同時に、 再生医療や原子力発電、仮想通貨のように便利になればなるほど破滅のリスクが膨 れ上がる現代の技術の両面に板挟みになっている私たちの状況を隠喩する。

 どこか荒廃した世界観が滲んでいる気がします。タイトルの「白い破片」をよく見ると、動物とか人間の腕や頭が。少し、『猿の惑星』的な感じもします。

【作家紹介:マーク・ダイオン】
1961年マサチューセッツ州(アメリカ)生まれ。1986年、ハートフォード大学美術学校卒業。2003年、同大学名誉博士号。考古学や科学的な手法を転用した展示によって科学の「合理性」に疑問を投げかける作風で知られる。主な個展に「海洋マニア」(モナコ海洋博物館、2011)「考古学を救出せよ」(ニューヨーク近代美術館、2004-2005)、「マーク・ダイオンとテムズ川を掘る」(テートギャラリー、1999)など。展覧会HPより)

Webサイト:Webページ

 

 

 

作家:Mark Dion
作品名:Tar Pickled Birds
作品名(訳):タール漬けの鳥
制作年:2003
材料:FRP、タール

マーク・ダイオンのタール漬けになった鳥の彫刻や奇形化した鳥の写真は、社会の富を増加させるべく科学技術によって自然を支配することが、今日の環境汚染を誘発していることを暗示する。

 この作品も作者自身の解説がなかったので分かりませんが、地球規模での環境問題になっている「汚染」のことではないでしょうか。最近だと、2010年のメキシコ湾石油流出事故が記憶に新しいです。

 こうして、ド直球に訴える作品はなかなか見ない気がします。(あくまでも私が感じた内容ではありますけど)

【作家紹介:マーク・ダイオン】
・省略

 

 

 

作家:Mark Dion
作品名:4 fake fossils
作品名(訳):4つの偽の化石
制作年:2003
材料:陶器

ダイオンはまた《4つの偽の化石》などをつくり、大量消費時代の文明が地質に その痕跡を刻むことを予言したが、それはプラスチックの化石として2012年に現実 のものとなった。

 タイトルには「4つ」とありましたが、展示してあったのは写真の2つだけでした。

 そして、この作品を見た時、最初は「ん?何の化石だ?」と分からなかったのですが、少しして理解してからは笑いました(笑)
 だって、この化石って「ハンバーガーのバンズ」と「フライドポテト」じゃないですか(笑)

【作家紹介:マーク・ダイオン】
・省略

 

 

 

作家:Mark Dion
作品名:6羽の鳥
作品名(訳):6 Birds
制作年:2003
材料:X線写真

マーク・ダイオンのタール漬けになった鳥の彫刻や奇形化した鳥の写真は、社会の富を増加させるべく科学技術によって自然を支配することが、今日の環境汚染を誘発していることを暗示する。

 ちょっと、この作品も何を表しているのか分からなくて、環境問題シリーズなら、「喉にプラスチックの詰まった鳥のX線写真」とかかと思ったのですが、解説を読んで知りました。
 「奇形化」した鳥のX線写真なのですね。

【作家紹介:マーク・ダイオン】
・省略

 

 

 

作家:本多沙映
作品名:EVERYBODY NEEDS A ROCK
制作年:2016-
材料:ミクストメディア(プラスチック、貝殻、石、砂、珊瑚など)

本多沙映は、ハワイの海岸で発見された「プラスティグロメレート」 (熱で溶けたプラスチックと火山岩、海砂、貝殻などが混じり合うことでできた新種の鉱物)から着想を得て、道端で拾ったプラスチックを、溶かし合わせ磨くことで唯一無二の人工石に変える。プラスチックは、1950年以来、60兆トンという地球全体を包めるほどの量が生産されてきたと言われるが、本多のプラスティグロメ レートは、「第2の自然」として地表を覆う人工物が生み出した現代独自の鉱物で あり、人新世を閉じ込めた化石と解釈できる。

 一見すると、河原で拾ってきた石のように見えますが、石の解説を見るとなかなか面白い事になっています。
 以下、一例ですが、

名前:Tiddo(ティド)
成分:プラスチックのビニール袋1枚
   ファニーコーラのパッケージ1個
   結束バンド2本
   アルミホイルの破片1個
   小枝1本
場所:51°26′49.9′′ N5°31′28.2′′E
採掘日:2018/7/8
環境:夏の日差し
   溶接をするカールの金髪の男性
   外に佇む科学的な匂いのするオーブン

【作家紹介:本多沙映】
1987年、千葉県生まれ。アムステルダム(オランダ)在住。2010年、武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科卒業後、2013年から2016 年までアムステルダムのヘリット・リートフェルト・アカデミージュエリー学科で学ぶ。代表作の「EVERYBODY NEEDS A ROCK」のうち3点はアムステルダムの市立近代美術館が所蔵。近年の個展に「FUTUREPRIMITIVE」(GALERIE ROB KOUDIJS、アムステルダム、2017)など。展覧会HPより)

Webサイト:Webページ

 ※本多沙映さんの作者紹介が、平野真美さんと混じっているとご指摘を受け、訂正しました。ありがとうございます。(2018.9.17)

 

 

 

第3章「生政治」

 

「フランケンシュタイン」の怪物は、飢えに苦しみ、粗野な食事を続け、異質なものとして冷徹な差別を受け、海外への移住を申し出るが、怪物の増殖を恐れた主人公によって伴侶を殺され、その復讐の末に自殺した。その悲劇的な描写に、当時のイギリスの貧困層の状況と、1798年に発表された古典派経済学者口バート・マルサスの「人口論」への批判が読み取れる。つまり、マルサスの「人口論」は、「フランケンシュタイン」の著者の父であったウィリアム・ゴドウィンの言説を反証するための書物であったが、「フランケンシュタイン」の著者メアリー・シェリーは、貧困と食糧不足の対策として人口抑制を説いたマルサスに潜む優生学的な思想──貧困層の飢餓、産児制限や海外移住の容認──を怪物の描写を通して批判し 返している。
 マルサスの人口論は、1801年に実施されたイギリスの初の人口統計にも影響を与えたが、それは、「従わなければ殺す」という論理による中世の政治形態から、福利厚生や福祉を目的に個人の生を情報(出生率、死亡率、健康水準、寿命、それらを変化させる条件など)に還元し、集中管理する近代的な政治形態──哲学者 ミシェル・フーコーが「生政治」と呼んだもの──への変容の始まりでもあった。しかし、現在が、近代の生政治とも明確に異なるのは、1970年以降の遺伝子組換え技術を中心としたバイオテクノロジーの発達とその産業化によって、生命の情報化 を推し進めた点にある。いまやDNAやタンパク質や細胞から抽出した生物学的な情報は、個人の健康や能力や外見とより密接に結びついた商品化可能なデータベースとして管理されるようになっている。 第3章では、このような現代の「生政治」に焦点を絞り、ミクロレベルの物質や生物学的情報に潜む政治と芸術の未来について2作家の作品を通して提示する。

 

 

作家:Heather Dewey-Hagborg
作品名:Stranger Visions
制作年:2012-2013
材料:ミクストメディア

街角に落ちている髪の毛やタバコの吸い殻からDNAを採取し、落とした本人の顔を復元するヘザー・デューイ=ハグボーグの《ストレンジャー・ヴィジョンズ》は、自分でも気づかぬうちに周囲に撒き散らしているDNAから、性別、祖先、目や髪の色といった外見の情報、将来の病気のリスクなど、ときに本人さえも知らない個人情報を引き出せることを2012年に示唆した。この技術は、「DNAスナップショット」と呼ばれる犯罪捜査ツールとしてアメリカの国防総省の開発支援の元、既に実用化されており、その意味では、DNAによる監視と遺伝子決定論に支配された未来の「生政治」は現実のものとなりつつある。

 顔をプリントした型が壁に掛けられており、その下の箱の中にはその個人を特定する材料になった情報となるアイテムが保存されていました。

 「見知らぬ人のヴィション」と題された作品。これは誰でも閲覧できる形での展示ですけど、そのうちネットとかで個人情報が収集と集約が進めば、あながち“芸術”とも呼べなくなるのかもしれません。

【作家紹介:ヘザー・デューイ=ハグボーグ】
1982年、フィラデルフィア生まれ。ニューヨーク在住。パーソン公共空間に落ちている遺伝物質(タバコや髪の毛)を分析し肖像を制作した「Stranger Visions」など芸術と生物学を横断し、生政治を批判する芸術実践で知られる。主なパブリックコレクションにポンピドゥーセンター、V&A 美術館など。展覧会HPより)

Webサイト:TwitterHP

 

 

 

作家:BCL
作品名:BLP-2000B : DNA Black List Printer
作品名(訳):BLP-2000B : DNA ブラックリスト・プリンター
制作年:2018
材料:ミクストメディア(マイクロフルイディクス、電子機器、紙など)

2018年にBCLが発表した《BLP-2000B:DNAブラックリストプリンター》は、人間はそもそも科学技術を制御できるのかという根本的な疑問を投げかける。パンデミックを起こす危険性を持ったウイルスの塩基配列 などバイオ企業が合成を禁止しているDNA配列のみを作成して印刷する本作は、ゲノム編集などの登場によって生命を簡易かつ安価に編集できる現状が誰でも生
命科学の発展に貢献できる可能性を開くものにも、新たなバイオテロの引き金にもなり得るというジレンマを提示し、どのような未来を選び取るべきかという議論
を促す。

 「BCL」という作家…というかグループは、以前に金沢21世紀美術館で「初音ミクのDNAを展示した」というニュースで目にしたことがあります(笑)

 今回の展示。吐き出される紙にはリアルタイムで文字が印刷されていきます。
 この配列は、「パンデミックを起こす可能性のある塩基配列」なのですね。ただ印刷される文字だけでは何も感じませんが、解説を読むと恐ろしさに似た感情が湧いてきます。

【作家紹介:BLC】
芸術を通して、科学やデザインなどの領域を超えた研究・実践を行うアーティスト集団。2004年にゲオアグ・トレメル(1977-)と福原志保(1976-)によってロンドンで結成。2007年より東京に拠点を移動、近年は特にバイオテクノロジーの発展が与える社会へのインパクトに焦点を当て活動を展開。展覧会HPより)

Webサイト:HP

 

 

 


 

 

 

 最後まで読んでくださり、
 本当にありがとうございました!!

 


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