静かな空気が漂う映画。 でも決して暗さは無く、背後にはささやかな幸せが隠れてる。 主演の朝倉あきの、寡黙で臆病さの滲む雰囲気と、会話などから伺える「普通の人」の演技が絶妙。 時は流れ、人も変わるけど、心は桜の季節のまま。 そんな彼女の「歩く」場面が印象的。
※ネタバレなし。
※画像は予告映像のキャプチャです。
2018年3月24日鑑賞
四月の永い夢
【評価:4.4/5.0】
【一言】
静かな空気が漂う映画。でも決して暗さは無く、背後にはささやかな幸せが隠れてる。
主演の朝倉あきの、寡黙で臆病さの滲む雰囲気と、会話などから伺える「普通の人」の演技が絶妙。
時は流れ、人も変わるけど、心は桜の季節のまま。 そんな彼女の「歩く」場面が印象的。
ストーリー
3年前に恋人をなくした女性。彼女はその時からずっと時間が止まっていた。そんなある日、彼から一通の手紙が届く。
そして彼女が出会ったのは、手ぬぐいを染める工場で働く一人の青年。
手紙と青年が、彼女の止まった時間を動かし始める。
予告動画
感想
感想外観
朝倉あきさん主演という事で期待してて、試写会に当選したので鑑賞しました。
数年ぶりの実写邦画なので心配でしたが、素晴らしい作品でした!
映画を観て感じたのは、作品全体にとてもひっそりとした、静かな空気が漂っているということ。
でもそれは決して嫌なものではなく、むしろ心地良いまでに落ち着いた静寂。
そんな静けさを醸し出しているのか、もしくは彼女さえも飲み込まれているのか。
主演の朝倉あきさんが演じたのは、喪失感と背徳感を背負った寡黙な女性。少し触れただけで壊れそうな繊細な演技が素晴らしかったです。
そして静かな作品を彩るのは「音」と「色」。
ラジオから流れる音楽や声は静かな画面に程よい雑味を加え、ある時には気分をも操る。
そして作品に満ちる“静寂の空気”に鮮やかさを加えるのは、桜のピンクや菜の花の黄色、町の灰色や森の緑。
徐々に移ろう物語がとても良かったです。
錆び付いた自転車をゆっくり動かすように、止まった時間がゆっくりと流れ出す。そんな小さく巧緻な変化が丁寧に描かれていました。
歩く、喋る、聴く、読む。
そんな何気ない日々の動作が物語を動かし、主人公を押して、観客に見せつけます。
「進んでいるんだぞ」と。
静寂に包まれた映画
映画を観ると気がつくと思うし、感じると思います。
この作品はとても静かな「空気」「雰囲気」「ベール」といったようなものに包まれているように感じました。
ひっそりと立ち込める霧のように、朝靄のように、静寂に包まれています。
でもその静けさは決して不快なものでも、気持ち悪いものでもありません。重くないし、辛くない。
むしろ心地良く感じられるほどに落ち着いていて、気持ちが良いです。
まるで、物語の背後に潜むささやかな幸せを隠しているように感じるというか。
例えの「霧」を再び持ち出すなら、霧が晴れたら綺麗な景色が見られるように、そっと包み込んでるだけで、その霧は隠しているだけというか。
それに、「霧」はそれ自体が美しいです。
本作も、そんな「静かな雰囲気」がとても美しかったです。
絶妙に巧緻な演技
主演を努めた朝倉あきさんの演技が素晴らしかったです。
良かったのは雰囲気。
人付き合いが苦手で、口下手で寡黙。どこか臆病さや不安を抱えているような、そんなひっそりと静かな“雰囲気”を見事に演じていたと思います。
恋人を失った喪失感と背徳感。
それを胸の中に抱えた彼女は、少し強く触れただけでも崩れてしまいそうなほど。そんな脆い女性像を描いていました。
脆いと言っても、その脆さは弱さとは違います。
弱々しく頼りなげに見えても、その芯には「強さ」とともに「自分」を見つめる力が籠もっているように感じました。
それから「普通の人」の演技が素晴らしかったです。
何気ない会話、たわいないお喋り、とりとめない言葉。そんな日常の生活からは、「演技」とは感じられない、普通な女性の普通の生活が表れていました。
ときおり見せる、偽りのない柔らかな笑顔がとっても素敵でした。
彩る音と色
静かな雰囲気の漂う画面に彩りを添えているのは「音」と「色」です。
まずは音。
ラジオというオールドメディアから流れる音楽や音声は、映画に程よい雑味を加え、生活感を出しているように感じます。
また、「歌」が雰囲気をガラッと変えたり、気分を操ったりととても強く、しかしこっそりと働いています。
劇中挿入歌 赤い靴「書を持ち僕は旅に出る」
そして「色」。
静寂に包まれた画面の印象は青色や灰色。でも、そんな画面に彩りを加えているのは「色」です。
桜のピンク、菜の花の鮮やかな黄色。緑に色づく山や町の灰色。花火の赤色に手ぬぐいの白。
それが凄く綺麗に見えました。
そっと移ろう物語
90分の中で、そっと流れていく時間を丁寧に描いていました。
ゆっくりと、小さく、少しづつ。
なかなか説明するのは難しいですが、その微妙な移り変わり、ゆっくりとした流れがとても好きでした。
そんな物語では多くは語られません。
全部を正直に丁寧に描くのではなく、所々を曖昧ににしたり、ぼやかしたり。
名前や理由、手紙や気持ちと色々ですが、全部は語りません。
だから、映画に変な滑らかさがあるというか、100%完全に描ききらない事で現実感が増しているように感じました。
歩く、歩く
映画の中で印象的だったのは、主人公の朝倉あきさんが「歩く」シーン。
何度か描かれるこの歩くシーンは、毎回少しづつ違って、その違いが薄っすらと伝わってきます。
それがとても印象的でした。
歩く、喋る、聴く、読む。
誰もが普段何気なくしている普通の動作。でも、本作ではそれが物語を前へと動かしていき、主人公を前へと押していきます。
そして、そんな小さな事たちが、私達観客に訴えるのです。
「前に進んでいるぞ」と。
ネタバレあり感想
以降、映画本編のネタバレあり
ネタバレあらすじ&感想
序盤
桜咲き、菜の花が咲く場所で喪服姿の初海が語る。
恋愛に奥手だった彼女は宛先のないラブレターを書いて机にしまった事、大学生になって東京に出てきて、恋を得たことなど。
その彼は不思議な人で、決して目を合わせようとはしなかった。
冷めない夢の中を漂うように、曖昧な春の陽射しの中に閉ざされて、「その四月の中にいた」。
タイトルバック。
朝、起きて支度をして家を出ようとした時、ポストに投函されていた封筒を開ける。
中には、手紙が。
亡き母からの手紙によると、彼氏のパソコンを処分する際、初海の文書が見つかったのだそう。
一緒に何も書かれていない真っ白な封筒が同封されていた。
そして、働いている蕎麦屋へ出勤。
お昼、お客さんが入る中で、近所の工場で手ぬぐいを作っている青年から個展のお誘いを受ける。
夜、蕎麦屋の営業が終わって帰ろうとする時、蕎麦屋の女将さん(?)に呼び止められ、打ち明けられたのは、店をたたむという事。
そして、せっかく教員免許を持っているのに、今のフリーターのような生活では駄目だから、ちゃんと安定した仕事を探すべきだと勧められる。
銭湯に入りながら、自分の手を見つめる。
「手が大きいのが嫌だ」
そんな会話をしたのは、亡き彼と。
前半
7月のある日。
次の職探しの為に休暇を貰っていたが、ダラダラとしてしまう。
帽子を買って、公園で休み、喫茶店で仕事を探す。図書館で本を読み、そしてふと足を止めたのは公民館。
そこでは、手ぬぐいの個展が開かれてる。
フラッと入ってみると、そこにはお客さんに説明をする彼の姿が。でも、会場に入ることなく朝倉は遠くから見て、帰ってしまう。
そして、映画館で映画『カサブランカ』を観る。
そこで出会った派手な服装の女性。名前は村松楓で、彼女は初海の教え子だった。
そして2人でランチをしながらお互いの話をする。彼女はジャズシンガーをしているとの事だった。
先生をやめた理由を詮索する楓に対し、初海は軽い不快感を覚える。
そんな会話で頼まれたのは、今夜泊めてほしいということ。行くあてがなく、彼氏に殴られたらしい。
一晩だけ泊めてあげる事に。
次の日。
初海は大学の時の友達と会う。その友達は妊娠しているらしかった。
産休する間、代わりに非常勤講師としてピンチヒッターを頼む。しかし、初海は曖昧な返事しかしない。
一方、楓はこっそりと家に帰って家出の支度をしていると、そこにDVをする彼氏が帰宅。トイレに籠もった彼女は朝倉に電話して助けを求めた。
楓のいるマンションについた朝倉は、下の階の住人に助けを求めながら、警察に電話をし、楓をマンションから連れ出した。
雨でビショビショになりながら帰り、2人で銭湯に浸かりながら、手紙の昔の彼の事を話す。
3年前、突然死んでしまった彼。無くなる1時間前にFacebookに投稿がありパスタの写真が(笑)
鼻歌を歌いながら、少しだけいい雰囲気に。
中盤
夏のお祭りの日、初海と楓は浴衣を着て出かける。
屋上で町内会の仲良しさんたちとバーベキューをし、夜は提灯をともして皆んなでお喋り。
そこに手ぬぐいを作っている彼も来た。
初海は個展に行けなかった事を謝り、名前を聞く。
シグマフジタロウといいます。
──それは本名ですか?
志熊富士太郎といいます。
お互いに名前を知り、話しながら打ち上げられる花火を見る。
そして荷物を持ちながら2人歩きながら帰り道。お礼にジュースを奢りながら、ベンチで休み、2人で話す。
「初海さんってどんな人なんですか?」
「どんな人なんでしょう……?」
ラジオが好きだと言った彼女。
音楽だけを聞いていると悲しくなる事があるけど、同じ曲でもラジオだと元気になれる事があるのだと。
そして、「赤い靴」の『書を持ち僕は旅に出る」という曲が好きなのだそう。
そしてBBQの道具を片付ける染め物工場へ着き、中を少し案内する。
手ぬぐいを乾している2階へ。模様がついた手ぬぐいの中を歩く初海がとても綺麗。
ふと目に留めた手ぬぐい。それは志熊さんが作った作品だった。彼はその手ぬぐいをあげる。
そして床に寝そべり、吊り下げられた沢山の手ぬぐいを見上げる。
初海は一言「綺麗」と。
帰り際、彼は言う。
「初海さん、いい顔していると思います」
初海は愛想笑いが似合わない人。
「志熊さんは不思議な人だ。おやすみなさい」
そういって初海は帰っていく。
夜風に当たりながら、歩き帰る初海。
ふと立ち止まると耳にイヤホンをつけ、再びあるきだす。音楽に乗りながら、楽しげに歩く。
でも、突然音楽を止める。
夜。
初海は、彼が残した文書のはいる真っ白な封筒を前にしている。
そして彼の母親に電話する。手紙の返事も出来なくて申し訳ないと誤りながら、電話を楽しんでいるように見える。
机に置かれた鏡を見て、自分も気がついた。
別の日。
楓はジャズシンガーとしてバンドとともに喫茶店こステージに立ち歌う。
初海と志熊は演奏を聴いた帰り道、初海は「楓ちゃんも志熊さんも生き生きしているなぁ〜」と呟く。
そして志熊は、蕎麦屋が閉まってしまうから初海が急に何も言わずに消えてしまうんじゃないかと心配し、「また会ってください」と頼む。
曖昧な返事をする初海に対し、「前の人の事なんですか?」と聞いてしまう。
初海は答えを返す事なく、一人で帰ってしまう。
後半
初海は電車に乗って富山へ向かった。
客車の向かい合う席に座る朝倉の傍らには、開かれた真っ白な封筒と手紙が置いてある。
着いたそこは死んだ彼の実家がある所。
迎えに来てくれた母親の車に乗って家に行き、仏壇に手を合わせる。
まだ彼の骨壷を墓にしまえないんだそう。
そして家族と一緒に食卓を囲み、夕飯を食べ、お風呂上がりに、母とアルバムを見てた。
そこで初海が打ち明けたのは、彼と別れていたという事だった。彼が亡くなる4ヶ月前に分かれてたのだ。
これまで誰にも言えなかった事を、謝罪の言葉と一緒に母親に話す。
母親は責めることなく、息子と同じ時間を過ごしてくれたことに対しての感謝を口にした。
そして朝倉は、彼からの最後の手紙を燃やす。
彼からの最後の手紙。
その最後には、「僕のことは忘れて幸せになってください」と書いてあった。
田舎の朝を歩く。
セミの鳴き声が聞こえる、緑に満ちた道を歩く。
鋭い夏の陽射しを見つめ、そして気持ちを切り替えるように正面を強く見る初海。
亡き彼へ返信の手紙を書く。
沢山の手紙への感謝と、返信しなかった筆不精さへの謝罪。
最後の手紙きは「忘れて」とあるけど忘れないし、あなたからの手紙は宝物。
追伸、こちらは夏です。
終盤
富山からの帰り道。
電車の遅延により、降りた駅で入った食堂に流れていたラジオ。
そこから流れてきたお便りの主は、富士太郎さん。告白して玉砕した悲しみと、彼女を余計な一言で傷つけてしまった事を謝りたい。
そして、赤い靴の「書を持ち僕は旅に出る」をリクエストした。
ラジオの曲を背景に、エンドロール。
「書を持ち僕は旅に出る」
公式Twitter様にこんなお言葉をいただけるなんて……….。
とっても素敵な感想を書いていただきました! https://t.co/zHnTfKZIFr
— 映画『四月の永い夢』5月12日全国公開 (@shigatsu_yume) 2018年3月24日
最後まで読んでくださり、
本当にありがとうございました!!