※ネタバレなし。
2017年7月12日
メアリと魔女の花
【評価:2.8/5.0】
【一言】
「スタジオジブリ」の絵調で描かれる子供向けのファンタジー冒険譚。
物語的にも視覚的にも楽しめたことが一番の魅力だと思う。
内容は正直、微妙と言わざるを得ない。ジブリの影響を色濃く受けてるけど、それを“恩恵”とするか“負の遺産”とするかは観客次第。
目次
ストーリー
何をやっても失敗ばかりで、ボサボサな赤髪が嫌いな女の子、メアリ。
彼女はある日、森の中で青白く輝く花を見つける────それは数年に一度しか咲かない魔女の花、「夜間飛行」だった。
花と一緒に見つけた古い魔法の箒に連れて行かれるがままに辿り着いたのは、魔女の国だった……………。
予告動画
作品メモ
監督:米林宏昌
制作:スタジオポノック
原作:メアリー・スチュアート『The Little Broomstick』
主題歌:SEKAI NO OWARI『RAIN』
キャスト:杉咲花,神木隆之介,天野祐希,小日向文世 and more.
上映時間:102分
日本公開:2017年7月8日
配給:東宝
映画公式サイト
スタジオポノック公式サイト
感想
全体感想
宮崎駿率いる「ジブリ」で『借りぐらしのアリエッティ』と『思い出のマーニー』の監督を努めた米林宏昌が立ち上げた新スタジオ「ポノック」の初作品。
とても面白かったです! 近年のジブリ作品は大人向けが多く感じましたから、ジブリの絵調で描かれる子供向けの純粋ファンタジーが楽しめてワクワクしました!
ジブリ作品を繋ぎ合わせただけというイメージが少なからずあるものの、それだけでは無い、米林監督オリジナルの要素がきちんと加わった作品でした。
そもそも、『作品が似ている/似ていない』だけの判断を議論するのは的外れだと思います。
(とは言っても、自分もそうなってますが笑)
それでも、やはり一番はジブリの影響がどうなのか。結論から言えば8割方の絵や描写・背景などはジブリの絵調そのまま。 似た雰囲気の背景や植物の絵描き方などが確かに目立ちました。
しかし、それを『良』と見るか『悪』と考えるかは観客次第。そして自分は、これは“恩恵”───『良』だと思いました。
(まぁ、そもそもジブリに育てられたスタッフですから)
もう一つ、絵の話が続きますがとても綺麗でした。ジブリ調の背景はもちろんですが、米林監督が得意なのであろう部分が良かったです。それは建物の外見や内装・調度品など。『借りぐらしの〜』や『思い出の〜』でもそうでしたが、なんだかオシャレな感じ。
あとは、背景(自然描写)でも新しい部分、綺麗で上手な部分がありました!!
全体的な作品としては面白かったです。前半は「あ〜ここもジブリ作品に似てる」なんて考えてましたが、中盤から後半になるに連れて物語に引き込まれました。
子供向けだから決して難しくはないし、ご都合主義的な部分も気になりはしました。が、観終わってみると「見事に物語に引き込まれていた」ことがわかりました。
しかし、内容については微妙でした。確かに先が気になるのではあるけれど、もうひと押し欲しかったです。
構成は、観終わってみて、冷静に考えるといい展開構成だったと思いました。観ている時は物語に集中していたのであまり考えてませんでしたが(笑)
冒頭から前半はゆっくりと話が進むものの、そのスロースピードが心地よい期待感でした。特に「魔女の花」を見つけるまでの流れが好きでした!
中盤からは物語の内容にドップリと浸かりました(笑) それに、直線的な物語展開ではなくて所々にきちんと意外な展開、予想外の展開が織り込まれていて楽しめました。
キャラクターはやっぱり魅力的というか、個性的です。メアリとかピーターは確かに普通の少女少年ですし、庭師や叔母さんも普通。でも何か惹かれる魅力があるのがジブリ作品です。
メッセージ性。宮崎駿作品は確かなメッセージがあるけれども、米林作品はかなり曖昧な気がします。それは今回も同じでした。
もちろん「これがメッセージであろうもの」は幾つかありました。しかし、もう少し強くそれを押し出してもいいと思いました。
音楽がとても良かったです。特に予告編でも流れている(本編では冒頭部分の)音楽が最高でした。異国情緒が漂って、魔女と魔法の雰囲気が流れて、ワクワク感が溢れ出てくるようでした。
今回主題歌『RAIN』を歌うのは「SEKAI NO OWARI」。歌詞がめちゃくちゃ良かったです。個人的な感想として歌詞の「虹」が本編の彩りと重なりました。………………ただ、歌手がねぇ。セカオワが嫌いなわけではなく、女声を起用して欲しかったです。(欲を言えば『借りぐらし〜』『思い出の〜』と同じように外国の方が良かった……)
主題歌『RAIN』のPV
最後、エンドクレジット。
ここが一番感動・感激しました。2つポイントがあるのですが、ここではネタバレになるので止めておきましょう。
以下、内容のネタバレは無いですが、描写等については触れている部分があります。
『ジブリ描写』にここが似ている!
特に前半部分がそうだったのですが、ジブリ作品に似ている部分がいくつも登場しました。
せっかくなので、覚えている限りではありますが、書き記しておこうと思います。
(読むと、先入観を持ちそうなので、嫌な方は飛ばして下さい)
・森の木々と苔───『もののけ姫』
・主人公のメアリ────『となりのトトロ』のメイちゃん & 『耳をすませば』の月島雫
・飼い犬────鳴き声が『ハウルの動く城』のヒン
・庭に咲く草花────『借りぐらしの〜』
・魔法で散る光────『ハウルの〜』
・主人公ピーター────『天空の城ラピュタ』のパズー &『ハウルの〜』のハウル
・建物────外観は『思い出の〜』/内装は『借りぐらしの〜』
・空の描写───『天空の城ラピュタ』&『紅の豚』
・魔法の生き物───『崖の上のポニョ』
・魔法の建物───『千と千尋の神隠し』の湯屋
・飛び跳ねる箒───『千と千尋〜』のランプ &『ハウルの〜』のカブ
・階段を登る場面───『千と千尋〜』
・猫を追いかける───『となりのトトロ』
大体覚えてるのはこの辺ですかね。あとはネタバレになりそうな部分は伏せています。
こうしてあげてみると、いかに影響があるか、もしくはリスペクトしているのかがわかります。
(予告編にも登場していますが、イメージが固まってしまうのは申し訳ないので、画像はここでは載せません)
絵の描写とジブリの影響
まず、ずっと『影響』と書いてきましたがこの言い方は正しくないと思います。「スタジオポノック」を立ち上げた米林監督を始めとするスタッフは元々ジブリで学んだのですから、その技術を受け継いでいて当然です。
そして、今回はそれが良いように効果していると感じました。それはジブリの絵で子供向けファンタジー作品が観れることの嬉しさです。
正直、近年のジブリ作品は『コクリコ坂から』『風立ちぬ』『かぐや姫の物語』『思い出のマーニー』と子供向けとは言い難い、大人が見る作品だったと思います。
だからこそ、ファンタジーの世界でワクワクさせてくれたジブリの絵で再びドキドキと楽しめる事が本当に嬉しいです!
どういう部分が似ていたかは上の章で散々語ったので、ここでは何が違ったかを書きたいと思います。
一番は『霧の描写』と『走る火花』の描写です。これは今までのジブリではあまり見なかった描写でした。
『霧の描写』はモヤっと立ち込めるだけでなく、どこか透明感と不透明感が混ざるような、まさに霧でとても美しかったです。
『走る火花』はジブリでは無かっ激しさと鋭さがありました。目がチカチカするような感覚が何気に衝撃でしたね〜。爆発とかもそうですね。今までとは違いました。
内容に関する感想
物語はとても面白かったです。自分にコンプレックスを持った普通の女の子が、ひょんな事から魔法を巡る大冒険をするファンタジー冒険譚。
物語に惹き込まれたし、お話に集中したし、内容にのめり込みました。
確かに全てが新しくて新鮮な内容というよりは、物語展開に王道を混ぜ込んでいます。でも魔法系ファンタジーだからこそ、その王道がとても心地よかったです。
子供向けという事もあり、張られている伏線は大人からみれば予想がつくような物も多かった一方で、全く想像もしていなかった展開に持っていかれる事もあり、侮れない内容です(笑)
あまり物語本編に触れると、もちろんネタバレになってしまうので触れないように頑張りますが、どうしても曖昧な内容になってしまいますね……。
構成に関する感想
短くはなりますが、構成について書いておきます。
全体的に一本道的な内容構成ではあるものの、曲がりくねっていたりと楽しめる内容でした。
まず、前半は何度か書いたように物語の世界を紹介する位置づけなので、「ジブリとの類似点」探しになってしまいがちでした。
でも、メアリが「魔女の花」を見つけてからは一気に物語が動き出します。それまでは映像に注目していたのが、ここで内容への注目に変わりました。
そして映像の美しさと、内容の面白さでスクリーンに食いつくように観ていたのが後半です。
飽きさせる部分が一切なく、時間の区切りとか能力の制約とかを上手に使ってポンポンとお話を転がして展開させていたのがとても良かったです。
魅力的なキャラクター
やはり、キャラクターは魅力的です!
主人公のメアリはおてんばで元気一杯で、でも悩みがあって、しかし意思が強くて責任感もあって。内面がとても魅力的なキャラクターでした。
もう一人紹介しておきます。
小日向文世さん演じる科学者のキャラが面白かったですねぇ〜。何が面白いって声がそのまま小日向さん。その声で分けわからない呪文みたいな長いセリフだから、もう笑っちゃいましたよ(笑)
メッセージについて
ここに関しては観る人が自分で感じ取るものだと思うので、あんまり読むことは推奨しないです。一応、サラ〜っと書いておきますけど。
以下のようなものを感じました。
・自身のコンプレックスについて
・何かを変えるということ
・嘘の大きさ
・家族の大切さ
・大いなる力には、大いなる責任が伴うということ
・人間が行う自然への介入について
これ以上細かく言及するのは避けますが、これだけのことを感じ取りました。ただ、一番伝えたい部分がどのなのか微妙ではありましたね………。
音楽と主題歌
音楽はとても良かったです! 始めに書いたように、魔女っぽさというか、異国異文化らしい雰囲気がプンプンしていてとても良かったです。
楽器に詳しくないので曖昧ですが、ピアノを弾くような、弦楽器を弾くような音楽がとても良かったです!
そして主題歌。
歌詞がとても良かったです。「魔法」とか「雨」「虹」とかって色鮮やかで自然豊かな作品の世界観にピッタリだと思いました。歌い方も抑揚の付け方とかがとても好みでした!
…………ただ、「SEKAI NO OWARI」というのがねぇ。個人的にあまり好きではないというのもありますが、それを差し引いてもあのボーカロイド的な歌声が作品に合うとは思えませんでした。
この歌詞を英訳して、『借りぐらし〜』や『思い出の〜』のように外国の方に歌ってもらったなら、とてもいいエンディングになったと思いました。
(こんなコラボをして許されるとでも・・・・)
エンドクレジット
エンドクレジットがとても良かったです!
具体的にどう良かったのかは、ここでは書かないことにします。多分、皆さん気がつくと思うし、好きな人なら「おぉ〜」って思うと思います。
2つ感動した部分があって、1つは書きませんが、もう1つは書いても平気でしょう。
それは、エンドクレジットの最後に以下のような文言があったこと。
感謝
高畑勲 鈴木敏夫 宮﨑駿
スタジオジブリから別れて新スタジオを立ち上げた米林監督ですけれども、やはりジブリで積み上げてきて、学んだ物が多いのでしょうね、不意打ちの演出(?)で、けどとても良かったです。
以降、映画本編のネタバレあり
ネタバレあり感想
内容感想①
冒頭、いきなりの激しいシーンで驚きました。ジブリ作品で『爆発』が描かれるのは戦争系の作品が多かったので、最初から爆発や噴き出す炎が描かれるのに驚きました。
「魔女の花」を盗んで闘争する魔女を追いかける使い魔(?)の奇妙な姿に楽しまされました。地面に落ちて、周囲の植物を成長させたり、焼いたりするのは、『もののけ姫』のデイダラボッチに似ているなぁ〜と思いましたね。
メアリ登場。
元気はつらつで、とにかくじっとしていられない赤毛の女の子。家政婦さんのお手伝いや庭師のお仕事など忙しくて元気で楽しかったです。それはそうと、庭師のお爺さんの声がどうもしっくりきませんでした。
猫に導かれて森へ。
黒猫と灰猫を追いかける場面は、小トトロを追いかけるメイちゃんの姿そのもの(笑)森の奥の花の場所へ案内するけれど、威嚇する姿勢を見せる猫2匹は結局何がしたかったんでしょう?
だって、何故か自身が怖がっている花の場所へわざわざ案内するなんて。それに、庭師のお爺さんはなんで花の名前を知っているんだい!?
霧の日。
メアリは再び森へ。今度は箒を見つけるわけですね。箒に魔法が宿って、動き出すシーンはなかなか好きでした!
内容感想②
魔法大学に到着し、帰宅するまでの場面の感想です。
暴れる箒になんとかしがみついて空をかけるメアリと黒猫。雲の層を抜けて雲の上に辿り着いた場面は『紅の豚』の「飛行機の亡霊」を連想しました。そらから、荒れた雲の塊は『天空の城ラピュタ』の「竜の巣」を思い出しました。
到着したのは静まり返った宮殿のような場所。陽気で不思議な箒管理のお爺さんに導かれるままに大学の正門へ進むわけですが、階段を登るシーンは『千と千尋の神隠し』そっくり!
そこからの展開は勢いに任せたものでしたねぇ〜。学長のおばさんに促されるままに校内を見て回るわけですが、魔法と科学の融合をモチーフにした建物や学習科目はとても近代的で合理的で気に入りました。
小日向さんの科学教授の「亀か鶴か」の問に答えて天才扱いされ、姿を消す魔法授業で神の子扱いされる。
いままでずっと失敗ばかりで、しかも髪の毛もコンプレックスだったのに、一気に褒められたのなら、それは嬉しくなりますよね。
この、馬が豚肉を焼くっていう皮肉というか、なんというか・・・
乗せられるがままに入学書類を書くために学長室へ。この2階部分、魔法関連遺物を収集した部屋は『ハウルの動く城』のハウル自室の雰囲気に似てました。
メアリが開いた「魔術の真髄」を読む場面がとても良かったです。スーって頭の中に文字が入り込む演出があって、読めないはずの文字が読める演出が良かったです。
内容感想③
ラストまで一気に感想書いちゃいます。
メアリが「魔女の花」を持っている事を知って豹変する学長と科学教授。帰宅後にピーターが捕らわれたことを知ったメアリは箒に乗って魔法大学へ引き返す。
まぁ、分かってはいましたがメアリも牢獄へ。
牢獄の中でであった実験体達の気味悪さは天下一です。今までのジブリ作品では考えられないほどの気持ち悪さ。色々な動物が混ぜられたその体は、なんの動物なのか分かるから余計に気味悪いです。
そして黒猫が灰猫と再開。最初から帰りたがらなかった理由が明かされます。この展開は予想していましたが、姿を変えられているとは思っていませんでした。ただ捕らわれてるだけかと。
(『妖怪ウォッチ』のジバニャンに似ている・・・)
そして脱出のために思いつくのは『魔術の真髄』にある魔法を解く魔法。この魔法も、姿を消す魔法もですが呪文を唱えるというより、自身が内側に入るという種類なんですね。新鮮です。
魔法が解けた動物たちが一気に脱出。かなり迫力あって、多種多様で面白かったです。
あ、ピーターが猿とメアリを間違えるシーンが笑えました!
まぁ結局、案の定捕まってしまうピーターを後に逃げるメアリが辿り着いたのは、「魔女の花」を盗んだ本人の家。そこで明かされるのは、彼女がメアリが居候する家のおばあさんだったということ。コレには驚きましたねぇ〜。
全ては繋がっているわけですか。
その後、学長となんだかんだでチェイスして、落下。しかし助けてくれたのは動物さんたち。これは予想外。替え玉作戦や移動を手伝ってもらい、ついに実験棟への侵入に成功。
実験棟。
まさに「科学と魔術の融合」のテンプレみたいな実験をしてますね(笑)
まぁ、実験は失敗するわけですが、ここでも魔法の実行は「人間を取り込む」という形でした。ピーターを助けるために、ピーター自身の力を使うと言うのは以外で良かったです。
これでハッピーエンドですね。
エンドクレジット感想
やっと最後です。
エンドクレジットが本当に良かったです! 何が良かったかといえば、キャストやスタッフの名前を書いた文字のフォント!!!
これが今までのジブリ作品に似ていて(もしかして同じ?)なんだか懐かしい気持ちになりました。
それだけなんですが、なかなか嬉しかったです。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!!