※ネタバレあり
西尾維新『傷物語〈こよみヴァンプ〉』
〜青春は、「いたみ」なしでは過ごせない。 〜
【一言】
終始緊迫感とスピード感が絶えない内容展開と文章で、緊張感と疾走感を持って最後まで読めました!
そして、最初から最後まで美しい物語でした。
目次
【内容】
高校3年生になる春休み、阿良々木暦は一人の吸血鬼に出逢う。四肢を失い瀕死状態の美しき吸血鬼に。
彼女は怪異の王にして、「怪異殺し」の異名を持つ鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードだった。
自らの血を差し出して彼女を救った暦だったが、彼女の眷属として吸血鬼化してしまう。人間に戻るためには失われた彼女の四肢を、それを奪った三人のヴァンパイアハンター取り戻さなければならなかった。
ドラマツルギー
エピソード
ギロチンカッター
阿良々木暦の地獄のような春休みが幕を開けた──。
『傷物語』の出来事をタイムライン(年表)としてまとめました。
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【感想】
〈感想外観〉
最後まで読み終わって思うのは、「本当に美しい物語だ」ってことです。
書き方も、阿良々木くんの行動も、言葉の使いまわしも、キスショットのセリフも、登場人物の肩書も。
そして、緊迫感とスピード感に満ち満ちた展開がとても楽しかったです!
瀕死のキスショット、吸血鬼ハンター達とのバトル、羽川への危害、主人と従僕の決闘……etc.
キスショットや吸血鬼ハンターの肩書きとか説明が格好良すぎ!なにあれ?めっちゃ真似したい!(笑) 語呂を合わせて、韻を踏んで、さらにクールな言葉で飾りまくる……文才ありすぎですよ!
さらに、時間描写が多かった印象です。曜日や経過日数、午前午後の区切りや春休みという縛り。これがさらに緊迫感を際立たせていたと思います。
『傷物語』は映画館で3部とも鑑賞済みです。映画の記憶がかなり鮮明なので、差異が見られて良かったです。
キスショットに出逢う場所、省略されたセリフ、対ギロチンカッター戦、映像表現などなど。(詳しくは下で書きます)
お気に入りのシーンがあります。『化物語』では「ヶ原さんとのデート」くらいだったのですが、『傷物語』は複数箇所あります。
「キスショットと出逢うシーン」、「対ドラマツルギー戦」、「忍野メメが喋っているシーン」、「暦とキスショットが戦う場面」ですね。
それにしても、本当にラストが良かったです。良すぎました。最高です!
………それに10歳から27歳までのおっぱいを楽しめて、羽川のパンツを拝めたうえに、辱めを受ける羽川を見れちゃうなんて……(変態チック笑)
〈美しい物語〉
そもそもまず、キスショットが美しいという部分があると思います。彼女が関わるシーンが本当に美しく感じました。
まず四肢を斬られて瀕死のキスショットを暦が助けるシーン。この状態になっても威厳を保つキスショット。死への恐怖で足掻いてもなお尊厳の片鱗が伺えるような雰囲気。
話は飛んで最後のシーン、暦とキスショットが対峙する場面。お互いに殺し合うのに、溢れるのはやっぱり堂々たる威信を持ったキスショットと、覚悟が決まった暦の強い意志。
さらに、キスショットが隠していた気持ちと考えの真相を知ったときには「あぁ、そういうことだったのか……。」と涙が出そうなくらい感動しました。すごく綺麗な想いだと思ったんです。500年間生きてきて、ここまで一人目の眷属の事を引きずっていて、それを阿良々木くんに重ねる──その孤独さ故の悲しみが想像できて感動しました。
美しいと思ったシーンはまだあります。
・ドラマツルギーが降参したシーン
・暦が羽川に謝ったシーン
・最終対決後、暦が忍野を呼んだシーン
・物語最後の暦のモノローグ
それから、書き方、表現の仕方、言葉の使いまわしが本当に美しいと思いました。
全編を通しての暦のモノローグ、キスショットの喋り方、吸血鬼ハンター達の肩書……。
〈緊迫感&疾走感〉
まず展開が醸し出す緊迫感と疾走感から。
そもそも起こる事件が衝撃的すぎますよ(笑)
夜道で瀕死の吸血鬼に出逢い、血を差し出すって時点で緊迫感はほぼMAX。
目を覚ました途端に日光の下に出て焼身。吸血鬼だと自覚した次の瞬間には、3人の吸血鬼ハンターと戦う事に。
気づけば場所は直江津高校グラウンド。ドラマツルギーを倒し、2戦目の対エピソード戦へ。ここで羽川が負傷するという衝撃的な緊張を味わいつつも勝利。しかし今度は誘拐されてしまった羽川を救うためにも挑んだ3戦目対ギロチンカッターで人間を捨てた暦。
安堵も一瞬。最終ボスが忍野だった事を知り再び衝撃。その夜、仲良くお喋りかと胸を撫で下ろしたにも関わらず、直後に人間を喰らうキスショット。
そして最終決戦、暦vsキスショットへ………。
………めっちゃ『2分でわかる傷物語』みたいなダイジェストになりましたね(笑)でも、これだけの内容が詰まっていて、しかもそのどれもが衝撃的な内容ならば、そりゃ疾走感を湧きますし、緊迫感だって溢れてきますよ。
そして状況からくる緊迫感と疾走感から。
『吸血鬼に襲われた』という状況、『人間に戻る』という目的が物語の大元なわけですが、そこに『制限時間』が加わった事によってより緊迫感がましたと思います。
「春休み中に終わらせなければいけない」と暦自身は言っていなくても、新学期の事を心配している彼から伺える時間的制約が一気に緊張を高めています。
そして、その効果を増幅するようにいろいろな場所で時間描写があったのが良かったです。「襲われてから数日間寝ていた」「○曜日の夜」「4月△日」「□日後には新学期」……etc.
このように具体的に時間の経過が描写してあったので具体的に流れとタイムリミット(?)をイメージしやすかったです。 また、昼夜逆転生活ゆえに日付の把握というのに若干混乱しました(笑)
〈バトル〉
バトル場面、凄かったですねぇ〜。吸血鬼vsプロハンターという事で、常人同士の対決では決して見られないようなスケールの激しいバトルが読めました!
暦が『不死力が最大の防御』と言っていたように、守りに傾倒するのではなく攻撃に集中していたから面白かったんでしょうね。
対ドラマツルギー戦。
まずドラマツルギーが映画版の低い声で脳内再生されて興奮!「ハートアンダーブレードの眷属よ。」って台詞が大好きです!
1戦目と言うこともあって、結末は知っているものの、緊張しました。また、吸血鬼のバトル時におけるダメージの描写など1戦目だからこそ詳しく書いてあったので、読んでいて面白かったです。
映画ではカットされていましたが、ドラマツルギーが初戦だったのは『暦を仲間として勧誘したい』という目的があったからなんですね。
対エピソード戦。
吸血鬼としての利点を最大限に利用して、かつ弱点をほぼ皆無なレベルまで持っていく戦術が凄い。(友達の感想のパクリ)
暦も解説していたように、弱点を無くして、戦闘力は利点を活かして上昇させている訳だから、一見したら最強なんじゃ……。羽川の助けがなければ絶対に勝てなかったでしょうね。
個人的に、エピソード君は嫌い。チャラいというか、礼儀を無視しているというか、余裕をこきすぎているというか……そんな部分に好意を抱けないですね。
対ギロチンカッター戦。
キスショットが「人間ゆえに、油断するな」って言っていましたけど、確かに人間らしい“汚い戦法”でした、人質をとるなんてまさに人間らしいような……。
映画では2部目『熱血篇』の最後で描かれ、いきなり終わってしまった印象だったのですが、原作でもほとんど描かれていないのですね。
対キスショット戦。
最強の吸血鬼とその眷属。不死力や回復力にほとんど差がない二人か本気で戦う最終戦。会話をしながらお互いに傷つけ合う、斬りつけ合うっていうのが良かったです。手刀を交わらせ、一方が叫んで、一方が笑う……。
最終戦は緊張感よりも激しさが印象に残る戦いでした。………というよりも、戦いの細部よりも戦闘前の会話、戦闘後の会話の方が印象にも記憶にも残っているんです(笑)
〈肩書〉
肩書というか、二つ名というのか……とにかく格好良すぎですよ!!
忍野メメ
「僕かい? あるときは謎の風来坊、あるときは謎の旅人、あるときは謎の放浪者、あるときは謎の吟遊詩人、あるときは謎の高等遊民」
(P.89)
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード
鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼。
伝説の吸血鬼。
怪異殺しら怪異の王。
彼女は吸血鬼だ。
目もくらむような金色の髪と、シックなドレスに彩られた、美しい、血も凍るような美しい吸血鬼──その他に説明はいらない。(P.309)
吸血鬼ハンター
ドラマツルギーが仕事、エピソードが私情で吸血鬼を狩っておるのだとすると、ギロチンカッターは使命で吸血鬼を狩っておる。
(P.200)
ドラマツルギー
二メートルを越える巨漢の男。
両手に波打つ大剣を持つ、二刀流。
かの大剣はフランベルジュという種類らしい。
筋骨隆々──筋肉の塊のような男。
前髪をかきあげるカチューシャが印象深い。
キスショットから右脚を奪った、吸血鬼狩りの専門家──である。(P.102)
エピソード
体格の三倍はあろうかという、体重の三乗はあろうかという巨大な十字架を片手で方に担ぐ、白ランで三白眼の男。
彼は──ヴァンパイア・ハンターだそうだ。
報奨金目当てで吸血鬼を狩る、言うなら殺し屋。
そして──更にそれに加えて。
彼は、ヴァンパイア・ハーフだという。
ハンターにしてハーフ。
角度によっては幼くも見えないその風貌とは裏腹に、キスショットから左脚を奪った吸血鬼退治の専門家──それが、エピソードなのである。(P.168)
ギロチンカッター
ハリネズミのような髪型をした、神父風の男。
一見、穏やかに見える糸目。
人間。
怪異の存在を否定する──人間。
怪異の存在を消去する──人間。
武器を持たない。
信仰による吸血鬼退治の専門家。
キスショットが言うところの、『新興宗教』の大司教にして、裏特務部隊闇第四グループに属するクロ分隊の影隊長。
ヴァンパイア・ハーフのエピソードがえげつないと表現し、キスショットでさえ警戒すべきだと言った、聖職者。
それが──キスショットから両腕を奪った、ギロチンカッターなのだった。(P.213)
〈映画との差異〉
先に映画の方3部を観ているので、そことの違いが読んでいて楽しかったり、驚いたり。
まず、暦がキスショットと出逢った場所。映画では駅のホームでしたが、原作では道路でしたね。TVアニメ『化物語』の冒頭でもこのシーンがアニメ化されていましたが、こちらのほうが原作に忠実だとしりました。
TVアニメ化物語冒頭、『傷物語』挿入部分
対ギロチンカッター戦。上でも触れましたが、映画では暦の腕が植物化して羽川を取り戻した所でエンディングだったので、「え!?これで終わり?」とてっきり省略されたのかと思っていましたが、原作でも同じようなところで切れていましたね。
あと思ったのは映像と音楽。
まず、映像ですが映画の第一部目を見た時に「あれ?絵質がTVアニメ版とは違う」と思いました。色の塗り方とか、キャラの書き方が微妙に違っていました………格好良く、シックな雰囲気になっていたんです。映画では若干違和感だったのですが、原作読んだらそれにも納得です。なんというか……回想話というか、他の話のは一線を画す雰囲気の原作でしたから。
それから、音楽。映画のニ部目のバトルシーンで流れたBGMが本当に気に入ったのですが、原作読んでいてもそれが頭の中で鳴り響いていました(笑)
以下、映画3作の感想です。
〈お気に入りシーン〉
小説の『傷物語』は一番好きかもしれません。お気に入りというか、好きなシーンが幾つもあって。(まぁ、全編的に好きなんですけど)
まず『暦が瀕死のキスショットと出逢うシーン』。
この場面の美しさについては上で語ったので割愛します。
その他の理由ですが、キスショットが取り乱して叫び懇願する姿と、暦が悩む姿が好きでした。
そして『対ドラマツルギー戦』。
これも上にも書きましたが、初戦という事で吸血鬼同士のバトルがこと細かく描かれていたり、暦が吸血鬼能力の使い方を知ったりと情報量が多かったです。
あとは『忍野メメが喋っているシーン』。
『化物語』では忍野メメの台詞は説明ばかりでつまらなかったのですが、『傷物語』ではふざけたり、とぼけたり、見透かしたような台詞を吐いたりと“理想の忍野像”で会話していたのが良かったです。
あの忍野のアロハな雰囲気、「バランスを取るだけ」という仕事の主義が会話の中に現れたいて好きでした。
『暦とキスショットが戦う場面』は散々書いた気がするので割愛します。
〈パンツ&おっぱい〉
………変態じゃないですよ?
まずはパンツから。
羽川と出会うと同時にパンツを見て、ドラマツルギー戦の後に見て、生パンツを入手するとか……羨ましすぎるぞ、暦!!
でも正直、もっと官能的なのかと思ってました。シャフトの映像だともっと派手で大人なパンツでしたけど、小説の説明読む限りそうでもなさそうでしたね(笑)
ついでに羽川をもう一つ。暦が逃げ込んだ高校の体育館内で………羽川さん、結構変態!? おっぱいを揉ませることを許諾するだけならまだしも、自らブラジャーを外し、さらには暦の言う通り台詞を復唱するなんて……。
「あ……あ、阿良々木くん、ど、どうかっ、わ、私のノーブラおっぱいをモミモミしてくださいっ、お願い……、お願いしますっ」
︙
「阿良々木、くんに……おっぱいを揉んでもらえるなんて、と、とても光栄ですっ……」
︙
「阿良々木くんに揉んで……揉んでもらうためだけにっ、がっ、頑張って、こんないやらしいおっぱいに、育てましたっ」(P.304)
おっぱいの話に移りましょう。
おっぱいの遍歴が、10歳から27歳までのおっぱい描写が楽しめるなんて!しかも、金髪白ドレスの幼女から少女、大人の女性まで!
あ、羽川のも凄いらしいですね(笑)
キスショット、胸がすげぇ大きさだ。
スキップするたびに揺れる揺れる揺れる揺れる。
ドレスの胸元も、割と開いている感じだし。
そうか、あれ(十歳)がああいう経過(十七歳)を辿って、最終的にはこう(二十七歳)なるのか……。
神秘だなあ。(P.247)
〈ラストシーン〉
少し長いですが、『暦vsキスショット戦の終わり』〜『物語の最後』までです。このラストが本当に良かったです!
キスショットの本当の想い、500年の孤独、死ぬつもりだったという事実と暦を本当に人間に戻そうとしていた事実、暦を一人目の眷属と重ねていたと知った事。
キスショットが凄く優しく思えたし、憐れにも思えたし、悲しくも感じました。
そして、忍野メメに対して依頼をすべく大声で叫ぶ暦。この場面結構好きです。
そして、事件が解決されてから迎えた新学期。暦のモノローグが本当に良かったです!!
互いに傷つけ合った僕達は、その傷を舐め合う。
傷物になった僕達は、互いに互いを求め合う。
「お前が明日死ぬのなら僕の命は明日まででいい──お前が今日を生きてくれるなら、僕もまた今日を生きていこう」
僕は声に出して、そう誓った。
そして、傷物達の物語が始まる。
赤く濡れて黒く乾いた、血の物語。
決して癒えない──僕達の、大事な傷の物語。
僕はそれを、誰にも語ることはない。
小説『化物語』の感想です。
『傷物語』の出来事をまとめたタイムラインです。(最初のとは違うバージョンです。)