ジャコメッティ展 @国立新美術館
【一言】
細くて長くて今にも折れそうなジャコメッティ独特の立像が何体も。
でも、キュビズム(?)、シュルレアリスム(?)、実存主義(?)………なかなか理解しがたい(@@;)
立体造形作品は実物を見る事がいかに大切なのかを再認識。
目次
【作品展概要】
アルベルト・ジャコメッティは、20世紀の欧州における最も重要な彫刻家のひとり。アフリカやオセアニアの彫刻やキュビスムへの傾倒、シュルレアリスム運動への参加など、同時代の先鋭的な動きを存分に吸収した彼は、独自のスタイルの創出へと歩み出す。
それは、身体を線のように長く引き伸ばした、まったく新たな彫刻でした。ジャコメッティは、見ることと造ることのあいだで葛藤しながら、虚飾を取り去った人間の本質に迫ろうとした。
その特異な造形が実存主義や現象学の文脈でも評価されたことは、彼の彫刻が同時代の精神に呼応した証だといえる。
本展覧会は、世界3大ジャコメッティ・コレクションの一角を占めるマーグ財団美術館のコレクションを中心とした大回顧展。
(公式サイトより・一部改変)
公式サイト
【感想】
〈 全体感想 〉
アルベルト・ジャコメッティ。彼の代表作といえばやはり、細い手足を振って歩こうとする細長い人物の彫刻『歩く男』ではないでしょうか。自分もそうです。しかし、今回の大回顧展で彼が彫刻だけではなく平面の絵もたくさん残していると知りました。
にしても、なかなか理解できない展示ばかりでした(笑)ルネサンス期の絵画とかは見ればその美しさが分かります。しかし、キュビズム的な作品や実存主義的な作品になると制作者本人の感じかたが最も大切なわけですがら、見ている観者にとっては理解できなくなるのかと考えました。
キュビズムや実存主義の作品の理解や良し悪しが難しいと言いました。作品の評価は難しかったのですが、得たものも大きかったです。『実存主義』について音声ガイドで説明があり、それがとても分かりやすかったです。理論が分かれば理解が進みそうな気がしました。
ジャコメッティは彫刻作品だけではなく、数多くの絵やスケッチ・デッサンを残しています。ただ、これらの価値については一切分かりませんでした。だって落書きにも見えるんですもん。
確かに、「作家が作品を作るまでを記録した足跡」と考えれば価値はあるのでしょうが、美術的な価値が分かりません。“作者が有名だから”という部分が大きいんですかね?
作品の良し悪しの理解はなかなか難しいものの、それでも実物を観れたことはとても良かったです。『実物をみる』が自分のモットーなのですが、立体作品はそれに尽きると改めて感じました。
ジャコメッティの作品の「細さ」「長さ」「大きさ」「薄さ」は実際に実物を眺めて、前後左右から見ないと分からない部分だと思いました。
以下、理解は出来なかったものの、作品を挙げて感想を書いていこうと思います。
以降、本展のネタバレを含みます。
展示作品の写真、紹介パネルの文言、音声ガイドの台詞等を書き載せている部分があります。
気にしないという方は、見て頂けると嬉しいです。
作品表記例
0:作品名(展示目録から)
:作者名(展示目録から)
:感想─────────
※番号は作品リストと対応しています。
〈 1. 初期・キュビズム・シュルレアリスム 〉
ジャコメッティが初期に手掛けた作品が展示してあります。彼が様々な運動に加わり、色々なものを吸収して作品に反映させていた時期の作品です。
ジャコメッティの言葉が展示解説パネルに書いてありました。
「私とモデルの間にある距離はたえず増大する傾向をもっている。『もの』に近づけば近づくほど、『もの』から遠ざかる」
3:キュビズム的コンポジション──男
:アルベルト・ジャコメッティ
:見事に、キュビズムの絵画をそのまま立体化したような作品でした。平面ではなく立体のキュビズム作品は初めて見るので興味深かったです。…………にしても、男女の区別って?
5:女=スプーン
:アルベルト・ジャコメッティ
:う〜ん………ま、まぁ言われてみれば女性に見えてこなくもないです。スプーンの丸みとかは確かに確かに。(なら、ナイフは男性ですね)
7:見つめる頭部
8:横たわる女
:アルベルト・ジャコメッティ
:頭の中で、タイトルと実際に見ているものをとが一致しないのは自分だけでしょうか………? 難しいですね。(もはや、河原で拾った石を置いたものと変わらないような……)
9:キューブ
:アルベルト・ジャコメッティ
:もしかして、ふざけてます?(笑)確かにタイトル通りキューブではあるんですが…………ねぇ
10:鼻
:アルベルト・ジャコメッティ
:9番と同じく、タイトル通りです(笑)でもこの彫刻はどこか異国情緒が溢れているから好きです。
11:裸婦
12:横たわる娼婦
:アルベルト・ジャコメッティ
:まだスケッチの段階の絵ですが、すでにどこか彫刻的です。体をブロックを分けて描いている所が特に。
(画像は12番)
〈 2. 小像 〉
ジャコメッティ苦悩した時期の作品。人物の像を作ろうと、より本物に似せようとするほど像がどんどんと小さくなっていってしまいました。
以下2つの作品についての感想はともに同じです。「よくもまぁ、これを彫ったなぁ」と。
〈 3. 女性立像 〉
人物像が小さくなる事に悩んだジャコメッティは、縮小を止めるために像の大きさを「1m」と決めて制作をします。すると、今度はどんどん細くなっていきました。
音声ガイドでジャコメッティの言葉が紹介されていました。
「私もマリリン・モンローみたいな体を像に与えたいけど、細長くなってしまう」
ジャコメッティは自分の現状を理解していたし、マリリン・モンローが美しいとも分かっていたわけです。それでもこのような像になってしまうのは辛かったかもしれないと思いました。
そして音声解説を担当した山田五郎さんは以下のように解説していました。
「限りなく内側へ向かっていく縮み志向であって、同時に限りなく消していく引き算の美学」
24:髪を高く束ねた女
:アルベルト・ジャコメッティ
:お腹と胸の膨らみが女性っぽいです。他の像と違って髪や目,鼻,口など顔のパーツがはっきりと分かります。
25:女性立像
:アルベルト・ジャコメッティ
:薄いです! そのまま折れてしまいそうな薄さ。これはやはり実物を見ないとわかりません。作品を横から見て、初めてその薄さが分かりますから。
26:大きな人物
:アルベルト・ジャコメッティ
:確かに細長いものの、どこか女性らしさが漂っています。胸の膨らみとか、体全体が丸みを帯びているように感じました。
音声ガイドの中でジャコメッティはこう言っていました。
「内部に向かってどこまでも消していくこと。そして最後に何が残るか見てみよう。もしかしたら何も残らないかもしれない」
これについて、以前聞いた「正しいことの見分け方」を思い出しました。ジャコメッティは自分の目が見る対象の内側にある姿を描こうとしました。外見に惑わされず、そこにある本来の姿を描くために。見たとおりに制作し、内側へ内側へと感じ進めていって、何が一番の本物なのか見出そうとする。
以下は自分が以前聞いた「正しいことの見分け方」についてです。お爺さんが少女に話している場面です。
カギ括弧を分けます。
お爺さん:「」
少女:『』
「頭の中に二つの箱を用意するんだ。AとB、カラッポの2つの箱。Aの箱には思いつく限り何もかも入れる。例えばこの世界には何がある?」
『う〜ん……猫』
「他にもあるだろう」
『私とあなたと、両親とミルクとクッキー』
「他にも靴下や洋服や法律や、嘘やオイラーの公式なんかがある。とにかく、何もかもその箱の中に入れるんだ」
『シーツ……洗剤……ホイップクリーム……太陽……夜……』
「その中から正しくないものを見つけてBの箱に移す」
『嘘と靴下は正しくないな』
「嘘はわかるが、靴下もか?」
『たまに左右を間違える。それに立って履くと倒れそうになるから危険だ』
「ふむ。あとホイップクリームも正しくない」
『ホイップクリームに問題はないだろ!』
「食べ過ぎると体に悪い。それに口のまわりがベタベタする」
『なるほど。で、これはいつまで続ければいいんだ?』
「Aの箱の中身を1つ残らずBの箱に移すまでだ。この世界にあるものはどこかしら正しくないものだよ。どんな良い物にも悪い所が一つくらいある。Aの箱の中身を1つ残らずBの箱へ移してしまったら、今度はBの箱からまだ1番マシなものを拾い上げるんだ。それが君の正しい物だ』
『だがそれはどこかで正しくないんだろ?』
「正しくないとこを理解した上で、それでもなお正しい物が本当に正しい物だ。君は何を正しいと思った?」
アニメ『サクラダリセット』13話中会話(一部改変)
〈 4. 群像 〉
アトリエに散らばった像からインスピレーションを得たジャコメッティは、像を数体合わせる『群像』を制作します。
32:3人の男のグループ1(3人の歩く男たち1)
:アルベルト・ジャコメッティ
:この作品、好きです! 男たちがすれ違っている様子がよく分かります。一体だけ、もしくは同方向を向いてる作品と違い、それぞれが違う方向を向いているからこそ、360度ぐるり回って楽しめるのが群集の良さだと思います。
34:森、広場、7人の人物とひとつの頭部
35:林間の空き地、広場、9人の人物
:アルベルト・ジャコメッティ
:せっかくの群集なのに、直立不動は動きがなくてつまらないです。ただ、なぜだか映画のシーンに出てきそうだと思いました。 これまたアニメで恐縮なのですが、『魔法少女まどか☆マギカ』という作品に登場する「魔獣」という存在描写を連想しました。(以下の画像二枚目です。)
(画像は34番)
(『魔法少女まどか☆マギカ』より)
〈 5. 書物のための下絵 〉
ジャコメッティの下絵が展示されています。
紙と鉛筆を用いた下絵、正直に言えばその価値が全くわかりません。この程度なら高校の美術部員も描けるんじゃないかと思いました。ただ、これの価値が認められているのはジャコメッティが描いたからで、彼の制作過程をそのまま通じとったような作品だからでしょうねぇ〜。
※ということで、感想は以上で。特に個々の作品を取り上げるような事はしません。
〈 6. モデルを前にした制作 〉
紹介の中でジャコメッティはモデルについてこう言っていました。「モデルは視線を向けるたびに僅かに異なって見える」と。
ジャコメッティは見るたびに変わる対象を形にするために数週間〜数ヶ月に渡ってモデルを拘束しました。なので、彼のモデルが務まるのは親しい友人や妻、弟しか難しかったようです。
47:男の胸像
:アルベルト・ジャコメッティ
:これは面白い! 胸像といより虫みたい(良い意味)ですけど、好きです。
52:石碑Ⅰ
:アルベルト・ジャコメッティ
:見る人の高さに合わせて作られたと解説あったのですが、美術館での展示上の都合で免震台の上に乗っているんです。だから、本来は167cmの作品も25cmくらい高くなってしまっていたのが残念です。
62:横たわる女
:アルベルト・ジャコメッティ
:この絵好きです。格好と構図がすきです。ただこれも、平面の絵として自分が理解できるか形で成立しているからかもしれません。
〈 7. マーグ家との交流 〉
ジャコメッティはマーグ財団美術館に自身のコレクションを寄贈し、世界3大ジャコメッティ・コレクションになった。
67:エメ・マーグの肖像
:アルベルト・ジャコメッティ
:目の窪んだかんじが好きです。どこかガイコツとかミイラを連想させます。
〈 8. 矢内原伊作 〉
ジャコメッティのモデルを唯一務めた日本人が彼、矢内原。対象の内面を重要視してきたジャコメッティにとって、西洋人とは外見も内面も違う東洋人に興味を持ち、また制作が難航したらしいです。
矢内原はモデルの仕事を次のように語ったと紹介されていました。最後の部分に笑っちゃいました(笑)
「ちょっと僕が身動きすると、一心に僕を注視して仕事を続けていたジャコメッティは大事故に遭遇したかのようにアッと絶望的な大声を出すのである」
ここの章は特別展示が面白かったというよりも、矢内原とジャコメッティの事を語ってあり、それが面白かったです。
でも、デッサンとかは確かに東洋人らしい雰囲気を出していました。
68:葛飾北斎《うばがえとき》模写
:アルベルト・ジャコメッティ
:日本の浮世絵を模写しているけれども、やはり、どことなく西洋風になるとは使っている画材が原因なのでしょうか? 左下にジャコメッティのサインがありました!(なんだか富士山を連想させるなぁ……)
〈 9. パリの街とアトリエ 〉
ジャコメッティが作品を制作したアトリエを彼自身のデッサンや写真をもとに紹介されていました。芸術家はよく引っ越しをする事が多いそうですか、ジャコメッティは引っ越しをしなかったとか。
ジャコメッティの言葉が紹介されていました。
「最初は小さかったが、時がたち、住むほどに大きくなる」
なかなか難しい………。でも、音声解説の山田五郎さんも言っていました。日本の四畳半をその世界の全てと考えるようなところが似ていると。またもやアニメ&小説の話ですが『四畳半神話大系』を思い出しました(笑)
〈 10. 犬と猫 〉
ジャコメッティの作品の中でも有名な2作『犬』と『猫』が展示してあります。
89:犬
:アルベルト・ジャコメッティ
:この犬の像、実際に本物を近くでみると哀愁が漂ってきます。首を垂れて、雨に濡れているかのように毛が下がっていて、ジャコメッティ独特の細さがお腹を空かせたように見えて悲しくなってきます。
なんだか、「クゥーン、クゥーン」と鳴き声が聞こえてきそうでした。
90:猫
:アルベルト・ジャコメッティ
:細い猫の姿。解説では「いつも自分に向かってくる猫を正面から見ていたジャコメッティは、顔しか見ていなかったために胴体が細くなった」とありました。…………棒に顔がついたみたいな感じです。
それから、以下のアトリエのイラストや、1つ前の章で挙げたアトリエのイラストにこの『犬』と『猫』が描かれているのが分かりますか?
〈 11. スタンパ 〉
スタンパはジャコメッティの故郷です。毎年帰郷しているそう。
特に下のランプは彼が好きなモティーフだと解説がありました。確かになかなか良い雰囲気です。
〈 12. 静物 〉
ジャコメッティはモデルに動くことを禁じました。だからなかなかモデルは難しかったようです。しかし、果物とかは動かないから理想のモデルだったかもしれないです。
ジャコメッティの言葉が紹介されていました。
「世界はますます私を驚かせる。世界は一層広大で、すばらしく、一層把握し難く、一層美しくなった」
〈 13. ヴェネツィアの女 〉
パリで開かれる展示会のために作成された作品群です。1つの骨組みと粘土で制作し、満足した形になったら型をとるのを繰り返したそうです。つまり、1つの粘土の塊から15体の像が生まれたわけです。
山田五郎さんは
「ジャコメッティの作品は制作段階に意味がある。作品は現在進行形で変化している」
と言っていました。ジャコメッティが見る対象は常に変化し、それと同じように彼の像もまた変化しているのかもしれません。
114:ヴェネツィアの女Ⅰ
︙
122:ヴェネツィアの女Ⅸ
:アルベルト・ジャコメッティ
:スケール感が凄いです! これだけの女性立像が並べられると、なんだか林みたい………いや、ファッションショーを見ているかのようです。展示の仕方も三角形の台座に並べてあり、ライトでできる影が好きでした!
〈 14. チェース・マンハッタン銀行のプロジェクト 〉
ジャコメッティの作品の中でも一番有名であろう『歩く男Ⅰ』を含めた3作が展示してあり、これらは写真撮影可能で、掲載している写真は筆者撮影です。
『歩く男Ⅰ』『大きな頭部』『大きな女性立像Ⅱ』は元々チェース・マンハッタン銀行の庭に設置される予定で発注され制作されました。しかし飾られることはなく、マーグ財団美術館に所蔵されています。
126:大きな女性立像Ⅱ
:アルベルト・ジャコメッティ
:解説では「崇高さが現れている」とありました。見上げるような大きさの立像はまっすぐに前を向いていて、どこか凛々しさを感じました。 ちなみに、大きさは276mです。
横から見ると明らかですが、とにかく細い!!!!
127:大きな頭部
:アルベルト・ジャコメッティ
:解説では「生者の強い眼差しを感じる」とありました。頭部なのに確かに目力がすごくて、力強さが滲み出ていました。 この頭の大きさは95cmです。
この眼差し✨
128:歩く男Ⅰ
:アルベルト・ジャコメッティ
:解説では「人間が重力から開放された瞬間の軽さ」とありました。今までのジャコメッティの作品は直立姿勢のものが多かったので、こうして前進しようとしている姿はどこか生気を感じました。大きさは183cm。
この作品を前方向から見る機会なんて、そうそうないですよ!
〈 15. ジャコメッティと同時代の詩人たち 〉
ジャコメッティの同時代に生き、彼が挿絵を書いた作品が展示してありました。
正直、知っている作家の名前がなく、さらにジャコメッティの絵は個人的にそこまで好きと言うわけでもないので、スルーしてしまいました。
〈 16. 終わりなきパリ 〉
最終章です。ジャコメッティが絵を描き、編集しようとしていた画集『終わりなきパリ』で締められていました。
「しようとしていた」というのは、実際にはジャコメッティが完成前に死んでしまいました。
ここまで、最後まで読んで下っさた方、途中でも目を通して下っさた方、本当にありがとうございます。今回の感想は自分自身でもあまりいい出来ではないと思っています。なかなか作品展の内容や、ジャコメッティの考え方を上手く理解仕切れなかった部分があると思います。
それでも、やはり本物のジャコメッティが作成した『歩く男』を観れたことは良かったです。
長々とお付き合い下さり、ありがとうございました!
こちらは同時期(2017年6月末~夏休み)に国立西洋美術館にて開催されている『アルチンボルド展』の感想です。かなり面白くて、楽しめた作品展でした!
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