こんにちは!
お元気ですか?
足早に過ぎ去るクリスマス、刻々と迫りくる年末まで残された数日のタイムリミット、気がつけばもういくつ寝るとお正月、山積するタスクに忙殺されぬよう必死の攻防戦を繰り広げる私────果たして結末やいかに!?
さて今回は、2020年7月に鑑賞した、アーティストユニットChim↑Pomの個展「May, 2020, Tokyo / A Drunk Pandemic」の感想と作品紹介を書きます。この展覧会は今年中に記事を書きたいと思っていたので、間に合って良かったです!
2020年7月4日鑑賞
May, 2020, Tokyo / A Drunk Pandemic
- アーティスト・ユニット Chim↑Pomの個展。
- 新型コロナ禍で緊急事態宣言が発表された5月の東京を映す作品と、2019年に英国で開いた「コレラと都市」を主題にした芸術フェスを展示する。
- 都市・人・社会・感染症などの関係性を作品に切り取ってきたChim↑Pomだからこその価値を感じられる素晴らしい展覧会!
Chim↑Pomによる本展「May, 2020, Tokyo / A Drunk Pandemic」は、その展覧会タイトルが示すとおり、2つのプロジェクトで構成されます。まず「May, 2020, Tokyo」は、世紀の祝祭イベントとなるはずだった東京2020オリンピックが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け延期となり、その後発令された緊急事態宣言下の5月、東京を舞台にしたプロジェクトです。
[…] また、もうひとつのインスタレーション「A Drunk Pandemic」は、2019年イギリス・マンチェスターのヴィクトリア駅地下にある巨大な廃墟のトンネルで展開したプロジェクトに依るものです。
展覧会サイト
展覧会:May, 2020, Tokyo / A Drunk Pandemic
会 場:ANOMALY
会 期:2020年6月27日~7月22日
Chim↑Pomの個展です。
広島上空に飛行機雲で「ピカッ」と描いたり、渋谷駅にある岡本太郎作の壁画に福島第一原発を模した場面を加えたりと、過激な内容で賛否両論ありますが、私はとても好きなアーティスト・ユニットです。
今回の個展は「May, 2020, Tokyo / A Drunk Pandemic」という題名に入っている「5月の東京」と「パンデミック」という文字から想像がつくように、Covid-19=新型コロナ禍という状況を基軸にしたものです。
以前ブログにも書いたバイオアートの展覧会「ヒストポリス展」の中でキュレーターの髙橋洋介さんが次のようなコメントを寄せていました。
まさしくそれです。今回のChim↑Pom個展は、緊急事態宣言後に初めて見る、直接的にコロナ禍をテーマにした作品をリアルな展覧会場で見る機会でした(オンラインを除いて)。
2020年は、ウイルス感染症の世界的な大流行で幕を開け、先の見えない不安が社会に蔓延している。[…] 新たな時代の危機が今、新たな芸術を萌芽させている。
高橋洋介
展覧会を構成する《May, 2020, Tokyo》は、緊急事態宣言による外出自粛によって人出が激減した東京の街の姿を、感光液を塗った板に焼き付けた作品です。
やっぱり、こういうものを見ると「芸術」って凄いと思います。
リアクション・スピードとインパクトが特に象徴的だと思います。事柄に対する反応速度が素早くて、しかし単に情報を即時的に伝える報道とはまた違うじゃないですか。考えたり問いかけたりと表面的にもコンセプト的にも見た人への影響力の大きさも無視できないし。
それに、短い期間でこんなに面白いことができるというのが、何よりワクワクです。
こういう作品を、”今”見ることができて良かったです。
私が見に行った7月時点でもコロナをテーマにした作品はたくさん創作されていて、そのどれも素晴らしいものだと思います。
一方で、多くは「ロックダウンと外出自粛」とか「日常の尊さ」とか「人が消えた都市の写真」とか「身近な人への感謝」とかそういうものばかりだなーとも感じてました。もちろん内容も表現もそれぞれ違うし、とても良いのですよ。
でも、そういう普遍的なものとは違う、これまでも「都市と芸術」とか「感染症と社会」とか「歴史的出来事と人間」とかを一貫して取り上げてきたChim↑Pomの作品だというところに意味があるし、やっぱり過激さというか不気味さというかがあって、2020年7月という時に見られた価値はとても大きいと思います。
まずは、ギャラリーHPに掲載されていた、本展に関するChim↑Pomの紹介文の一部を引用します。いかなるアーティストなのかを知ることができると思います。
ペストの媒介者として嫌われてきたネズミの中でも、都市で繁殖し殺鼠剤が効かなくなるほど進化した「SUPER RAT」を自分たちの肖像として捉え、また死の使いとして畏怖されるカラスを題材にした作品に、「BLACK OF DEATH」と黒死病を想起させるタイトルを付けてきたChim↑Pomにとって、このふたつのプロジェクトは、疫病と資本主義社会、そして都市の関係に触れてきた一連の流れにあるものです。Chim↑Pomの「都市論」は、公から個という昨今の東京のまちづくりに反して、個から公への回帰と刷新を念頭にした2018年ANOMALYでの個展「グランドオープン」からさらに発展し、移動が過度になったグローバリズムの最中にある「都市そのもの」と「人間の在り様」を提示します。
ANOMALY
May, 2020, Tokyo
「May, 2020, Tokyo」は、緊急事態宣言による外出自粛によって人出が激減した東京の街を見つめる2020年のプロジェクトで、感光液を塗った板を街なかに2週間程度放置し、人の消えた街の光や影を焼き付けた作品です。
人の背丈ほどある板には「TOKYO 2020」や「新しい生活様式」など非常事態宣言下で生まれた標語 が記されています。
2020年現在、新型コロナウィルスの感染拡大により、世界は空前の危機に見舞われています。大都市はロックダウンし、オンライン化が加速、 東京も4月から5月にかけて緊急事態が宣言されました。ウィルスは、これまでの生活様式や価値基準をも、瞬く間に変えてしまいました。
世 紀の祝祭イベントとなるはずだった東京オリンピック・パラリンピックも、2021年への延期が決定。それに伴い声高に謳われてきた「Tokyo 2020」は、そのまま五輪の名称として来年へと引き継がれることになります。本作は、常に屋外で制作を敢行してきたChim↑Pomが、「Stay Home」や「ソーシャル・ディスタンス」のスローガンのもと、未曾有のレベルで外出自粛が謳われた「街」へと改めて目を向けたプロジェク トです。
多くの機能を失った街、「緊急事態宣言下の外」とは・・・何が変わり、変わっていないのか。それを記録する為にChim↑Pomは、 サイアノタイプ(青焼き)の感光液を塗った看板を、人の往来が激減した様々な場所に設置、最長2週間放置し、画面に、雨や日光、影の揺らめきなど、変わらずあった外気の痕跡を時間と共に「焼き付け」ました。
2021年以降の社会はどう変化し、それによって作品の解釈はどう変わ るのか。日本がこれまで描いてきた/これからも描く 「Tokyo 2020」のシナリオ、コロナ禍を機に新たな標語となった「新しい生活様式」・ ・・、様々なビジョンが浮かんでは消える2020年の「青写真」を、本作はビルボードとして描き出しています。
ANOMALY
いまこの状況の日本だから意味がある言葉を街なかに掲げた上で、それ自体に街の姿を写し取らせるという部分がとても興味深いと思いました。
紹介文でも「変わらずあった外気の痕跡を時間と共に「焼き付け」」たとあるように、コロナ禍で無くてもパネルは似たような姿になるのだと思います。けど、やっぱりそこに「TOKYO 2020」とかのある意味でブランドが付加されている意味は大きいのだと思います。
つまり、この看板を後で見返せば「緊急事態宣言下の街だよ」と言えるわけですもんね。空気を缶に詰めて売る「平成の空気缶」と似た効果があったりするのかな~と考えました。
展覧会場内の様子はこんな感じ。
屋外に設置されたパネル。
近くで見ると汚れとか傷とかがしっかりと見えました。
屋外に設置された時の様子はこんな感じ。
この作品のコトを知っているので、こうして写真を見るとパネルが異様に目立って見える気がします。一方で、広告でもなくこれだけ目立つ看板なのに、外出が減ったことでひと目に触れる機会が少ないところが面白いです。
A Drunk Pandemic
「A Drunk Pandemic」はマンチェスターを舞台に2019年に行われた芸術フェスの一部です。19世紀にコレラ死者を埋葬した廃墟でビールを醸造し、公衆便所を改造したパブで販売。さらに、店のトイレから下水道を延長して客の尿を回収し、セメントブロックを量産してマンチェスターの街へ出荷しました。
「A Drunk Pandemic」は、マンチェスターの地下にある19世紀にコレラで亡くなった人々が大量に埋葬された廃墟に「ビール工場」を設置し、オリジナルビール「A Drop of Pandemic」を醸造したプロジェクトです。
[…] このギャラリーでのインスタレーションは、その際に録音した声などをカットアップしたノン-サイトバージョンです。
産業革命当時、劣悪な衛生環境のまま急激に都市化し、人口が爆発的に増えたマンチェスターでは、労働者の平均寿命は22歳だったと記録されています。近代都市の上下水道などのインフラ整備は、コレラ対策としてなされたとも言われています。当時、煮沸してから醸造されるビールは、「水か酒か」という議論がなされたほど、生水の代替品 として考えられていた飲み物でした。
会期中、Chim↑Pomは醸造したビール「A Drop of Pandemic」の直営パブとして公衆便所を改装して「Pub Pandemic」を屋外に開店。 更にそのトイレから下水道を延長し、会場内に設置したブリック工場「Piss Building」で尿を硬化させたセメントブリックを量産し、最小単位の建築素材として街に出荷しました。
密かに増殖するビール、おしっこ、ブリック、そして酔っ払いたちが、忘れられた記憶を伴い外へと拡散されるプロジェクトでした。
ANOMALY
「コレラ死者を埋葬した地下廃墟でビールを醸造して、公衆衛生を象徴するような公衆便所を改修した店舗でビールを販売して、さらにトイレから下水道を伸ばした先で客の尿からセメントブロックを製造して出荷する」という、この繋がり。
考えることが凄いです。また紹介文にもありますけど、都市の歴史やインフラを全部巻き込んでいるプロジェクトなのがまた凄いです。サイトスペシフィックってやつですかね。
これはコロナ禍でなくとも非常に面白いし、コロナ禍に当てはめて考えられますよね。コレラでは公衆衛生の観点から都市インフラ整備というハード面が大きそうですが、コロナ化では「マスク」とか「オンライ化」とかソフト面の変革が大きいのかなーなんて思います。
この「A Drunk Pandemic」は2箇所に分かれていて、まず「1」では英国マンチェスターで行われたプロジェクトをベースに映像や音声で再構成されたものです。
会場内の全景。
映像を投影するので、暗幕で覆われており、薄っすらと室内の様子がわかる程度。(写真はスマホの夜景モードを使いました。フラッシュではないです。)
案内役の肖像画と、ビール瓶。
会場内に積み上げられた「C↑P」と刻まれたセメントブロック。
第2会場は、マンチェスターで出店したパブを再現したスペースとして構成されていました。
展示とパブの様子。
販売したビールやセット、その他の装飾など。
ビール瓶のラベルとかもそれぞれ凝っていて面白かったです!
ちなみに、受付が注文すればビールも飲めます。
ただ、Chim↑Pomがこのプロジェクトで醸造したビールではなく市販のものだったのでわざわざ頼みませんでしたけど。
マンチェスターでのイベントの告知ツイートや紹介ツイートがあったので、一応掲載しておきます。
②《A Drunk Pandemic》(2019)では、19世紀コレラの犠牲者が埋葬されたマンチェスターのマスグレイブ廃墟に「ビール工場」を設置し、オリジナルビール「A Drop of Pandemic」を醸造。コレラや酵母といったバイオ的なプロセスを可視化し、下水道などのインフラにまつわる歴史的な関係を文脈とした。 pic.twitter.com/acx4t3enZZ
— Chim↑Pom (@chimpomworks) June 22, 2020
Chim↑Pom個展の感想と写真でした!
この日、ついでに東京駅に寄りました。
丸の内口の広場に設置してある東京オリンピックのカウントダウン・タイマーを撮影しておきました。延期が決定していたので、7月3日時点であと384日23時間でした。
読んでくださり、
ありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!
【関連記事】
「都市と社会」に関わる記事です。
似たような内容や、色々と考えることができるので、ぜひ!