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【映画】『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』───苦悩の末の大いなる偉業

※ネタバレなし。

※画像は予告映像のキャプチャです。

2018年1月18日

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密
(原題:The Imitation Game

 

 

 

【評価:4.4/5.0】

 


【一言】

コンピュータの父と呼ばれ、独軍の暗号「エニグマ」を解読した天才数学者の物語。

天才が故に周囲から理解されなかったり、同性愛者という自身の性質が壁になったりと、描かれた「苦悩」が非常に心苦しかった。

困難な中で「暗号を解く」という目的を一心に取り組む姿が素晴らしかった。 特に、暗号が解けた瞬間の喜びが最高!!


【目次】

 

 


 

 

ストーリー

 第二次世界大戦中。
 快進撃を続けるドイツ軍を支え、連合軍を苦しめていたのは、解読不能といわれた暗号「エニグマ」だった。

 戦争に終止符を打つために、英国は国内から最優秀の数学者や言語学者を集めて暗号解読のチームを結成した。そこに入ったアラン・チューリングは天才的な頭脳であるマシンを作り始める。

予告動画

 

 


 

 

作品データメモ

監督:モルテン・ティルドゥム
制作:ブラック・ベア・ピクチャーズ
原作: アンドリュー・ホッジス『Alan Turing: The Enigma
キャスト:ベネディクト・カンバーバッチ and more.
上映時間:114分
日本公開:2015年3月13日
配給:ギャガ
公式サイト

 

 


 

 

感想

感想外観

 「エニグマ」とアラン・チューリングの物語は以前から知っていたのと、彼が関係する小説を読んだので、今回この『イミテーション・ゲーム』を観ました!

 まず印象的だったのは、「天才」だから故に抱えた「苦悩」です。
 周囲は彼のことを理解せず、たった一人で戦わなければならない辛さや、周りから浮いている空気の重さなどが、見ていてひしと伝わってきました。(ただ、彼にも悪い点はあると思いますが)

 また、彼はもう一つ“秘密”を抱えていて、それは当時では違法になっていた同性愛。

 その同性愛。
 昨今でようやく世間的な理解が深まってきた同性愛、LGBTの問題。英国がこの英雄を長年隠してきた理由の1つに、この同性愛者だったからという点があるそうです。
 個人の趣向に対する理不尽な法律と、世間の目に嫌悪感さえ抱きました。

 そして、暗号「エニグマ」を解読するという偉業!
 解読すら不能と思われた数列と文字列に一日中向き合い、解けない敗北感と闘いながらの作業。

 困難な状況が続く中、ようやく現れた解読の兆しと、遂に成功した解読の瞬間が本当に嬉しかったです!!!!

 主人公アラン・チューリングを演じたのは、ベネディクト・カンバーバッチ。
 「シャーロック・ホームズ」や「ドクター・ストレンジ」など天才人物を演じる彼らしいイメージが加わって、非常にいい人物になっていました。

 実際の映像を加えたりした見せ方が良かったし、音楽も記憶には残らないけど、とても印象に残っていて良かったです!

 

 

 

 

天才ゆえの苦悩

 この映画を観ていてひしと感じたのは「天才ゆえの苦悩」でした。

 誰よりも頭が良くて、今何が必要なのか分かっているけれども、彼の考えている事が周囲の人達から理解されない。

 ただでさえ難しい問題に取り組んでいる中で、一人孤独に戦わなくてはならない状況はかなり辛かっただろうと思います。

 周りから明らかに「嫌い」だという眼を向けられたり、仲間外れにするような空気が漂ったりする状況は、本当にイジメと変わらないと感じました。

 ただ、彼にも若干悪い点はあるようにも思いましたね。
 もちろん、子供時代から変わり者で周囲とコミュニケーションを取るのが苦手な性格だったのかもしれません。

 しかし、自分より知能が劣るからといって敬意を払わない理由にはならないし、少しでも協調性を見せるべきであったとも思います。

 もう一つ、彼の苦悩の原因だったのが「同性愛者」であるということ。
 当時、同性愛は違法であり、もちろん社会的な理解などほとんど無いでしょうから、胸のうちに隠しておく必要があり、それは辛いことだと思います。

 むしろ、チューリングの周囲の人々は理解がある人達ばかりだと思いました。

 

 

 

 

同性愛について

 私が同性愛について触れるのはあつかましいような気もしますが、少しだけ。

 なんども書いたように、当時の英国では同性愛が犯罪でした。第二次世界大戦を終戦に導いた英雄の存在を英国政府が隠していた理由の1つが、彼が同性愛者だったからです。

 国家ですらLGBTを恥ずかしむべき存在だと考えていたわけですから、腹が立つどころの話ではありません。

 逆に言えば、こうして現代、性的マイノリティへの理解が進んでいる状況になってようやく、チューリングの話が表舞台に出てきたわけです。
 英国政府は50年もの間、彼のことを隠してきたわけですから、凄いです。

 

 

 

 

エニグマ解読

 解読不可能と言われたドイツ軍の暗号機「エニグマ」と、それの解読を試みる天才たち。

 毎日死ぬ気で数字や文字列と向かい合っても、解読できるわけがなく、ただ時間だけが過ぎていく。そして、時計の針が0時を打てば、その日これまでの努力は全て水の泡となる。

 しかも、友人や知り合いは兵士として本物の戦場で命を懸けて戦っているのに、安全な本国で机に向かう自分たちはなんの成果も出せていない。

 こうした強い敗北感や、濃い絶望感、怒りなどの「負の感情」が立ち込めるチーム内の雰囲気は本当に観ていて辛かったです。

 でも、だからこそ、暗号が解けたときの嬉しさがすごかったです!!

 何でもないような小さなきっかけ。それが堰を切ったように大きな“答え”へと繋がっていき、これまでの苦労が労われる様子は本当に興奮したし、感動したし、嬉しかったです!

 

 

 

 

主人公、そして演技

 今回主人公を演じたのは、ベネディクト・カンバーバッチ。彼の演技、とても良かったです!

 まずは、やはり「苦悩する天才」の姿がとても良く出ていたと思いました。
 天才を気取ったり、孤独に耐える姿を見せたり。解読に没頭する様子や、怒り・喜びなどの感情。

 基本的にクールで無表情な役を演じながらも、場面と状況に合わせた雰囲気を出していたように感じました。

 また、カンバーバッチだから良かったというのもあると思います。

 『SHERLOCK』や『ドクター・ストレンジ』など天才役を多く演じている彼だから、既にそういうイメージが付いている分、よりリアルというか、違和感なく「天才」を演じられていたと思いました。

 

 

 


 

 

 

以降、映画本編のネタバレあり

 

 

 

 


 

 

 

ネタバレあり感想

 

序盤

 「事実に基づく」という前書きがあって本編がスタート。

 舞台は1951年、英国のマンチェスター。
 捕まったアラン・チューリングが語る形式で物語は始まる。

 機械の研究をしているチューリングの自宅で盗難事件が発生。しかし、彼は何も盗まれていないという。

 時間を遡り、1939年、英国とドイツが戦争に突入した当時のロンドン。
 天才数学者のチューリングは、ブレッチリー・パークで英国の為に働きたいと面接をする。
 独軍の最も難しい解読不能と言われる難題、暗号機「エニグマ」の解読するために。

 

 

 

 

 

前半

 その「エニグマ」は、エニグマの機械本体だけを手に入れても解読できず、“設定”を知る必要がある。
 独軍は毎日0時に設定を変え、朝6時に最初の通信を傍受する。18時間のうちに解読をしなければならない!

 英国の天才たちが集められ、チームを組んでこの“ゲーム”に取り組む。
 エニグマの設定の可能性はゼロが数十個つくほどにあり、それを一つ一つ試すには膨大な時間が掛かるから、不可能すぎる。

 なかなか周りと協調性を持って作業に取り組めないチューリング。彼の目的は、どんな暗号文でも瞬時に解読する機械を作ること。
 「天才ぶっていいのは、本物の天才だけ」か。

 「なぜマシーンを作るのか?」
 「エニグマに対抗するには、人間ではなく、機械しか無理だから」
 自分がやりたいように出来ないチューリングは、チャーチル首相に手紙を出した!
 そして、まさかのチームのリーダーに(笑) 即刻他の皆をクビに。

 子供時代を振り返る。
 他の生徒と少し違う“変わり者”だから、イジメも受けた。そんな中で暴力の空虚さを知る。
 そんな彼が暗号に出逢ったのは、友達がくれた1冊の本だった。

 人手が足りなくなったブレッチリー・パーク。
 チューリングは、新聞にクロスワードを掲載する事で、有能な人員を集めようとする。

 コレ、頭いい!
 そして集まった色々な職種の人々、女性も。テストに合格したのは、頭のいい女性と、男性一人。

 「時として、誰も想像しないような人物が、偉業を成し遂げる」

 

 

 

 

中盤

 毎晩、真夜中0時に訪れるのは、敗北。
 解けない暗号に費やした1日が無駄になり、数時間後にはまた新たな暗号が傍受される。
 本物の戦場で、本物の兵士が戦っているのに、なんの成果も出せない悔しさ。

 ミス・クラークの存在がチューリングを少しずつ変えていく。
 「あなたがどんなに天才でも、エニグマはその上をいく。」

 一人では絶対に解けないから、仲間の力がいる。嫌われたら終わり。 
 言われたとおり手土産を持っていき、チームを労う。段々と、チームもチューリングも距離が近づいていく。

 そして、チューリングの開発した機械「クリストファー」が完成し、試運転。
 しかし、莫大なお金を投資したにも関わらず、ただ動くだけで成果を出さないマシンに対し、軍部と内務省の堪忍袋の緒が切れた。マシンを止め、チューリングの解雇を要求しようとする。

 しかし、チームの皆んなが彼の解雇を止めてくれた。そして、1ヶ月間の猶予まで引き出した。

 一方、1951年。
 機密扱いになっていた空白の軍歴を不審に思い、警察がチューリングを調べた結果浮かび上がってきたのは、同性愛者だと言うこと。
 当時、英国では同性愛はわいせつ罪だった。

 取り調べで「マシンは思考するか」という質問に答えた彼は「人間とは違うかたちで考える」と。
 そして彼が書いた論文の名前が、『イミテーション・ゲーム』と。

 チューリングとクラークはなんだかんだで結婚。
 ただ、チューリング自身は自分が同性愛者である事を胸に抱えたままだった。

 

 

 

 

 

後半

 クラークの同僚の言葉で事態は大きく展開する。
 全部を全て試すのではなく、暗号文に含まれる特定の単語を調べれば、計算する数が大きく減らせる!

 毎朝6時に送られる「天気」、そして必ず添えられる「ハイル」「ヒトラー」の3単語。
 そして、クリストファーは見事に暗号を解いた!!!

 エニグマは解読した。
 しかし、解けた情報で安易に行動を起こせばドイツ軍に暗号解読の事実が知られてしまう。

 だから、統計的に解読した上で、必要な情報と無視する情報を精査する。 その為に、独軍にも英国軍にも別の情報源が存在するように嘘の情報を流す。
 そして、ソ連のスパイ問題や婚約問題など色々な問題が一気に吹き出してくる。

 戦争は終結した。
 大きな連合軍の勝利の裏で、チューリングらの生死を決める血にまみれた計算があった。 

 戦争は終わったが、このブレッチリー・パークでの計画すべてが極秘事項。全てを破壊し、燃やし、チームはあった事もない人々へと戻る。

 

 

 

 

終盤

 そして1951年。
 全てを語りきったチューリングは、同性愛者として罪を問われる。2年間の投獄か、薬物による去勢のどちらか選択を迫られた彼は、「クリストファー」を守る為に、薬物去勢を選ぶ。

 薬物治療の副作用で精神的にまいってしまったチューリングに、訪ねたクラークは話しかける。

 「私は今朝壊れてたかもしれない電車に乗った。あなたが救った電車よ。 死んでいたかもしれない人からチケットを買った。あなたが救った人よ。普通じゃなかったから、今の素晴らしい世界がある」

 1年後、チューリングは1歳で自殺。

 2013年、エリザベス女王は死後恩赦を与え、前例をみない偉業を讃えた。

 歴史学者は彼のマシンが戦争を2年以上早く終わらせ、1400万人以上を救ったと見ている。

 英国は彼の功績を50年以上も秘密事項扱いにしてきた。

 そして、彼の「チューリング・マシン」の事を、今日では「コンピュータ」と呼ぶ。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 ちなみに、私が読んだ、アラン・チューリングが関係する小説と言うのは、これです。

 

 最後まで読んでくださり、
 本当にありがとうございました!!

 


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