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【映画】『シェイプ・オブ・ウォーター』───グロテスクで官能的なラブストーリー。

残酷で美しく、詩的でグロテスクでエロティック、気味悪いくて官能的な純なるラブストーリー。 赤茶けた映像・無声の主人公・淡白な研究施設……と無機質な画面の中で、異彩を放つ“彼”の存在と不格好な愛が感情豊かに映る。 違和感を抱くキャラクターと、ダークでファンタジーの雰囲気がとても好き!
※ネタバレなし。
※画像は予告映像のキャプチャです。

2018年3月1日鑑賞

シェイプ・オブ・ウォーター
(原題:The Shape of Water)

 

 

【評価:4.2/5.0】

 


【一言】

残酷で美しく、詩的でグロテスクでエロティック、気味悪くて官能的な純なるラブストーリー。

赤茶けた映像・無声の主人公・淡白な研究施設……と無機質な画面の中で、異彩を放つ“彼”の存在と不格好な愛が感情豊かに映る。

違和感を抱くキャラクターと、ダークでファンタジーの雰囲気がとても好き!

 

 

ストーリー

政府の研究所で清掃員として務めるイライザは、子供の頃から喋ることが出来ない発話障害を抱えていた。

ある日、研究所に持ち込まれた最重要の研究対象。運び込まれた水槽の中を覗いたイライザが目に下のは、“水かき”のついた手をもつ魚人だった。

予告動画

 

 


 

 

目次&メモを表示

 

【目次】

 

 


 

 

作品データメモ

監督:ギレルモ・デル・トロ
製作:Bull Productions
キャスト:サリー・ホーキンス,マイケル・シャノン and more.
上映時間:123分
日本公開:2018年3月1日
配給:20世紀フォックス
公式サイト

 

 

 


 

 

 

感想

 

感想外観

 

 鑑賞前、「濃そうだな〜」という印象を持っていましたが、実際に観てその通りだと思いました。濃いし、重いし、深い!
Alexandre Desplat「You’ll Never Know」

 何よりも、今回はその「雰囲気」が最高に好きでした!
 全体的にはダークな空気が漂っていて、物語としてはファンタジー。でも芸術的な被造物との恋&愛がどこか温かさを加えている。

 そんな微妙な雰囲気が最高でした! ギレルモ・デル・トロ監督の作品はあまり観てませんが、世界観はまさにその通り!

 そして、その雰囲気を作り上げているのは映像と登場するキャラクター。

 キャラクター達にはどことなく“違和感”を感じる部分があるように思います。
 喋るこの出来ない彼女、異形な姿の彼、その他にも執念を抱く警備担当、不審な博士………など「異様な人物」が混ざり合い、溶け込んでいます。

 そして赤茶けた、時代の古さを感じさせる映像は、ファンタジーというジャンルから想像する煌びやかなイメージからかけ離れ、現実と空想の絶妙な距離感を描き出しています。

 それから、「愛の表現方法」も詩的でした。
 発話障害で言葉を喋れない彼女と、人間の言葉を話せない魚人が、『言葉を使わずにお互いの愛を伝え合う』という部分。
 伝わる、感じ取る、通じ合う。感覚と心からの愛情を言葉無しで描いていました。

 映画として、見せ方が上手でした。
 コンセプトアートをそのまま見ているような映し方、「水」を様々な形で丁寧に描写したり、逆に嫌悪感を抱くようなシーンを挿入したり。

 特に魚人の彼がそうですが、グロテスクだけど美しかったです。
 自分とは違う姿の存在に気味悪さを覚えるけれど、彼の身体はまさに芸術スケッチの様に美しい!

 

 

 

 

 

“雰囲気”漂う映画

 

 何というか、映画を映画たらしめている“雰囲気”がとても伝わってきて、それが凄く好きな作品でした。

 映画全体を覆うのは、どこか暗くて少し怖いようなダークな空気。
 薄暗いシーンが多いことや不気味な魚人、暴力的な場面の挿入がその空気を醸し出しています。

 しかし、物語のジャンルとしてはファンタジー。
 現実ではありえない空想が描かれるけど、それはか輝きと希望に満ちた童話ではなく、ダークなラブストーリー。

 ラブストーリーが映えるのは、映画の雰囲気がダークだから。
 薄暗い作品の中で描かれる恋と愛、熱い想いは普通の映画よりも鮮やかな印象を受けます。

 ギレルモ・デル・トロ監督の映画はあまり観たことありませんが、彼の美術集は見ました、読みました。
 まさしく、その美術を詰め込んだような、そんな監督らしい雰囲気が随所に散りばめられた作品でした。

 

 

 

 

 

違和感を抱くキャラクター

 

 本作に登場するキャラクターは、どこかしら少しだけ“違和感”のようなものを感じます。普通の人間とは少し違う、現実ではありえない、そんな感じが。

 それが映画の“雰囲気”を作っているし、物語を面白く、またダークにしていると思います。

 主人公の女性イライザは発話障害によって言葉を喋ることが出来ません。「話せない」という違和感が観客の意識にそっと刷り込まれます。
(発話障害を違和感と呼ぶのは失礼だと分かっています。スイマセン。)

 そしてもう一人の主人公、不思議な生き物の魚人。彼の異形で不気味なその見た目には、「人間とは違う」という奇異の違和感を抱かざるをえません。

 また、魚人の研究室の警備を担当する軍人からは「異様なまでの執念と残忍さ」が、研究する科学者の一人からは「表情のない顔の不審さ」など“違和感”とも呼べるべき部分を感じる事が出来ます。

 この、「普通とは少し違う」という部分がとても大切なキーポイントなのだと思います。

 

 

 

 

“愛”の表現方法

 

 「愛」の表現方法がとても多様で、また示唆的だったように感じました。

 主人公の女性イライザは言葉を喋れない。
 そして魚人の方も人間の言葉を発せない。

 愛を伝えて、確認して、コミュニケーションを取るのに一番楽で、また表現豊かに意思を伝えられる「発話による会話」というツールが制限された本作。

 そんな中で、2人がその愛を確認して、伝え合う様子が純粋で、時に詩的で美しかったです。

 また、それと比べるように対照的に、「人間の愛」も描かれていました。
 口で会話したり、夫婦の様子や性行為を描いたりして、その生々しく描写された「人間の愛」とのコントラストが印象的でした。

 

 

 

 

 

映像の見せ方

 まず、映画を観ていて一番に感じるのは「赤茶けた古い印象」です。
 時代が東西冷戦時なのでそれに合わせたというのもあるでしょうが、それ以上に“雰囲気”を醸し出すのに最適だったように思います。

 ファンタジーな本作だけれども、古ぼけた画面からは「輝かしい希望の空想」ではなく、「現実に寄った暗い幻想」という印象が湧いてきます。

 それから、映画のタイトルにもあるように、「水」の描き方がとても印象的につがわれていました。

 水槽の水、水道の水、窓についた雨粒、どしゃ降り、海、川、風呂、洗面所。
 第三の主人公であるかのように、至る所に「水」が出てきます。

 あとは、コンセプトアートをそのまま映したような映像がとっても好きでした。
 例えばこのポスターにある印象的な場面とか、魚人のビジュアル、古い研究所の内装などからコンセプトアート的な感じを受けました。

 そんな綺麗なシーンとは裏腹に、嫌悪感を抱くようなシーンを挿入してきます。
 それが「綺麗なシーン」の引き立て役となっているのか、映画のダークな“雰囲気”を増長させているのかは分かりませんが。

 

 

 

 

 

魚人の彼

 

 魚人の彼こそ、まさにコンセプトアートのよう。
 グロテスクな見た目と、美しい印象が混ざりあった、とても不思議な生き物です。

 最初に見たときはその気味悪さから少し引いてしまいます。
 しかし、彼の本当の姿を見ると、その美しさには敬意を評したくなるほどの芸術的な麗しさが隠されているように感じました。

 

 

 

 

 

ネタバレあり感想

 

ネタバレを表示

 

 まず、よく上映してくれたという喜びが最初に書くべきことですかね。
 結構際どい(?)シーンがあったと思います。隠すことなく裸になるイライザや、風呂での自慰シーンなど。

 カットせずに上映してくれて良かったです。でも、ここまでしたならストリックランド夫妻の性行為シーンにあんなモザイク入れなくても………………。

 魚人、結構可愛いですよね(笑)
 イライザと研究室で交流する部分が本作では1番好きなのですが、音楽聴いたり、卵を食べたり、手話を覚えたりとまるで子供みたい。

 愛情には愛情で応えるというか、優しさによって柔らかくなった魚人の様子が好きでした。

 ラストはハッピーエンドでしたが、そこまでの展開がかなりバッドエンド的な流れで驚きました。

 ストリックランドによる執念の復讐劇により、次々と撃たれたしまう場面は観ていて辛かったです。

 印象的なポスターのシーンは、最後の最後に登場するんですね。

 

 

 

 


 

 

 

以降、映画本編のネタバレあり

 

 

 

 


 

 

 

ネタバレあらすじ&感想

 

序盤

 

 水の中の部屋を映した映像から映画はスタート。
 ナレーションは、これから語る物語を「愛と喪失の物語」と表現した。

 主人公であるイライザの生活が描かれる。
 深夜に起きる彼女は、浴槽にお湯を溜め、ゆで卵をセットしておき、風呂に入ると自慰行為を。そして腹ごしらえをし、隣室の絵描きジャイルズに挨拶をして、仕事へと向かう。

 彼女の仕事は航空宇宙研究センターでの清掃員。親友であるゼルダとともに施設の掃除を担当する。

 

 

 

 

 

前半

 

 何も変わらず、大きな変化もない毎日の中で、ある日、研究施設の一室に新しい研究対象が運び込まれる。

 不透明な水の入った大きな水槽に興味を引かれたイライザは、手を付いて中を覗こうとする。
 その時、水槽の内側から激しく覗き窓を叩いたのは、“水かき”のついた手だった。

 家に帰ると、唯一の話し相手であるジャイルズには研究所で見た生き物の事を話す。
 話しながら食べるのは、彼が買ってきた緑色のゼリーパイ。結局、不味くて捨てるのだけれども。

 ある日、いつも通りにゼルダと女子トークで盛り上がりながらトイレ掃除をしていると、入ってきたのはスーツを着た男。

 手を使わずに小便をし、手を洗わないその男は、新しい研究対象の警備責任として配属されたストリックランド。
 彼の手には牛追いに使う、電流が流れる警棒が握られたいた。

 その後、聞こえてきたのは3発の銃声と叫び声。声のする方を向くと、そこには研究室から倒れるように出てきたストリックランドで、手からは大量の血が流れ出していた。

 その場を離れるイライザらだったが、研究室の清掃を命じられる。
 血だらけの研究室内を清掃中、イライザが見つけたのは切断された2本の指。

 そしてイライザが水槽の中に見たのは、人間と魚を掛け合わせたような「魚人」の姿だった。

 

 

 

 

 

中盤

 

 イライザは研究室に頻繁に訪れるようになる。魚人に卵をそっと与え、ご飯を一緒に食べたり。

 ストリックランドに呼び出されたイライザとゼルダ。
 彼から切断された指を縫合してくっつけたと教えられ、また研究室からは清掃後に速やかに退出するよう忠告される。

 イライザが喋れないと知った彼は、彼女の首にある傷に気がつく。
 イライザは赤子の時に川に捨てられて孤児施設で育った。首の傷が示すように、彼女は声帯を傷つけられたせいで発話障害となってしまったのだった。

 それから、“奴”こと魚人が南米のアマゾン川から運ばれてきた事もストリックランドは話した。

 帰宅したストリックランド。郊外の家では妻と2人の子供を持つ世帯の主。
 子供が学校に行き、妻と二階で性行為をしながら語るのは、新しい車の購入したいという望み。

 イライザと魚人との距離はどんどんと近くなっていった。卵を与え、レコードで音楽をかけて、手話を教えたりもした。

 そんな様子をこっそりと伺うのは、研究員の一人である科学者、ホフステトラー博士。

 博士は秘密の待ち合いをして、何者かとの接触をする。
 ソ連のスパイであった博士は、魚人が意思疎通や音楽への興味を示していることを伝え、上司に魚人の奪取を提案するのだった。

 ある日、彼女が清掃の途中で魚人に卵を与えようとしているところに、ストリックランドが戻ってきた。

 慌てて隠れる彼女の前で彼が行ったのは、牛追い棒で魚人に電気ショックを与えたり、殴ったりする暴力行為だった。

 そこへやってきた彼の上司のホイト元帥。元帥に説明するホフステトラー博士。博士曰く、この生物は2つの呼吸法が出来、研究することでソ連との宇宙開発競争に勝てるかもしれないということ。

 そして、博士の抵抗虚しく、魚人は研究のために生体解剖をされる事に。

 生体解剖の計画を盗み聞きしてしまったイライザは、ジャイルズに救出するよう頼む。
 しかし、なかなか聞こうとしないジャイルズに対してイライザは怒りを態度に表し、そして自分が抱いている感情を伝える。

 「彼は幸せそうに私を見る。彼は私が話せない事を知らない。彼はありのままの私を見てくれる」

 ジャイルズはイライザの頼みを冷たく断るが、結局は手伝う事に。

 一方、ホフステトラー博士も生体解剖の計画を上司に話し、魚人の殺処分命令を受ける。 反抗する彼だったが、それは意味をなさず、撹乱用の爆薬と毒の入った注射を受け取る。

 

 

 

 

 

 

後半

 

 魚人を盗み出す作戦をいよいよ実行に移す。
 搬入口から盗み出す為、まず監視カメラの向きを変えて死角を作ったイライザは、魚人の元へ。

 状況が飲み込めぬまま、ホフステトラー博士の力を借りて鎖を解くと台車に魚人を乗せて搬入口へ急ぐ。
 一方、博士は手に持つ爆薬を配電盤の裏にセットし、彼もまた搬入口へ。

 搬入口にたどり着いたイライザの前に現れたのは、退社時間に現れない彼女を心配したゼルダ。彼女も最終的に協力する事になり、博士と3人で魚人を運ぶ。

 しかし、輸送に使うはずだったジャイルズの乗るバンの偽装がバレてしまう。
 そこへ丁度博士が設置した爆薬が爆発し、施設は停電に。バンで逃げるイライザたちに向かって発砲するのはストリックランド達だった。

 イライザの部屋へ魚人を連れ帰ると、風呂に水を張って薬品と塩を混ぜ、魚人の体調を整える。
 そして10日の雨の後、水位の増した川の桟橋から魚人を逃がす事に決める。

 翌日、施設では大騒動になっていた。イライザとゼルダも尋問を受けるが、バレる事なく無事に解放される。

 一方、イライザの部屋ではジャイルズが魚人を見張っていたものの、居眠りした隙に風呂場を抜け出した魚人は、飼い猫を食べてしまう。

 そしてジャイルズに驚いた魚人は彼の腕に傷を負わせてしまい、部屋から飛び出して外へと逃げてしまう。

 急いで駆けつけたイライザは、無事に映画館で魚人を発見。部屋に連れ帰った魚人はジャイルズの頭を撫でて、仲直りを果たす。

 夜、ベットから抜け出した彼女は風呂場の魚人の前で服を脱ぎ、裸体を顕にする。
 彼女は魚人とセックスをしたようだった。

 更に、別の日、彼女は水道の蛇口を全開にして風呂場に水を満たすと、魚人と抱き合うのだった。

 テーブルに座り、食事をとるイライザと魚人。しかし、魚人は衰弱しており、ゼルダは博士に連絡。
 しかし博士は引っ越した後で連絡がつかなかった。

 ストリックランドは魚人を取り逃がした失敗をホイト元帥から責められ、汚名返上すべく事件の失敗を取り戻すべく動き出す。

 まずはホフステトラー博士を狙う。ロシア語を話す現場を目撃し、ソ連のスパイだと判断したストリックランドは、博士を撃ち、拷問して事件の犯人が清掃係だと知る。

 そしてストリックランドが訪れたのはゼルダの自宅。脅して魚人がイライザの元に居る事を聞き出し、彼女の部屋へと向かう。

 しかし、イライザはゼルダからの電話で危険が迫っていると知ると、すぐに魚人を連れて部屋を出たため、部屋はもぬけの殻だった。

 居場所を探るストリックランドは、カレンダーニ書き込まれた「雨の日/桟橋」というメモから伊場所を突き止める。

 

 

 

 

 

終盤

 

 桟橋では魚人を放すにあたって、イライザと魚人は最後の会話をしていた。
 そこにやってきたストリックランドはジャイルズを殴り倒すと、躊躇する事なく魚人の胸に向かって発砲。そしてイライザにも弾丸を撃ち込む。

 胸を撃たれた魚人は、身体を青白く発光させると、不思議な力で再び立ち上がり、傷を治した。
 そしてストリックランドの喉を切り裂いて殺すと、イライザを連れて水の中へと消えていった。

 水の中、深い底へと沈みながら魚人はイライザを抱擁し、そして唇にキスをする。
 するとイライザの首筋にあった3本の傷がエラとなり、イライザは呼吸をする。

 そのまま深淵へ沈む2人。

 そしてタイトルバックとエンドクレジット。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

追記
 2018年3月5日、第90回アカデミー賞が発表されました!
 そして、本作『シェイプ・オブ・ウォーター』が作品賞・監督賞・美術賞・作曲賞の4つを受賞しました!!

 

 

 最後まで読んでくださり、
 本当にありがとうございました!!

 


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