こんにちは!
お元気ですか?
6月になりました。
緊急事態宣言は解除されたとはいえ、まだまだ油断できない日々が続きます。そろそろ梅雨入りですし、どうせなら7日間くらい浄化の雨でも降ってくれたら良いんですけどね。
美術館・博物館・映画館なども再開し始めました。本当に嬉しい限りです! とはいえ、もう少し様子を見る日々が続きそうです。
さて、「未来と芸術展」の感想は最終回です。
第1回目では「感想」を書き、第2回目では「AIとロボ」について触れました。最終回は私が思う「アートについて」を少し語ろうと思います。この展覧会を観て、やっぱり「アートってスゲェな!」と思ったので!
2020年1月13日訪問
未来と芸術展
AI、ロボット、都市、生命
――人は明日どう生きるのか
【一言】
森美術館の「未来と芸術展」
噴出する社会問題と進化する科学技術。
人が創る”未来”を《アート》で見せる。
最高にワクワクする作品が集まった展覧会!
【Twitter140文字感想】
【 #未来と芸術展 】
科学技術が発達した現代。
価値観の在り方と噴出する課題を、
❝哲学的思考とアートの批評的洞察❞
で問い、視覚化する。《人が生命と共生する道を探る》
次世代型都市構想や遺伝子技術を見て思う人類普遍のテーマ。自然。それを実現するのも科学で、芸術はそのプロトタイプ。 pic.twitter.com/ql161WMf0Y— ArA-1 (@1_ARA_1) January 13, 2020
展覧会の概要
2019年11月末から六本木の「森美術館」で開催された「未来と芸術展」。進化する最先端のテクノロジが描き出す”未来”の可能性と危険性を芸術作品で問いかけた展覧会です。
テクノロジーの発達は、いま、私たちの生活のさまざまな側面に大きな影響を与えようとしています。…[中略]…そうした急激な変化がもたらす未来は決して明るいものだけではないかもしれませんが、私たちは、少なくとも20-30年後の未来のヴィジョンについて考えることが必要なのではないでしょうか。それは同時に、豊かさとは何か、人間とは何か、生命とは何かという根源的な問いにもつながるのです。
本展は、…[中略]…5つのセクションで構成し、100点を超えるプロジェクトや作品を紹介します。AI、バイオ技術、ロボット工学、AR(拡張現実)など最先端のテクノロジーとその影響を受けて生まれたアート、デザイン、建築を通して、近未来の都市、環境問題からライフスタイル、そして社会や人間のあり方をみなさんと一緒に考える展覧会です。
公式サイト
「未来と芸術展」トレイラー
「未来と芸術展」トレイラー#2
会場:森美術館
会期:2019年11月19日~2020年3月29日
(※新型コロナの影響で2月29日に閉幕)
料金:一般1,800円
公式サイト:こちら
3Dウォークスルー公開
「未来と芸術展」の3Dウォークスルーが公開されました!
展覧会の会場内を360°撮影したもので、ストリートビュー的な感覚で展覧会を観ることができます!!
また、展示だけでなく、解説文もテキストとして埋め込まれているので、とてもオススメです!!
もの凄くオススメです!
展覧会の雰囲気を味わえるので、ぜひ一度は御覧ください!!
アートとフィクションの”力”
最終回にして大風呂敷を広げました(笑)
でもまぁ、私は普段から言っていることだし、いつも思っていることなので、まぁ良いかな、と。
それに、今回の記事で扱うセクション4・5の内容は、まさにこの「アートの力」を感じられる内容だったので、ぴったりだと思います!
私は、アートやフィクションの凄いところは「議論を呼び起こす話題のキッカケ」になることが出来るところだと思っています。そして、もっといえば「物事を分かりやすく伝える」ことが出来るところです。
メディアが扱うにはあまりに抽象的もしくは主観的な価値観の問題を主題にしたり、科学が手を出せぬ領域のプロトタイプとして具現化したりすることができるのは、このアートという方法の特権だと思います。
人工知能の仕組みは難しいけど、映画を見ればイメージできる。クローン人間の製造は倫理的に不可能だけど、アートならその”もし”を形にできる。新しい都市計画はまず模型を作って試してみたり。福島第一原発事故を真っ先に取り扱ったのもアーティストでした。
「未来と芸術展」の開催についての、森美術館の館長・南條氏のあいさつ文に、まさにその言葉がありました。
現代は哲学的思考とアートの批評的洞察が必要な時代ですが、本展がこのような喫緊の課題を可視化し、皆様と共に考える機会となれば甚幸です。森美術館 館長 南條史生
まさにこの「喫緊の課題を可視化する」という部分が、私の思うアートの力と同じところだと思います。
また、白黒つけられない抽象的でセンシティブな内容についての議論を生む、という点について。2019年に話題になって”しまった”「あいちトリエンナーレ」の一出品「表現の不自由展・その後」の企画意図が分かりやすいかと。
表現の自由を巡る状況に思いを馳せ、議論のきっかけにしたいということが展覧会の趣旨です。
芸術監督・津田大介
ステートメント
この芸術祭のことは皆んな知っているので例に挙げやすいです。幸か不幸か、まさに議論の中心になったわけですが……。
そして最後に私の趣味に(無理やり)繋げます。
私は、テクノロジーアートやメディアアートが大好き。日進月歩する科学技術はSFっぽくてワクワクするし、アートはとても格好いいから。
それに、今は「科学」と「芸術」の境界がとても曖昧になっているようにも感じています。まぁ、「アート」という言葉が広義すぎるのかもですけどね。
一般的には「アート」って「≒美術や芸能」という意味で捉えることが多いと思います。けど、「人間の思考材料と表現物」くらい広く捉えるような転換が必要なのかもしれません。
そんなことを考えていた中での「未来と芸術展」でした。
本展は…[中略]…時代とともに変化する私たちの生活、身体、世界観や人間像の変化へと視野を広げたものとなりました。こうした新しい現実認識やヴィジョンが競い合う創作活動のフロンティアでは、もはやアートと科学技術の境界は消滅します。森美術館 館長 南條史生
展示作品の紹介について
「未来と芸術展」は5セクション構成です。
S.1:都市の新たな可能性
S.2:ネオ・メタボリズム建築へ
S.3:ライフスタイルとデザインの革新
S.4: 身体の拡張と倫理
S.5:変容する社会と人間
今回は記事を3つに分割して投稿します。
分量が多く、写真も多いので分割投稿形式です。
● 第1回:都市と建築(S.1, 2)
● 第2回:人々の生活(S.3)
● 第3回:生命と社会(S.4, 5)
第1回と第2回は以下です👇
作品のコンセプト文。
本当は全部読んで欲しい。私の感想文や駄文コメントなんかより、よっぽど作品コンセプトとかの”良い文章”を読んで考えて頂きたいです。
けど、都合上、一部を省略しています。
なので、ぜひ気になった作品などは各文章に添付したリンク先で全文を読んで頂けるととても嬉しいです!
セクション4:
身体の拡張と倫理
テクノロジーは、ロボット工学とバイオ技術の二つの道筋から、身体能力の拡張に応用され始めています。本セクションでは身体に焦点を当て、テクノロジーがもたらす変化と倫理的な問題について考察します。[…]そうした技術はまた、アーティストの創造性も刺激しています。
ここでは、[..]先端医療やバイオ技術によって起こりうる諸問題を問いかけます。
[…]意のままに遺伝子をコントロールできるようになれば、生物学的な相違による人種差別主義、遺伝情報の守秘など、生命倫理に関する様々な問題が想定できます。[…]そうした研究開発と技術応用には、慎重で徹底的な議論と国際基準が必要とされるでしょう。テクノロジーによって拡張される「身体」は、私たちの明るい未来と、そうでないものの両方を示唆しているのではないでしょうか。
全文はこちら
作家:ヒュー・ハー(Hugh Herr)
歩行時に発生する動力を再現して補助する義足です。
今や義足や補助器具の進化は本当に目覚ましいものがあります。新しい技術が開発されるにつれてより便利になるのでしょうね。聞けば、脳に電極を埋め込んで義手や義足を感覚的に操作する研究が米軍とかで進められているらしいです。
ヒュー・ハーがディレクターを[…]生物機械グループで開発された義足と補助器具です。《リハビリのための装着型ロボット》は動力付きの義足で、歩行時に生まれる動力をコントロールし、[…]効率的に歩行を補助することができます。《身体拡張のための装着型ロボット》は身体に装着し自然な力で歩行することを補助する器具です。
[…]現在の研究を始めたのは、より良い義足を開発したいという願望が動機となっていますが、人間の動作を飛躍的に向上する技術の開発も目指しています。それが実現する時、機械と身体の境界は曖昧になり、身体の定義も変わることでしょう。
全文はこちら
作家:ガイ・ベン=アリ(Guy Ben-Ary.)
作品名:cellF
制作年:2016
世界初の脳神経細胞を使用したシンセサイザーです。
これ、前に美術手帖で読んで観たかった作品です! 映像だけしか観られなかったけど嬉しかったです。《cellF》の見た目がもう最高!沢山繋がったコードが本物の神経や血管みたい。音楽の方は分からなかったけど、逆にそれが神秘的というか……。
本作は、世界初の脳神経細胞を用いたシンセサイザーです。作家の皮膚細胞由来のiPS細胞からつくられた約10万個の細胞を含む脳の神経回路網(ニューロンネットワーク)が、計 64 個の電極からなる多電極電位計測システムを内蔵したシャーレの中で育成され、シンセサイザーを操作・演奏するための「生きた外付けの脳」として機能します。シンセサイザーのデザインは、「内と外で無限ループを形成する音の増幅・調節室」というアイデア[…]。ライブパフォーマンスでは、人間の演奏が《cellF》の脳の神経回路網に電気刺激を与え、その神経活動がシンセサイザーへの電気信号となり、音楽を奏で、即興演奏を行います。
全文はこちら
cellF – Video Documentation
作品名:バイオアトリエ
医療現場や理化学研究室で実際に使用される機器を並べた展示室。
現在のバイオアートはこのような現場で生み出されることも少なくありません。また、一般市民が工作感覚で行う「DIYバイオ」の存在も大きくなりはじめています。
森美術館「未来と芸術展」南條史生解説ビデオ 17
バイオ・アトリエと名付けられたこの展示室は、アーティスト達のための実験室であり制作場所です。ここには医療や理化学の研究室で実際に使用されるクリーンベンチやインキュベーターなどの機器が設置されていますが、アーティストもまた、このような機器を用いバイオアート作品を制作しています。テクノロジーの発展はアートの表現を刷新し、それに合わせて制作現場もまた変わりつつあります。
全文はこちら
作家:やくしまるえつこ
作品名:わたしは人類
制作年:2016/2019
微生物のDNAを音楽に変換し、「人類滅亡の歌」として構成した情報を再び微生物の遺伝子に埋め込んだ作品。
これ、観られたことに感謝するしかないくらい、観たかった作品なので超興奮しました! 普通に考えて、微生物の遺伝子を音楽に変換するだけでも面白いのに、それを再び微生物に埋め込むとか凄くないですか!? しかも、微生物に「わたしは人類♪」と歌わせるところが素晴らしすぎます! もし、コンセプト通りに人類滅亡後に知的生命体がこれを解読したら、「微生物=人類」と思うかも……。
森美術館「未来と芸術展」南條史生解説ビデオ 19
「人類滅亡後の音楽」をコンセプトに新しい音楽の形を探る作品。微生物の遺伝情報をもとに楽曲を制作し、その記録媒体として遺伝子組み換え微生物のDNAを使用することで、現代のバイオテクノロジーが可能にする新たな作曲と録音の方法が模索されています。
展示室に流れる音楽は、25 億年前から生息すると言われる微生物[…]の塩基配列が、[…]特殊な暗号表「Cipher」によって変換され、遺伝子組み換え微生物のDNAに保存されたものです。人類誕生以前から存在する微生物のDNAに「人類滅亡後の音楽」を保存することで、「いつか人類が本当に滅亡した後、新たな知的生命体が現れ、想像を超えた方法で本作を読み解くかもしれない」と作家が述べる可能性に現実味を与えています。
全文はこちら
やくしまるえつこ『わたしは人類』
作家:エイミー・カール
作品名:進化の核心?
原題:The Heart of Evolution? (Amy Karle)
制作年:2019
従来の心臓の機能改善を提案すべく、3Dプリンターで作られた新しい血管系構造を持つ心臓。
科学技術によって新しい生命の進化を導く可能性を示すと同時に、まるで聖遺物のようにそれを展示することで生命への敬意を払うかのような作品。あと、この作品は翻訳でなく、原題の方が良いですね。「The Heart of Evolution?」です。「心臓」を掛けていますね。エイミー・カールの作品は別の展覧会でも観ましたが、見せ方がとても上手いと思います!
《進化の核心?》は、[…]心臓を、生物工学と人類が交差する対象として探求します。本作は、再生医療が進化の過程における自然選択を上書し、その道筋を変更する可能性があることを示唆し、また、私たちの未来についての再考を促します。
3Dプリンターで制作された心臓は、新しい血管系構造を提案するもので、従来の心臓の機能を改善します。医学的な利点にもなりますが、このようなデザインの改変は人類に大きな影響を与えます。
[…]生物工学を用いることが、人類を永久に変容させ、進化の道筋さえも変える可能性があることから、本作は、進化を担ってきた「生命の知性」へ崇敬の念を持ち続けることの重要性も示唆しているのです。
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作家:ディムート・シュトレーベ
作品名:シュガーベイブ
原題:Sugababe (Diemut Strebe)
制作年:2014
画家ゴッホが自ら切り落とした左耳を遺伝子技術で再現した作品。
この作品は、以前別の展覧会で「写真」だけ観たことがあるので、今回こうして本物を観ることが出来たのがとにかく嬉しいです! 繊細な作品らしく、公開されることは少ないのだとか。 子孫からDNAを取り出して亡き人の身体を再現するって、本当に凄い!
森美術館「未来と芸術展」南條史生解説ビデオ 18
フィンセント・ファン・ゴッホが切り落とした左耳を「生きた状態」で再現した本作は、「タンパク質による彫刻」[…]です。
この「ゴッホの耳」を構成する細胞のもとになったのは、ゴッホとY染色体を共有する父系の玄孫リーウ・ファン・ゴッホの耳の軟骨細胞です。そして、より正確に再現するために、母系の子孫の唾液から抽出したミトコンドリアDNAが導入されました。生前の耳の形は画像処理技術によって割り出され[…]ています。
本作は、ゲノム編集でDNAを復元し、マンモスなどの絶滅種を復活させようとしたり、死んだ愛玩動物をクローン技術で取り戻そうしたりする現代の極限的な欲望の一端を映し出しています。
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作家:森村泰昌
作品名:肖像(ヴァン・ゴッホ)
制作年:1985
森村泰昌さんによる作品です。
一つ前の作品「ゴッホの耳」を観た時に、鑑賞者が真っ先に思い浮かべるのはごっほによるこの「自画像」だと思います。その作品を同じ会場に展示して、しかも森村さんの作品だというところにセンスを感じます!!
[…]一見するとフィンセント・ファン・ゴッホの最も有名な自画像のひとつ《包帯をしてパイプをくわえる自画像》(1889年)を思わせます。しかし、翡翠色であるはずのゴッホの目は黒く、妙に生々しく、うつろに輝いており、この作品が絵画でも、またそれをそのまま複製した作品でもなく、アーティストの森村泰昌がゴッホの「自画像」に扮した写真作品だということがわかります。
科学技術の発達により、[…]現実にゴッホの顔になることが可能になるかもしれない未来が訪れるかもしれません。そのような時代になっても、人間のアイデンティティとは何か、ということを私たちは考えるのでしょうか?
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作家:アギ・ヘインズ
作品名:「変容」シリーズ
原題:英語タイトル(Agi Haines)
制作年:2000
新生児に外科手術を施すことで健康促進や身体強化を行うようになるかもしれない未来を形にした作品。
”デザイナーベイビー”とは違い、出産後に手術によって身体を改造する方法です。頭の皮膚を伸ばしたり、足の指を切り落としたり。その効果は重要だけど、「気持ち悪い」と思ってしまうのも事実。子供にとってはこれが幸せなのか、倫理的にやるべきではないのか…….。(結局、最後は倫理や感情の議論なんですよね)
本作では、外科手術で身体機能を強化した5人の新生児が表現されています。よりよい大人に成長することを願って、親がわが子の身体を修正するという設定です。[…]本作は出生時に子どもの身体への介入が健康や身体能力の増強を目的に行われる未来を描き、親が子どもをデザインすることはどこまで許されるのかを問いかけています。また、私たちは遺伝子組み換えを許容できるとしても、本作のような身体の改変には抵抗があります。なぜでしょうか?本作は、私たちの倫理観について問いかけるのです。
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作品名:体温調整皮膚形成手術
頭皮を引き伸ばすことで頭部の面積が増え、より早い熱放散が可能となります。地球温暖化が加速するなか、肌の表面近くにより多くの血管があれば、子供は高温度の環境で働くことに耐えることができるでしょう。
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作品名:二重頬形成
拡張クリップを用いることで頬の引き伸ばしが可能になります。クリップを頬側に埋め込むと、 3ヶ月をかけて皮膚と筋肉にストレッチがかけられます。これにより、ストレスの多い仕事に就く際に子供は素早く、かつ効率的にカフェインを吸収することができるようになります。
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作品名:足指切除
喘息の多発は足の中央の指骨の切除によって防ぐことができます。柔らかい肌と肉質を露出させることで、アレルギー反応を低下させる寄生虫として知られる鉤虫に感染する可能性を高めます。
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作品名:表皮性マイオストミー
耳の後ろの皮膚と細い筋肉を伸ばすことによって新たな開口部を形作ることができます。この開口部をきつく締めてすぼめることで、括約筋が形成されます。病気と診断され、錠剤やその他薬物の定期的な服用を必要とする赤ん坊であれば、こうした低脂肪部分に設けられた新たな開口部からの摂取と、ゆっくりとした吸収は有益なものになります。
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作家:リー・シャン(李山) (Li Shan)
昆虫の一部を人間のパーツで置き換えた写真シリーズ。
最初、パッと写真を観た時には何がおかしいのか全くわかりませんでした…..。解説を読んで気づいて、改めて見たらその気持ち悪さにゾクッと寒気がせずにはいられませんでした……。これは生体だけど、軍用に嗅覚や視覚を強化した生物とか登場してもおかしくないし……。
私たちは第一印象で本作に何か違和感を感じつつ、熟視することでその違和感が皮膚や唇など人間の体の一部が昆虫の一部になっていることによるものであることが分かります。このグロテスクで倫理感を揺さぶるデジタル合成写真は、発表時、美術の通念から乖離していると論争を巻き起こしました。[…]バイオ技術の発達によりこれらが実現するかもしれない近未来を想起させるがゆえに、今日、このシリーズは不気味さを増すのではないでしょうか。
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作家:パトリシア・ピッチニーニ
作品名:親族
原題:Kindred (Patricia Piccinini)
制作年:2018
オランウータンと人間の架空の交配種が子を抱きかかえる姿。
正直な感想は「気味悪い」でした。ただ、今は見た目だけで判断しているけど、解説コンセプトにもあるように「代替臓器のための生き物」と言われると肯定することになるだろうと思います。こういう見た目や内容で判断するのって、分かっていても嫌だなぁと。
森美術館「未来と芸術展」南條史生解説ビデオ 20
《親族》は、オランウータンと人間の架空の交配種をもとに、母親が2人の子どもを優しく抱く彫刻です。[…] 母と子の外見の違いやその造形のいびつさに心乱される人々にさえ、子をしっかりと抱きかかえる母の姿は、そこに紛れもない親子の絆があることを暗示します。本作は、「自然とは何か」「人工的に新しい生命をつくることは進化と呼べるのか」、そして「代替臓器を作るためのヒトと他の生物種の混合体のような生命に対して、人は共感できるのか」「人間のニーズに合わせて人工的に進化させることはどこまで許されるのか」を問いかけます。
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セクション5:
変容する社会と人間
テクノロジーが都市や生活、身体にもたらす変化に応じて、私たちは、考え方や社会制度を刷新する必要に迫られています。本セクションでは、テクノロジーの発展に伴う新しい人間像や社会像を考察します。
今後、AIやロボットが自律した役割や機能を担うことにより、社会の中で重要な影響力を持つといわれています。[…] […]テクノロジーが引き起こす社会の変容は、制度の見直しだけでなく、私たちを「人間とは何か」「幸福とは何か」「生命とは何か」という根源的な問いに導きます。それらは哲学的な命題であり、私たちがより良い未来を実現するために不可欠な問い掛けなのかもしれません。来るべき「未来」の為に、私たちはこれまで以上に精緻な考察を必要としているのではないでしょうか。
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作家:大阪大学石黒研究室ほか
作品名:オルタ
原題:Alter
制作年:2016-
精緻なアンドロイドを目指して制作された「オルタ」
この作品は……分からない。有名だし知っているけど、どこら辺が人間に近いのかがイマイチ分からない。外部の刺激や状況に対して反応するということなのだろうけど、どこまでプログラムなのか、自己判断なのか、その辺の説明が欲しいなぁと。(逆に、そう思えるって凄いことなんだけど)あと動きはまだまだカクカク? 前にもどこかで見たけど覚えていない……。
森美術館「未来と芸術展」南條史生解説ビデオ 22
このアンドロイドは、「生命とはなにか」をテーマにした研究の成果です。中性的な外見を持ち、動作は、セントラル・パターン・ジェネレーター(中枢パターン発生器)による周期的な自律した動きと、外部情報に呼応するニューラル・ネットワーク(神経回路網)の相互作用によって生み出されます。自律した動きと外部刺激への反応が複雑に相互作用する実際の人間の動きに近づけることが意図されています。[…]機械とアルゴリズムによって生成される《オルタ3》の表情や動作には、生々しさや情緒を感じることもできます。生命や感情というものは、人間や動物に限らず、機械の中にも存在し得るのかもしれません。ロボットがより身近な存在となる未来では、現在よりも多様な生命の定義が生まれる可能性があるのです。
全文はこちら
作家:マイク・タイカ
作品名:私たちと彼ら
原題:Us and Them (Mike Tyka)
制作年:2018
AIが自動生成するアメリカ政治に関するツイートを天井から流し続けるインスタレーション作品。
Twitterのタイムラインに流れるように、天井から帯が流れてくるのは面白いです! 自動生成のツイートは大きな問題ですからね。Twitterくらいの短い文章なら、人間との区別ないクオリティで生成できるのかもしれません。
これは、AIによってつくり出された架空の人物たちの肖像とツイートを組み合わせたインスタレーションです。[…] 2016年の米国大統領選挙の際、候補者だったトランプ氏を支持し、選挙戦を操作しようとするツイートがbot(ロボットによる自動発言)アカウントから発信され[…]ました。タイカはそこで問題となった20万以上のツイートを機械学習プログラムに学習させ、脳の仕組みや働きの一部を数理的モデルとして再現するニューラル・ネットワークを用いて、アメリカの政治に関するツイートを自動生成するAIを制作しました。肖像画も同様に、写真共有サービスFlickr上の顔写真をAIに読み込ませ、架空の人物の顔を自動生成したものです。
本作はヴァーチャルなデジタル空間の危うさを現実空間で体現しているのです。
全文はこちら
作家:ANOTHER FARM
作品名:Boundaries
制作年:2019
遺伝子組み換えの蚕が作る光るシルクで織られた能衣裳。
アーティストの「スプツニ子!」らのユニット作品です。ブラックライトの中に浮かぶ青色の衣装。特殊なゴーグルを通すと、模様が浮かび上がります。以前、別の展覧会では同じシルク製の”ぬいぐるみ”を見ましたが、この能衣裳の方が断然良いですね。
森美術館「未来と芸術展」南條史生解説ビデオ 21
[…]本展出品作は、遺伝子組み換えがされた蚕から作られる光るシルクを素材にし、京都の職人との協働による能衣装を中心にしたインスタレーションです。
能ではしばしば、生きている時に叶わなかった願望を果たそうとする幽霊が登場人物となり、過去と現在の時間軸をまたぐ物語があります。尾崎は「人は神の領域に少しでも近づきたいと願い、その願いを実現するために様々な試みを繰り返してきた」とし、本作は「最先端技術と能を媒介にして、人と神の領域の境界線をなくそうとする試み」と述べます。本作のように、最先端の技術がアート作品に応用されることで、技術の可能性を広げると同時に、その応用についての議論を深めることが期待できるのではないでしょうか。
全文はこちら
作家:長谷川愛
作品名:シェアード・ベイビー
原題:Shared Baby
制作年:2011/2019
「遺伝的に複数の親を持つ子供」が実現したら、家族や子育てのあり方がどう変化するのかを考える作品。
個人的には選択肢としてあって良いと思います。けど、そこには色々な権利関係や愛情のような感情面などで面倒くさそうだなぁとも。現に、代理出産でも色々な問題が起こっている中で、どうなるのか…..。でも、今は家も車も洋服もシェアの時代ですからね。
本作は、「遺伝的に複数の親を持つ子どもが実現したら、子育てはどう変化するのか」という疑問にもとづいた作品です。[…] ミトコンドリア病が遺伝することを防ぐために、女性の卵子核を交換移植することでひとりの子が父親、母親、卵子提供者の3人の遺伝情報を持つことは、イギリスなどで既に認められています。もし、治療以外でも、子どもが複数の親を持つことが技術的に可能になり合法化されたら、3人以上の親たちがひとりの子どもを共有できるようになるのでしょうか。本作は、バイオテクノロジーが家族の定義や子育てのあり方をどれだけ変えうるのかについての思考実験なのです。
全文はこちら
作家:手塚治虫
作品名:火の鳥
制作年:1954-
手塚治虫の『火の鳥』から、「未来編」と「太陽編」です。
手塚作品の中でも特に大好きなのが『火の鳥』です!まさか、これが展覧会で見られるとは。(写真撮影禁止でしたが、バーチャル展覧会では一部が見れるようになっています!)
森美術館「未来と芸術展」南條史生解説ビデオ 23
[…]手塚治虫『火の鳥』(1954-86)[…]。本展で紹介するのは「未来編」と「太陽編」です。ここで描かれているのは、あらゆる思考と判断を人工知能に任せるようになった世界や、極端な差別を伴う宗教が蔓延する世界など、いずれも現代社会を予見するかのような高度文明で暮らす人類の様子です。全編を通して「生きること」や「正しさ」を問いかけ、行き過ぎた人類が迎えるディストピアが社会批判的に描かれています。一方で生命が持つ強さも語られ、人類への希望が示されているようでもあります。
全文はこちら
作家:ラファエル・ロサノ=ヘメル&クシュシトフ・ウディチコ
作品名:作品タイトル
原題:Zoom Pavilion(Rafael Lozano-Hemmer with Krzysztof Wodiczko )
制作年:2015
カメラが鑑賞者の顔を検知して、拡大投影をする作品。
「カメラによる監視社会」が迫っているとはいえ、それを意識するのは難しいです。けど、ここまでわかりやすく示されると、現実のものとして意識できますね。
展示は他人の顔が映ります。一応、会場には「写真をネットにUPされるかも」という注意書きがありました。(私が映っている部分は黒塗りで……)
森美術館「未来と芸術展」南條史生解説ビデオ 25
この作品では、顔認識のアルゴリズムを使用して室内の鑑賞者が検出され、位置や行動、関係性などが壁に表示されます。別の画面では、複数のズームカメラが鑑賞者を追跡し、顔が壁に拡大されて映し出されます。そのため表情の機微までもがつぶさにほかの鑑賞者と共有されます。また、個人の表情を注視した視点や、群像としての全体を写した俯瞰的な視点だけでなく、わずかな行動から読み取られる意識や関係性までもが、機械によって分析されていることも示されています。機械による監視社会が現実のものとして迫っていることを、私たちに意識させるのです。本作は、私たちの気づかないところで社会基盤を作り変える技術が発達している今日、私たちはいかに生きるべきなのかを問いかけているようです。
全文はこちら
作家:メモ・アクテン
作品名:深い瞑想:60分で見る、ほとんど「すべて」の略史
原題:Deep Meditations: A brief history of almost everything in 60 minutes(Memo Akten)
制作年:2000
SNS上の写真から学習した人工知能が架空の風景を映し出す作品。
60分と長いので全部は観ていませんが…..。宇宙から始まって、段々と風景が形成されていきます。なんだか、凄く不思議な体験でした。自宅でゆっくりと、1.5倍速くらいで見たいですね。
森美術館「未来と芸術展」南條史生解説ビデオ 24
日没、雄大な山々や深い森といった自然の風景などが、揺らめきながら緩やかに変化する映像。しかし、画像は写真共有サイトFlickr上の「全て(everything)」とタグづけられた写真をニューラル・ネットワークに機械学習させ、その学習に基づいて人工知能が自動生成したものです。[…]実在しない美しい自然なのです。
8Kプロジェクターで投影された本作ではビッグデータという人類史上類をみない記憶装置を介して、個人の想像力によらずに人々の精神世界と結びつくイメージが可視化されています。それは、私たちがどのような風景を触媒に、目に見えない超常的な世界へ想いを馳せているのかを表していると、言い換えられるかもしれません。
全文はこちら
作家:アウチ
作品名:データモノリス
原題:DATAMONOLITH (Ouchhh)
制作年:2018/2019
古代遺跡に刻まれた図像をAIが解析して投影された映像。
本作が「未来と芸術展」のラストです。様々な最新技術を用いた作品を観ながら、”人類”と”未来”を考えてきた本展。その最後を飾るのが「モノリス」というのがもう興奮もの! キューブリック監督の『2001年宇宙の旅』から、「モノリス」は知恵や技術、《進化》の象徴になりましたから。最高でした!!
森美術館「未来と芸術展」南條史生解説ビデオ 26
高さ約5mもの直方体の4面に映像が映し出される本作には神秘的な趣があります。トルコ南東部の[…]紀元前9600–7000年頃に建てられたとされ、世界遺産にも登録されているギョベクリ・テペ遺跡の構造体に刻まれた図像や情報がAIで解析され、抽象的な映像に変換されています。
タイトルの「モノリス」は、遺跡の構造体の細長い形状に由来するとともに、キューブリックによるSF映画「2001年宇宙の旅」(1968)に登場する四角い石柱状の黒い謎の物体をも想起させます。[…]本作は私たちを古代へ、そして未来への想像の旅へと誘うのです。
全文はこちら
おわりに
長々と3回に渡って連載してきた「未来と芸術展」の感想も今回で最終回です! 無事に書き終えて安心しています(笑)
とはいえ一方で、各作品に対する感想コメントが非常に少なかったことが残念です……。「記事が長くなるから」と心配して短くしましたが、やっぱりもっと細かく書きたかった作品もたくさんあります。この反省は次回に活かしましょう。
最後は、森美術館が行っているアート・プロジェクトのご紹介をして終わろうと思います!
「まちと美術館のプログラム」の中で、15歳~22歳の青年を対象にした「アート・キャンプ」が行われています。この回では、「未来と芸術展」で紹介した「バイオラボ」で展示されていた機器を用いて作品制作に挑戦しています!
とても良くできた3分ほどの動画なので、お時間ある方はぜひご覧ください!
まちと美術館のプログラム「アート・キャンプ for under 22 Vol. 4:美術館で未来について考える」第1回「美術館でバイオラボ体験!?」
【連載記事】
第1回:都市計画&建築
第2回:生活&人工知能
第3回:生命科学&人間
最後まで読んでくださり、
本当にありがとうございました!