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【アニメ映画】『HUMAN LOST 人間失格』:太宰治を原案にした斬新SFは世界観最高も結末が…….

 

 『HUMAN LOST 人間失格』を観ました!
 錚々たる名前が並ぶ制作陣が、70年前の文豪・太宰治が遺した『人間失格』を大幅にアレンジしたSFアニメ映画。

 その内容に大きな期待をして楽しみにしていた作品です! 実際に観た感想は、世界観やSFらしさは大好きだけど、物語そのものは嫌いなタイプでした………..。

 


 

2019年11月29日鑑賞

HUMAN LOST 人間失格

 

【評価:3.9/5.0】

 
【一言】

太宰治『人間失格』を、
”斬新”かつ”大胆”にSF作品へ。
設定も世界観も怒涛の創作単語が大氾濫でガッツリSFに浸り、理解を追いつくべく頭をフル回転させる感覚、最高!
でも、「生と死」の扱いや物語の落とし所、そして「恥の多い生涯」という台詞の解釈は難しく、嫌い。
SFにヒーローは必要か?

 
【Twitter140文字感想】

 

 


 

 

【目次】

 

 

作品紹介

 

医療の革命的な進歩により人が死を克服した昭和111年の東京。人々は体内のナノマシンと、それらを管理するネットワーク「S.H.E.L.L.」によって無病長寿を実現したが、その社会システムが生み出す経済格差や、「S.H.E.L.L.」ネットワークから外れて異形化する「ヒューマンロスト現象」など、さまざまな問題も生み出していた。そんな世界に暮らす青年・大庭葉藏は、ある日、ヒューマンロスト化した異形体「ロスト体」に遭遇し、対ロスト体機関「ヒラメ」に属する不思議な力をもった少女・柊美子に助けられる。そして、それをきっかけに葉藏自身もまた、人とは違う能力を持っていることを知る。
映画.com

予告動画

 

監督:木崎文智
脚本:冲方丁
原案:太宰治『人間失格』
スーパーバイザー:本広克行
制作:ポリゴン・ピクチュアズ
音楽:菅野祐悟
主題歌:m-flo
キャスト:宮野真守, 花澤香菜 and more.
上映時間:110分
日本公開:2019年11月29日
配給: 東宝映像事業部
公式サイト

 

 太宰治の著作は「青空文庫」で読むことができます。
 著作権が切れているので、青空文庫でも、その他電子書籍でも無料版が公開されているはずです!
 太宰治の『人間失格』と、その元になったといえる短編『HUMAN LOST』をここに貼っておきます! 原案を頭に入れておくと、より本作を楽しめるはずです!

 また、本作の「冒頭7分」が公開されています!
 世界観を掴むのに最適な、個人的に大好きな7分間なので、ぜひごらんください!

「HUMAN LOST 人間失格」本編冒頭7分映像

 

 

 


 

 

 

映画の感想概要

 

 感想においては、太宰治著の小説を『人間失格』と、本作映画を『HUMAN LOST』や『HL人間失格』と書くので、よろしくお願いします。

 難しいな、と感じました。
 太宰治の『人間失格』をアレンジした新作を作るということも、ましてやそれをSFにするという試みも、困難なものだったと思います。

 太宰の遺書とも言われる『人間失格』は、読者によって解釈や感情移入のポイント、重視する点や大切に読む点が違うから、改めて新作として再構成するのは難しいですね。

 テーマの扱いに違和感を覚えました。
 この作品の感想を浮かべて評価して整理する上で、どこまで太宰治の『人間失格』を参照すべきなのか、難しいラインではあります。

 それでも、『人間失格』で描かれた自殺未遂の深みに漂う「生と死」や、何人もの女性との関係や「性」、薬物中毒やアルコール中毒、大庭葉蔵が自分自身と向き合う苦悩・葛藤・卑下、それを象徴する「恥の多い生涯」という独白・告白。

 これらの扱いが、少々雑なように感じました。

 とはいえ、世界観や設定は大好きです!
 まぁ、元々そういうコンセプト的な部分が好きなタイプだし、溢れんばかりのSF設定に浸るのが気持ちいいので(笑)

 舞台は昭和111年の無病長寿大国「日本」。
 遺伝子操作やナノマシン技術により人生120年超を実現し、年金支給額1億円という夢のような状況の一方で、大気汚染や”ヒューマンロスト現象”に脅かされる社会。

 SFの世界観には、今、我々が生きる現実の社会が反映されているから、その延長線や問題提起として見ると、より面白く感じられます!

『HL人間失格』のようなSF作品に”ヒーロー”は必要なのでしょうか?
 物語の内容やラストの結び方に違和感を覚えてしまったのが非常に残念でした…..。もったいないと思います。

 1つには、悪い意味で予想外の方向へと話が進み、結末を迎えてしまった点。もう1つには、結末の理由が薄いと感じた点でしょうか。誤解を解くために補足しますが、あのラスト、悪くはないし普通に面白いですよ。

 あとは、アニメーションとして映像化するのに、やや難ありだったのかも。小説版とかのテキスト媒体で読めば、印象が大きく変わるかもしれません。

 制作陣がもの凄い!

原案:太宰治
脚本:冲方丁
監督:木崎文智
監修:本広克行
音楽:菅野祐悟
音響:岩浪美和
制作:ポリゴン・ピクチュアズ
声優:宮野真守, 花澤香菜, 櫻井孝宏…
主題歌:m-flo「HUMAN LOST feat. J. Balvin」

 それに呼応するように、アニメーションの綺麗さやアクションの格好良さ、演技の違和感のない声、雰囲気を盛り上げる音楽と、格好いい主題歌、最高でした!

 

 

 

 

 

映画の感想内容

 

『人間失格』の難しさ

 

 太宰治の『人間失格』を現代・近未来風にアレンジする、というか原案として新しく作品を構築することの難しさを思いました。

 今回は、さらにそれをSFにするということで、より一層に難しい試み、挑戦になっていたのではないかな、とひしと感じました。

 個人的に期待していたものとしては、ストーリーの骨子のような流れは『人間失格』に準じながらも、SF作品としての要素を散りばめた新展開の『HUMAN LOST』という作品でした。
 大きな改変や変化を付けつつも、大筋は原案に沿うような、そんな感じです。知ってる物語が根底にあるけど、内容も結末も別物、みたいな。『シャーロック・ホームズ』を原案とする様々な作品群とか似た感じですかね。

 でも本作『HUMAN LOST』は、登場人物や用語こそ原案『人間失格』に依拠していたものの、その扱いや内容を取り込めていなかったのかな、と思いました。
 もちろん、人物のキャラクター性や、「ヨシ子の犠牲」などの大筋は変わらず、その部分は評価できるポイントだと思います。

 そもそも、前提的な部分として、『人間失格』はその文学性の高さ以上に、「太宰治の遺書」という側面でのイメージが強烈なのだと思います。
 様々な人間関係を抱え、何人もの女性との関係を持ち、薬物に溺れたり、精神病院に入院したり、自殺を何度も未遂したりと、「太宰治」という作家が死ぬ前にしたためた「遺書」という認識です。

 なので、「重さ」みたいな感覚も違うし、(性別や年齢も含めて)読者によって感じ方や感情移入のポイント、内容の解釈や批判・擁護、意識する点や重視する点など、人それぞれなのだと思います。

 だから、それを元にSF作品として新作を構成するというのは想像以上に難しいだろうし、観客に提示する部分を絞るのも大変なんだろうな、と。

 ただ、これは個人的な感じ方ですよね。

 太宰治の『人間失格』の扱いは原作ではなく「原案」なので、それにインスピレーションを受けて、その要素を盛り込みつつも独自のSF作品に仕上げた、という点では高評価と考えています。

 『人間失格』の登場人物の物語内における”役回り”を、なんとか『HUMAN LOST』の中でも構築できていたと思いますし。原案と本作の関係という部分でも、影響やリスペクト等も散見されましたし。

 ここで感じた「難しさ」というのは、次の節で書く部分に繋がっているのだと思います。なので、ぜひ目を通していただければ幸いです。

 

 

 

 

テーマの依拠度

  

 「難しい」と感じた背景には「テーマ」の問題があると思います。
 この『HL人間失格』という作品と、太宰の『人間失格』とでは描いているテーマの重みというか、どこまで原案にある主題に依拠するかで、作品の評価とか感じ方が変わってくると思います。

 個人的には、その部分が弱いように感じたので、残念に思ったし、物足りなく思いました。

 『人間失格』
 太宰治の遺書と言われるように、太宰自身の過去や生い立ちを小説の主人公・大庭葉蔵に重ねるように描かれています。

 地主の家に生まれたことへの引け目、反社会運動への参加、何人もの女性との関係、アルコール依存、薬物中毒とその果ての精神病院への強制入院。鎌倉を始めとする幾度もの自殺未遂。道化としての笑顔。

 そして、それらを言い表した衝撃的な冒頭が、「恥の多い生涯を送ってきました」という数々の文学にも勝る印象的な告白の一文に込められている作品です。

 そんなテーマを『HUMAN LOST 人間失格』にどれだけ取り込んで、活(生)かして、作品を構成するのか、という部分が楽しみにしていたところだし、大切な部分ではないかな、と思っていました。

 で、実際に作品を観てみると、あまりこれらのテーマが生かされていないと感じました。”重さ”というようなモノが感じられなかったな、と。

 もちろん、変わります。
 太宰治の時代と、『HUMAN LOST』が舞台にした昭和111年では社会背景も違うし、人々の価値観も変わっているので、「原案と違う!」ということを一概に非難することができない点は重要です。 とはいえ、むしろ共通するテーマを見出したからこそ、本作を作ったのだと思うのですけどね…….

Yozo Oba(CV.Mamoru Miyano)Character Movie

 ただ、何よりも「生と性」の扱いですかね。
 この点はかなり気になりました。

 長くなるので、次の次、1つ飛ばした節に送ります。

 

 

 

 

昭和111年の世界観設定が好き!

 

 先に「世界観設定」のお話です。
 物語の全体的な部分を書いたほうが、「生と性」の話題を扱いやすくなるので、ぜひご一読くださいな。

 世界観の紹介です。
 公式HPや予告編で明かされている内容だし、ネタバレには関わらないので安心して下さい。

 舞台となる昭和111年。
 日本は「無病長寿大国」となります。

 遺伝子操作・再生医療・ナノマシン・万能特効薬という”四大医療革命”を成し遂げた日本は病気を克服し、寿命120歳を突破。経済最優先の政策と19時間労働によりGDP世界1位、年金支給額1億円を実現。
 一方で環境破壊や深刻な大気汚染に見舞われると同時に、格差が拡大して東京は富裕層と貧困層が環状の国道16号線を堺に分断される状況になっています。

 ヤバくないっすか!!
 もう、こういう設定が大好きです!

 昭和111年は西暦でいうと2036年ですか。
 2019年現在の日本や世界が抱える様々な問題を練り込んでいる世界観が最高に深くて濃くて、それだけでもう大満足です!

 日本では経済成長と環境・人権との間で議論が沸き起こる今日。「老後2000万円問題」が取りざたされたり、財政悪化から年金支給の金額や年齢が議論されています。
 世界に目を向ければ、医療技術の発達は目覚ましい一方で薬価高騰や倫理問題が議論の的になり、地球温暖化を筆頭とする環境問題が大きなテーマになり、貧困と格差是正が喫緊の課題とされています。

 このような現代の状況の中で、この作品は社会主義と資本主義をかけ合わせたような、国家による管理と市場経済とを融合させた、1つの社会像として非常に面白いです!

Yoshiko Hiiragi(CV.Kana Hanazawa)Character Movie

 もう1つが「ロスト体」

 無病息災と長寿体制を確立させた日本社会が恐れるのが、異形の怪物・化け物「ロスト体」です。”ヒューマンロスト現象”が1つの鍵となってきます。

 いわば、高度医療でも救うことの出来ない突然変異、というような説明でここでは良いでしょうか。これがまた、物語の中で重要なポイントになってくるわけです。

 1つ、注目して観ていただきたい点!
 本作の重要なイベントが行われる舞台が「国立競技場」です。

 そのデザインが、2020年の新国立競技場の当初案のザハ・ハディドさんのデザインに似ていて、超感動しました!

 

 

 

 

「生と性」の扱い

 

 さて、話題を戻します。
 「生と性の扱いが気になる」と書いたことに対する、詳しい感想です。

 まぁそのままの通りですが、太宰『人間失格』では重きを置かれていた(と私は感じる)「生と性」の内容が、あまり本作『HUMAN LOST』に取り入れられていなかった点に疑問を覚えました。

 まず大きいのは「生」です。
 「生」、裏を返せば「死」となるわけですが、この『HL人間失格』の社会では「死」は医療によって克服されています

 「死」への恐怖がないから、「生きている実感」もない、そんな人々の姿に見えました。なので当然、太宰治が綴った自殺への想いとか、鎌倉自殺の影とか、そういう重たさが無いと感じました。

 「じゃあ現代はどうだ?」と聞かれれば、「生」を実感して生きている人間なんて少ないでしょうから、ある意味ではリアルなのかもしれませんが、『人間失格』にある生々しい感じが薄くて残念でした

 それから「性」

 キャラ紹介やキャスト紹介をみれば、原案に登場する女性たち(ヨシ子やマダムやツネ子など)は全員登場します。
 でも、それは登場だけ、というか、葉蔵に対する影響力は極めて小さいし、身体を交わせたり、一緒に自殺を図ったりするような、濃密な関係まではあと一歩届かないような気がしました。

 もっと、こう、ドロドロとした人間関係とかを描いてほしかったな、と。ただ本作はヒューマンドラマではなくSF作品ですから、なかなか難しいところがあるのでしょうけどねぇ……。

 でも、もっと「人間味ある」ような作品を楽しみにしていたので、その部分はガッカリでした。

 

 

 

 

SF作品にヒーローは必要か?

 

 本作を観て1つ考えたのは、「SFにヒーローは必要か?」というところ。
 保身のために付け加えておくと、<本作のような>という文言を加えましょうか。

 ヒーロー作品でSFもありますからね。
 『アイアンマン』とか『スター・ウォーズ』とか、有名所で名前を挙げだせばそれなりにあると思います。

 ただ、<本作のような>という限定をしました。『アイアンマン』とかはヒーローの活躍を見るというのが主目的だから、ヒーロー作品で全然問題ないわけです。
 でも、本作『HUMAN LOST』は原案を『人間失格』にしていて、登場人物の活躍というよりは、苦悩とか葛藤とか、社会や他者との関係を重視するような作品だと、私は思います。

 なので、「本作のようなSF作品にヒーローは必要か」という問いが浮かんだわけです。

 キャッチコピーとか宣伝で「ダークヒーロー」と謳っているので、(誤解を恐れずにいえば)ヒーロー映画だと言ってもネタバレではないでしょう。

 ただ、私はダメでした。
 『人間失格』で描かれた大庭葉蔵の姿はひとりの人間として、社会の隅で細々と生きて死んでいくようなイメージの人間でした。そんな彼が、ダークヒーローとして生まれ変わるという内容は、どうも受け入れがたいものがありました。

 これなら、『新世紀エヴァンゲリオン』とかのほうが『人間失格』の内容に近いのではないかな、と思ってしまいます。

 あとは、結末も苦手でしたかねぇ。
 幕引きは綺麗に終わっていて、エンドロールまでの流れもとても良かったのですが、「120分の映画を通して描いた結末がコレか」という失望感が拭えなかったです。

 私の期待していたのと大幅に外れたからで、物語を単純に受容すれば認められるのかもしれませんが、どうもなかなか…..ねぇ…..。

 「ヒーロー」や「結末」への違和感は、もしかしたら「アニメーション」だからなのかもしません。映像だから故の違和感というか、失望というか。

 映像化する中で、どうも引っかかる部分がチラホラ。
 1つ例を挙げるなら「ロスト体」でしょうか。異形の存在という意味では性格ですが、どうも『バイオハザード』とか『アニゴジ』とかを連想する”怪物”という感じがしました。

 クリーチャー造形が悪い、とはいえませんが。これを小説等のテキストで読んで、頭の中で想像していたなら少しは違ったかもしれません。
 まぁコレばっかりは、仕方ないことですけどね…….。

 ただ誤解しないでいただきたいのは、アニメーションのその他の部分、人物の表情や滑らかなアクション。緻密な背景やデジタル空間の描写などはとても綺麗でした。

 

 

 

 

トップクリエイター結集

 

 制作陣が凄いですね!
 もちろん、キャスト陣も!
 ヒットメーカーたちと、実力ある声優たちと、エンドロールに並ぶ名前の布陣が強すぎます!

 ちなみに、ここに書いてある内容よりも、公式HPの紹介ほ方が格好良くて上手いので、ここでは四角枠で公式HPの内容を紹介しつつ、書いていきますね。

 まず、原案。
 原案は、太宰治の『人間失格』です。

破滅に至った一人の男の生涯を描く日本文学の金字塔――太宰治「人間失格」。深い死生観、文学性が今なお、強烈な衝撃を与え続ける
不朽の名作。
映画公式HP

 日本を代表する文豪が、自殺前の最後発表した中編小説げ原案となっており、それだけで作品の豪華さが漂います。

 監修は本広克行

〝日本発の世界を魅了するSFダークヒーロー〟を創出すべく本作の起点となったのは、スーパーバイザー・本広克行。
映画公式HP

 まさにヒットメーカーの映画監督・演出家です。
 TVドラマ『踊る大捜査線』や『SP』を手掛け、前者で日本アカデミー賞も受賞。実写映画『亜人』でもメガホンを取り、アニメ『PSYCHO-PASS』の企画や総監督、『劇場版フリクリ オルタナ/プログレ』の総監督を務めました。

 そして、脚本。
 脚本は、冲方丁

脚本は、太宰治と同じ小説家であり、日本SF大賞ほか数々の賞を受賞した冲方丁が担当。
映画公式HP

 こちらも日本を代表する作家・SF作家です!
 NHKの大河ドラマ『天地明察』の原作や、アニメ化もされた『蒼穹のファフナー』、さらには士郎正宗に連なる『攻殻機動隊ARISE』の脚本、Production I.Gのアニメ『PSYCHO-PASS』の第2期と3期の脚本などなど。また、2019年に公開された実写映画『十二人の死にたい子どもたち』も冲方丁の小説が原作です。

 アニメ制作は、ポリゴン・ピクチュアズ

異様の日本をリアリティある映像へと落とし込むのは、海外でも多数の賞を受賞し、次々に映像革命を起こし続けるアニメーション制作・ポリゴン・ピクチュアズ。
映画公式HP

 日本のCGアニメーションの先端を走る制作会社です。

 誰もが知る有名作品を手掛け、さらに国際的な映画やアニメの賞をたくさん受賞しています。 作品を挙げればもの物凄いです。
 押井守監督の『イノセンス』のオープニング映像、大絶賛された『スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ』、ディズニーの『トロン:ライジング』。弐瓶勉の作品『シドニアの騎士』や『BLAM!』、初のアニメ版『GODZILLA』3部作、『亜人』のTV版及び劇場3部作、などなど。 作品を挙げれば、枚挙にいとまがありません。

 本作も、滑らかなアクションと質感を巧みに生かしたアニメーションを見せてくれました! 背景の描き込みから人物の動き、絶妙で繊細な表情など、素晴らしかったです!

 監督は、木崎文智。

鋭く多彩なクリエイティブを、「アフロサムライ」において卓越したアクション描写で世界を驚愕させた監督・木﨑文智が、美しく、ダイナミックに、エモーショナルにまとめあげた。
映画公式HP

 初監督作品『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』が国内外で大きな評価を得、その後も『アフロサムライ』や劇場版『ベヨネッタ』等で卓越したアクション描写を手掛けてきました。

 本作においても、ロスト体に対抗する特殊部隊の洗練された動きから、複数のロスト体の戦闘アクションまで、格好良く見せる映像になっていましいた!

 音楽は、菅野祐悟。

 TVドラマ『ホタルノヒカリ』や『ガリレオ』、NHKの大河ドラマ『軍師官兵衛』、朝ドラ『半分、青い。』の劇伴を手掛けています。アニメ作品では、『図書館戦争』や『PSYCHO-PASS』、『ジョジョの奇妙な冒険』の第3部から5部まで。映画では『踊る大捜査線』やTV作品の劇場場、『3月のライオン』などなどです。

 『PSYCHO-PASS』が感覚としては一番近いと思いますが、低く刻むビートの音が興奮を一層に盛り上げて、本当に最高でした!

Takeichi(CV.Jun Fukuyama)Character Movie

 音響監督は、岩浪美和。

 2019年に公開・放送された作品の中から主要なものだけを挙げても、『PSYCHO-PASS SS』劇場3部、『このすば!』と『幼女戦記』の劇場版、『HELLO WORLD』、『ガルパン最終章』、『スパイダーバース』、『FGO7章 絶対魔獣戦線バビロニア』、『SAOアリシゼーション』、『ジョジョ5部 黄金の風』、『ワンパンマン』などなど。

 今年は、本当に岩浪美和さんが参加された作品をたくさん見ているので、ここでも特筆しました。本作でも低く響く爆発音から、声優の泣くような演技まで、綺麗な音を劇場で楽しむことが出来ました!

 声優陣も豪華。

 名前が上がっている方々だけでも、宮野真守・花澤香菜・櫻井孝宏・福山潤・沢城みゆきさん方、ビックネームが並びます。

 演技はさすが、完璧ですよね。「宮野真守は花澤香菜を不幸にする役」なんて言いますが、今回も当てはまるかも?(笑) バーのマダムを演じる沢城みゆきさんの色っぽさが最高ですね!

 主題歌が超格好いいです!

主題歌には、グラミー賞にノミネートされSpotifyにおいて世界でもっともストリーミングされたシンガーJ.Balvinをfeat.に迎えた、音楽シーンの最前線を走り続ける最強のトライポッドm-floが参加し、世界を彩る。
映画公式HP

 まさに映画のエンドロールで流れるような雰囲気の曲で、とても良かったです!劇場では歌詞の細部まで分かりませんでしたが、映画に登場するキーワードが何件も聞こえて、嬉しかったです!

HUMAN LOST feat. J. Balvin / m-flo (Main Version)

 作品に携わる方々を紹介しただけでも、これだけ凄い作品が並ぶことからも、本作の凄さが分かっていただけると思います!

 個人的には、本広克行・冲方丁・菅野祐悟・岩浪美和・花澤香菜・沢城みゆき、というメンツからもう『PSYCHO-PASS』しか思い浮かびません!

 

 

 


 

 

 

以降、映画本編のネタバレあり

 

 

 


 

 

 

映画の感想
※ネタバレあり

 

「恥の多い生涯」

 

 映画の冒頭がとても大好きです!
 ポリゴン・ピクチュアズのロゴが表示され、「原案 太宰治『人間失格』より」と表記された後、「恥の多い生涯を送ってきました」という台詞とともに自身に刃を突き立てるシーンが映され、タイトルバック。

 さらに、「第一の手記」という表記が現れて、原案と同じ形なのか!と嬉しくなりました。

 良いですね、とても良い!
 壮大なSF作品の幕開けを予感させるとともに、太宰治の『人間失格』をしっかりと取り入れていることが分かる、とても洗練された格好いいオープニングだと思います!

「HUMAN LOST 人間失格」本編冒頭7分映像

 それに対する、ラスト。

 最初は「自殺」だと思っていたものが、実は「アプリカント」としてロスト化を自ら引き起こすためのトリガー的な意味合いで短刀を突き刺しているのだと分かります。

 なるほどな、と。
 始めは死ぬための行為だと思っていたものが、最後では逆に生きるための理由に変わっている、という感じ方の変化がとても面白かったです!

 でも、逆に言うと台詞の意味が消えたと思います。

 「恥の多い生涯を送ってきました」という、人生の総決算的な最期の言葉としてなら分かりますが、合格式から半年という微妙なところで回想のように言われても説得感がありません。
 しかも、「手記」の形と言いながら、実際にはどこにも手記が登場しないので、終盤で伏線のように回収されると思っていたので、残念でした。

 そもそも、「恥の多い生涯」だったでしょうか?

 確かに、健康保障機関「S.H.E.L.L.」の示す生き方に比べれば、バーの二階で絵を描いているだけの日々なら、「恥」といえるでしょう。
 しかし後半は、むしろ「未来を守るための選ばれし存在」として悪と戦うわけで、それを「恥の多い」と表現するのは、いかがなものでしょうか。

 この部分については、観ていて最後まで腑に落ちなかったので、書いておきました。

 

 

 

 

アプリカント

 

 大庭葉蔵、堀木正雄、柊美子の3人。
 この3人が「特別な人間」として描かれます。

 SFなので、何らかの特殊能力を持っているような設定は良いと思います。なにせ、物語の中心にいるのが彼らなんですから。

 それでも、ラストのあの「変身」はどうなんだろう……..。

 「鬼」のようなビジュアルで、愛する人の死を前にした、まさに「ヒーロー」のように堀木の繰り出す美子紛いのロスト体を倒していく、ラストバトルのあれ。

 そこまでは「文明曲線」を中心とした議論が中心で面白かったし、文明崩壊と再生の両ヴィジョンを選択するという内容もシンプルで良かったです。
 だからこそ、最後が何故か「アクション映画」風に片がついてしまったのは唖然としたし、ガッカリしたし、理解も追いつきませんでした。せっかくそこまで理論とか理性的な展開をしてきたのに、なんで最後は暴走するんだろう…..と。

 美子の扱いは良かったと思います。

 誰にでも優しくて、丁寧な人柄。
 バー「メロス」のマダムとの会話の中で、マダムが「S.H.E.L.Lを信じる天才なのね」という台詞を言いましたが、彼女の「信じる」という側面を上手く用いていたと思います。

 さらに、澁田の放った「彼女を実験台にした」という台詞からは、可愛らしい彼女を実験体にした背徳感めいたものを感じるし、何よりも、老人たちのために自身の身体を差し出した、という肉体的に犯すような描写があって、とても良かったです。

 

 

 

 

全人間、失格

 

 原案となった『人間失格』には、「世間」について触れられていました。

 自殺しようとしたり、薬物中毒になった葉蔵に対して、世間は強烈なバッシングを浴びせます。その中で「世間ってなんだ?」と悩んだのが葉蔵。そんな彼を助けたのが美子の存在でした。

 さて、本作。
 S.H.E.L.L.という組織によって「合格」というレッテルを貼られる長命者がいる一方で、アウトサイドの人々は「道化」とされ、さらにヒューマンロスト現象こそ「失格」と判定する。

 『人間失格』の中で美子が「世間は個人の集まり」と話していましたが、今回はむしろSHELLという統一された機関による判定なので、分かりやすいという印象でした。

 しかし、《全人間失格》という強烈なキャッチコピーがあったり、「葉蔵を合格者に入れることで健康基準を維持する」といった台詞がありました。さらには、堀木の「全人間をロストさせる」という台詞も。

 これらを聞いて、私は『人間失格』よりも、『新世紀エヴァンゲリオン』や『PSYCHO-PASS』、伊藤計劃『ハーモニー』の方が近いのかな、と思いました。

 堀木が「全人間をロストさせて、保存した遺伝子であるべき人類を作る」と発言してましたが、これって『エヴァ』の人類補完計画とか、『ハーモニー』のハーモニープロジェクトと似てませんか?
 それに、基準や制度を揺るがす存在を内部に取り込むことで解決しようとするのは、『PSYCHO-PASS』に似ている気がします。

 ただ、「全人間失格」という強烈なキャッチコピーとは裏腹に、ラストの結末はあまり印象に残らない、ビミョーなものでした。

 結局、ある程度の数の人間は生き残ったし、堀木の計画も阻止されて、なんだか映画を見る前が一番盛り上がっていた気がしてきました。

 

 

 

 

物語と、社会

 

 物語は、前半が好きでした。
 中でも、竹一が率いる暴走族の下りが最高!

 アウトサイドのお寺?が本拠地。「羅生門かな?」と一瞬思いましたが、あれは芥川龍之介の作品でしたね(笑)
 巨大なスピーカーで音楽を鳴らし、まるで某マッドマックスや某北斗の拳のような世紀末感漂う輩たちを鼓舞して捨て身で環状16号線を突っ走る、格好良かったです!

 映画的にも、物語的にも、個人的には一番盛り上がるシーンでした。バイクのアクションは疾走感があるし、「死を克服した」ということがどういうことなのか理解しました。
 また、「俺達は道化だ!」や「自分の体を傷つけることを楽しむ」といった台詞が特に印象的でした。行動や思考から、インサイドとの技術や経済的な格差が如実に感じられました。

Shibuta(CV.Kenichiro Matsuda)、Atsugi(CV.Rikiya Koyama)Character Movie

 あと、もう1点。
 もう1つは、葉蔵が登場する場面

 部屋で倒れる葉蔵を前に、竹一がS.HE.L.L.に連絡して、気だるげに「あのー人が死んでんですけどー」と言った台詞に対して、オペレーターが「少々お待ち下さい」と返したのが衝撃的でした。

 社会の話。
 <ヒラメ>の澁田が、合格者となる老人たちと話しているシーン。

 頭に浮かんだのは、「いつの時代も、老人が強いんだな」と、老人の意見が、政治的にも健康的にも大事なのだな、と思いましたね。

 現代だって、日本では選挙結果の大半は高齢者の票だし、英国のEU離脱だって離脱に票を投じたのは高齢者たちだって言うじゃないですか。

 でも、本作で特筆するような部分はそんなところでしょうか。

 美子と葉蔵の関係は良かったし、葉蔵に人間らしい生き方を教えたという部分も彼女なので、その点は原案と同じく、良かったです。
 でも、「世界を救う」という大きな目的が先行してしまい、彼女の感情部分が深く掘り下げられていなかった点はもったいなかったと思います。

 

 

 


 

 

 

 今回は、ムビチケ前売り券を購入しました!
 特典はキャラクター・ボイスでした!

 そして、来場者特典もいただきました!
 また、パンフレットは制作陣にフォーカスしたとてもいい内容でした!

 

 

 最後まで読んでくださり、
 本当にありがとうございました!!

 

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